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―第3章― 人情を褪せさせる為の死神の「諦念」

 真っ黒な世界。

 闇に包まれている室内で、手元のプリントだけがかろうじて形を保っていた。

「…輪廻転生者の減少、ね」

 本物の神の署名が入った論文。

 色分けされたグラフは、輪廻転生者が年々減っていることを残酷なほど明確に示していた。

 小さく吐いた溜め息は白い煙のように気化していく。

 椅子に身を預け、暗闇に沈む部屋を見渡した。

 ここは空の上――死者の都。

 だが、何十年とここに居ても「空の上」だという実感は微塵も湧かない。

 俺はあいつらが言った通り、死神だ。

 ただし、神ではない。

 死神という役職は選挙によって選ばれ、それぞれの国の政治を担い、上にから指示があれば下界へ降りて死者を連れてくるという仕事だ。

 だから、あの時言った「殺そうと思えば簡単に殺せる」なんてのは、ただの脅し。

 死神にそんな権限はない。


 ただ。

 そんな死神でも特別に与えられている権限が2つだけある。

 ・死者にとって重要な日だと判断した場合の最大6ヶ月の延命権利。

 ・自分の輪廻転生を代償に、生者に100年の寿命を与えられる権利。

 どちらも滅多に使われることはない。

 俺自身、一生使うことはないと思っていた。

 死ぬと分かり切っているのに本気で悔しそうな眼差しを浮かべる奴に、最後の最後まで生き返ってくれる事を心の底から願ってる奴に、生きられる方法を未だに探し出せると信じてる奴に。

 俺は人情ってものが湧いてしまったのだろうか。

 まあいい。

 どうせ、人間だ。

 人間は嘘をつく。

 そして、相手を疑い、羨み、毀れる。

 そんな人間にミッションをさせた所で、結果は目に見えている。

 成功するのは空想上の物語だけ。

 失敗したその時に、一ノ瀬千夏を殺せばいい。

 そう、ただそれだけだ。


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