旅立ち
農村アルスの片隅、朝焼けが田畑を淡いオレンジ色に染めていた。15歳の少年ジュノは、家の前で荷物を背負いながら深呼吸をする。農家の末っ子として生まれ育った彼は、幼いころから農作業を手伝いながらも、いつかこの村を出て冒険者として大成することを夢見ていた。
両親や村の人たちからは無謀だと反対され、兄からは「お前など魔物にすぐ喰われるのがおちだ」と非難された。ジュノはそんな言葉に悲しみを募らせながらも夢を諦めることはなかった。毎日がむしゃらに剣を振り、家を手伝いながら一人前といわれる15の歳になるまで鍛錬をつづけた。
今日は、その夢への一歩を踏み出す日。見送りなど誰もいない。
カイルの心は期待と不安、少しばかりの罪悪感で揺れていた。
「本当に、行っちゃうんだね。」
聞き覚えのある声に驚いたジュノ。
その声の主は幼馴染のレナだった。一つ下の彼女は牧師のおじさんの娘で、やいのやいのとうるさく年下のくせに世話を焼きたがるうざったいやつだ。
最後の最後まで小言を言われるのかと顔を歪ませる。
「行くにきまってんだろ!」
そう言って彼女を振り返ると、レナは自分を睨みつけるようにして拳を震わせていた。
「これ、持って行って」
急に突き出された拳にビビりながらも、手を差し出す。
「な、なんだよ。」
差し出した手のひらにポトッと落とされたものを見てジュノは目を開く。
それは村に伝わる御守りの首飾りだった。小さな魔力石をあしらった素朴な作りのもの。
「おまえこれって・・・」
ジュノは驚いてレナを見る。
レナはジュノを睨みつけたままなにも言わなかった。その瞳にはうっすらと涙がたまっていた。
レナを見て動揺したジュノは拳を握りしめ逃げるようにその場から走り去った。生まれ育った村を横目に走り、村から出ても走り、息が切れても拳を強く握り走り続けた。走り続けなければいけない気がしていた。
レナはその姿をジュノが見えなくなっても睨み続けていた。