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第1話 乳頭カメラ

発明部部長虎ヶ崎ハジメと

部員の永地英一によるピュアで切ない純然たる純愛のボーイミーツガール物語。


第一話 乳頭カメラ


からどうぞ。

「うわぁ……」


 ああ、完全に轢殺したなぁと言うのがあたしの印象であった。


 実際、スピードメーターは二百に近かったのは事実だ。あたしはまるで小学生の少年がゲームセンターのレーシングマシンに乗った時のように、うりゃ、と身体ごとアクセルを踏み込んでいたのだ。まぁ、どれだけのスピードが出るのかと言う好奇心に勝てなかったと言うのが正直大きい。




 今、この車と言う鉄塊で直撃をぶちかましたのは、どうもうちの学校の生徒のようだった。




 車を降りて状態を確認する。ぶつかった瞬間に少年がこう、格闘漫画のように大きくぶっとんでいったので多分戦闘民族でなければ死んでいるだろう。道路の真ん中で動かない少年は妙に赤かった。ミートソースみたいだった。なんか、モッツァレラチーズみたいなのが出ていた。顔は好みのタイプ。しかもこの顔は……生粋のマゾヒストの顔だとあたしは思う。少年の綺麗な顔にちょっとだけ魅かれた。轢いたんだけど。


 10年に1度の素体に違いない。あたしがそう思った時だった。


「う……ん……」


 動いたッ! まだ息がある。あたしは携帯を取り出した。救急車? いや、違うね。これはあたしの領分だ。素敵で無敵な天才発明家である、あたしの。


「あ。もしもし? じいや? うん、うん、いやー、轢いちゃった」


「な、なんとおっしゃいましたか!? 事故ですか!? お怪我は!?」


「ん? 怪我? あたしはないけど、この人は、なんかボーナスステージの樽みたいになってる」


「おおお……」


 どうもじいやは言葉にならないらしかった。まぁ、当然だろうが手配はしてもらわないといけない。


「このままオペに入るしかなさそうだから、ちょっと人手ちょーだい」


 幾許かの沈黙の後。


「……わかりましたハジメ様。搬送後、現場には一切の物的証拠も残さぬように致します」


 そういう事ではないのだけれど。


 電話を切って何分、いや、何秒もしないうちだろうか。ウチの者達が颯爽とやってきて、ミートソース君(仮)を秘密の部屋へと運び込む。現場が学校の前だったのが幸いした。四階の視聴覚室にその部屋はある。男達が何名もいるおかげで運搬自体はあっさりと終わった。


「じいや、アレとアレを用意しておいてくれ」


「かしこまりました」


 じいやの事だからあっと言うまに用意してくれるだろう。


 うん、アレとアレをまぜて肉体を再構築しよう。大丈夫、きっとうまくいくさ。久々の大偉業になるに違いない、あたしはそう確信していた。




 そっと手術台を見ると横たわるミートソース君(仮)は綺麗な顔をしている。赤いけれど。所持品を漁ったところ、名前は永地英一。エロそうな名前である。しかし、あたしはとても気に入った。めぐり合わせとでも言うのだろうか。運命とでも言うのだろうか。あたしは確かに、彼がぶっとんで行くときにびびびっと電気を感じたのだ。手術成功の暁にはあたしの愉快で痛快な仲間しもべとしようと思っていた。





 そして……


 大量のアレとアレが、まざった状態で届けられた。 




 じゃあ、はじめようか。


 オペの時間だ! 








   ■ 第一話 乳頭カメラ




     4月8日(月) 午後6時




「ここ、どこだ」


 僕は目を覚ましたが、この場所が解らない。何故ここで寝ているのか? よく思い出せないでいた。どこだろう、ここは。ウチの学校の男子寮に似ているが少し違うようだ。カーテンの向こうが暗闇に落ちかけているので、もうすぐ夜だと言う事は解る。ん? 何だ、微かないい匂いがするぞ。これはシャンプーか何かの匂いだが……とにかく何もかも良く解らない僕の目の前に、誰かいる。


「誰?」


 僕はそっと聞いた。なぜかと言うと、その「誰か」は横になって仰向けで眠る僕の上にまたがった人間だったからだ。筋肉隆々のどこかのアニキが乗っかっていたら大声をあげるところだが、どうもそうではない。しかし、流石に恐怖を感じる。


「起きたな!」


「起きたけど……誰? ここ、どこ?」


 僕の質問に、その子はにっこりと、いや、ニヤリと微笑んだだけで、返事はしなかった。中性的な男の子のようにも見えるが瞳を見る感じでは女の子だろう。まつげとか長いし、華奢だし。まぁ、この子、女子の制服の上に白衣を着ているので、女子だろう。何より何かいいにおいがする。女の子の匂いだ。何がなんだか解らないあやふやな中でも欲情せざるを得ない。


「成功だなー」


「え? 成功?」


「いや、こっちの話」


 現状が、良く解らない。思い出せ、僕。


 確か、そう、入学式だ。




 八日が入学式で、僕はそれに出るはずだったんだ。あれ、入学式の記憶が無いな。寝過ごしたのか? いや、そんな訳は無い。だって、僕は六日の時点からこの学校の寮に入っていたんだから。男子寮で、二人部屋で、そうだ、尾崎君だ。尾崎星月くんだから、アダナはホッシー。一緒の部屋になったんだった。それなりに仲良くなれそうだった人だ。あれ、ホッシーはどこだ。あのセンター分けどこ行った。何故いないのだ? 今日は何日なんだ?


「ねぇ、君……」


「ハジメ」


「え?」


「虎ヶ崎ハジメ。よろしくな、英一」


「え? ああ、うん」


 よく解らない。この子は誰だ。ああ、ハジメか。あれ、だから、ホッシーはどうなったんだ。ホッシーが水をかぶって女にでもなったのだろうか? ん……なんだ、この部屋、良く見ると造りが男子寮と同じだ。つまり、男子寮だとは思うけれど、誰なんだ、この子は。ああ、ハジメか。あれ、何か良く解らないぞ。


「僕……どうしたんだっけ?」


「今は考えないほうがいいよ、ここは女子寮」


「へぇ、ああ、じゃあいっか……って、女子寮?」


「そうだ」


「僕、女子じゃねーよ?」


「そうだね」


「じゃあ、男子寮に帰るわ。誰か知らないけどありがとう」


「いや、無理だから」


「君が何を言っているのか解らないよ」


 その後に。その華奢な可愛い女の子は、ひょいっとベッドを飛び降りて。


 こちらを見ながら身体をちょっと横に倒して、にっこりとして、言った。


「だから、君とあたしは一緒に女子寮で暮らすんだよ」


「へー。何故?」


 この女が何を言っているか良く解らない。


「君とあたしが同じ部屋なのに理由がいるかい?」


「いるだろ」


「いらないの」


「いるよ!」


「いらないの!」


「なっ、なんだよ、あれだよ、僕のルームメイトはホッシーだろ! あのセンター分けの。ものすっごいど真ん中で分かれたセンター分けの」


「うるさい! 大体そのセンター分けは男子寮にいるんだ。英一、君が女子寮に来てるんだぞ」


「嘘だぁ」


「ホントだよ、それにそのホッシーの部屋には代わりを送ってあるし……って、英一!」


 僕は何も躊躇する事なく、二つのベッドが並ぶその部屋をつかつかと歩いて扉まで行き、颯爽と部屋の外へ出た。


 そして、息を飲むのである。




 女子ばかりが歩いている。男子寮とはなんとはなしに、雰囲気が違う。何人かがこちらを見て、少し奇妙なものを見るような顔をした。一瞬僕の動きが止まる。ぎょっとすると人は動きを止めざるをえないと言うのを思い出した。嘘じゃないのか? ここは女子寮か? 落ち着け。僕は女子じゃない。うん、大丈夫。僕は自分の膨らんでいない胸を触りながらそう確信する。は!? まさか……!? い、いや、大丈夫だ。今確認してみたがしっかりついている、何も問題はない。


「ほ、ほんとに女子寮じゃないか」


「そだよ」


「そだよって……あんた、誰ですか」


「だから、ハジメだって。よろしくね」


 そう言って、凄く乙女的に手を頬に寄せて、ハジメが言った。ボーイッシュな顔立ちだが髪の毛はボブカット。リスみたいなくりっとした瞳。薄めの唇。小さな顔。綺麗な鎖骨……何故か白衣を着ている。はっきり言ってよく見ると可愛い。


 


 可愛いが、僕は変態とかかわりあうのはゴメンだ。




「うん、よろしく、って言うわけないだろ」


「えー、なんでぇ」


「可愛く言ってもダメです。僕は男子なんだから、男子寮に……」


「訳わかんないこと言うな」


 えぇ……訳解んないですかね。


 僕が悪いんですかね。


「ん……じゃあ、百歩、いや、千歩譲って僕が女子寮にいるのは認めよう」


「うんうん。英一、素直でよろしい」


「君、本当に女子? ドッキリとかそういうのだろ?」


「失礼なやつだな。どう見ても女子だろう。こんなかわいい顔してるのに」


「胸とかねーじゃん」


「君はデリカシーのないやつだな」


「んー、じゃあ、何故君と僕が同じ部屋になる必要があるの?」


「え……」


 一瞬にして、ハジメの顔が青ざめた。何だろう、何か言ってはいけない事を言ったのだろうか。女子と一対一で話す機会はあまりなかったので、何を言っていいかよく解らない。僕は小学校の時の事を思い出していた。プールを休んでいる女子に何で休んでるの? ってしつこく聞いたらぶん殴られた事を。保健体育の時間に女子だけ別室に呼ばれて出て行った事を何故かとしつこく聞いてぶん殴られた事を。女子達の思考回路は良く解らない。僕の思考回路はショート寸前である。


「ねぇ、英一。本当に覚えてないの」


「え? な、何の事?」


「本当に? 本当に今日の事覚えてないの?」


「え……ええ」


 覚えていない僕。今日と言うのは多分入学式の日である今日の事を意味しているのだろう。僕とホッシーは六日にルームメイトになって、七日は寮で一緒に遊んで、明日は入学式だな! 最初のテスト勝負だ! とかそんな会話をしたんだ。ホッシーは俺様は負けるわけない、みたいな事を言っていて、あ、こいつはとても馬鹿だなと思ったんだ。うん、そうだ。


 夜の校舎で窓ガラスは割ったりしない良い子な僕らは普通に入学式に出る予定だったのだ。だから、この夜の帳が下りた外の景色を見る限り、僕は入学式に出ているか、もしくは他の何かをやっていて出ていないか、のどちらかだ。だめだ、思い出せないぞ。


「う……」


「覚えてないの? 英一。でも、覚えてないならそれはそれで構わないよ……」


「う、うん」


 良く解らず頷く僕。このハジメの言い分だと、この八日に何かあったのだ。やっちまったのか? 僕が覚えていないだけで、彼女は何かを知っているのだ。この言い分だと、きっとこの女、ハジメと何かあったと考えるのが妥当だが……


「ね、英一。こっちに来て」


「え、ええ、うん」


 部屋の左端と右端にベッドが並んでいるのだが、ハジメはそのベッドの横に立って僕を呼んでいる。その呼び方が妙に艶っぽくって僕は思わずいけない事を考えてしまった。そっと白衣を脱いで、制服の胸元にあるリボンをゆるめているハジメ。頬は上気に染まっていた。


「英一、全部思い出させてあげる」


 そっと僕の手を引くハジメ。リボンをはずした事で首筋があらわになる。白くて華奢な首とその肌が、夜の暗がりに浮かび上がる月のように幻想的に見えた。


「ね、ほら、胸。触ってみて」


「え? ええ?」


「いいよ、英一。ほら、ちゃんとあるんだから」


「えええ」


 良く解らないシチュエーションになっている。落ち着け、落ち着け僕。いや、でも据え膳食わねばなんとやら、母方のおじちゃんがよく言っていた。僕はひとつ息を飲んで、そっとハジメの胸元に手を伸ばす。僕の緊張しきった指先が、ハジメのやわらかな制服を纏った白い丘の上に触れる……




 ところだった。


 触れた瞬間、部屋中が強く、白く輝く。




 カシャリ。




「……な、何の音ですか」


 僕は混濁する頭の中でもそれを判断出来た。シャッター音だ。フラッシュもたかれていた。


「ふふふ、えっちな英一に説明しよう!」




    ■ 発明ナンバー101  乳頭カメラ


 発明家ハジメが開発した百一番目の発明品。乳頭に設置したセンサーと連鎖反応してシャッターが下りるように改良されたカメラ。主にセクハラ対策に使う。他にも愛の記念の一枚を残したいときなどに。ポラロイド型ですぐに写真は完成し、かつそれはすぐにハジメのパソコンにデータとしても送信される。




「な、なんだよ! ちくびのカメラ……?!」


「もう、英一のえっち。ちくびとか言うなよ。乳頭だよ、乳頭」


「ど、どう違うんだ」


「まぁ、と、言う事で、うまいこと英一があたしにセクハラした瞬間の写真がとれましたー」


 確かに置いてあったカメラは写真を既に作り出していた。完全にすけべな顔をした僕が少女の胸を触っている写真が仕上がっている。


「な……な……ええ?」


「何を隠そう! あたしはこのガッコで発明部を営む発明部部長、虎ヶ崎ハジメさまだあー。助手が欲しかったので英一、君を罠にはめたわけだ!」


「な、き、汚いぞ!」


「あたしの乳頭は汚くないぞ、ピンクだ」


「そ、そう言う事じゃない!」


「ピンクだ」


「2回言わなくていいから。だいたい助手って何だ」


「お前はこのあたしの生体実験の被験体となるべく定められているのだ」


「ひ、被験体?」


 ハジメは枕元にあった本を手にとりこちらへ向けた。


「見ろ、この預言書を……未来を書いたこの預言書に、英一がこうなる運命であることが記されている」


「……その本、ハジメの日記帳?って書いてあるけど」


「うるさい!」


 ごすん、と有無を言わさず本の硬いところで殴られた。痛い。


 





「まぁ、すけべそうな顔の英一がひっかかるのは目に見えていたがなー」


「くっ……しかし、そんな写真」


「英一、良く考えて行動するんだ。女の子はいつだって被害者なんだぞ」


「な、なんてやつだ」


「あたしが明日この写真を学校中に配ったらどうなるかなぁ。きっと永地英一、君はこれから三年間、エッチ君と言うアダナになるんだろうなぁ」


 なる。


 間違いない。


「英一が逃亡行為をとる場合、あたしは泣きながらみんなに訴えるけど。今日、入学式だろ、中学三年間、ずっとエッチの塊みたいな目で見られるんだろうなぁ。保健体育キングとか夜の帝王とか、むっつりハイスクールロッケンロールとか呼ばれるんだろうなぁ」


「くっ……」


「まぁ、そうなりたくないんだったら、あたしの言う事聞いて、ちゃんと助手をするのだ!」


 反論が出来なかった。僕には中学三年間をエロスにまみれた野郎だと言う目で見られながら暮らす、勇気が無かったんだ。


「僕、野球部入るつもりだったんだけど……」


「発明部に、はいるの!」


「マジ?」


「うん、マジ。大体そのちっさいバットで何を打つって言うんだ」


「なっ、どういう意味! みたことないくせに!」


「え? うん、そうだね、みたことないねソーセージ」


「何その語尾!?」


 ソーセージ野郎みたいな言われ方をする僕。




 


「いいじゃんいいじゃん、発明部で」


「……ハジメ、一年生だよな?」


「そうだよ」


「なんで部長なの」


「あのね、ここ、ウチの学校なの。ウチのじーちゃんが理事長やってるのだあー、だから、部活もあたしが作ったの。あんまり英一が素直じゃないと……解ってるよね、英一がこう、なんだ……何故かある朝、転校を勧められたりするわけ」


「ああ……」


 虎ヶ崎はじめ、虎ヶ崎……


 そう、ここは私立虎ヶ崎中学校。




 私立虎ヶ崎中学校、一年一組、永地英一。




 良く解らないうちに女子寮に入り、おっぱいを触ったせいで脅され、発明部へと入る事が決まった。






「じゃ、とにかく宜しくな!」


「う、うん」


 ハジメは手を差し出しながら元気いっぱいにそんな風に言うので、つい手を差し出してしまう。


 ぎゅっと握手をした手が妙にちっちゃく感じた。本当にこの子と何かあったのだろうか。やはり思い出せない。


「で、さ。結局僕、今日の事全然覚えてないんだけど、ハジメ、何か知ってる?」


「し、知らないよ」


「……知ってるだろう」


「し、知らないと言っているだろう。なんだ、もんくあるのか。校内放送で英一君は10年に一度のスーパー変態で、女物の下着を煮詰めて醤油で毎日食べてます、それでは給食を頂きましょう、って給食の度に流してやろうか?」


「い、いいです、何でもありません」


 


 そうして、良く解らないまま夜が更けていく。

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