かっこ悪い俺とかっこいい彩芽――2
登校してはみたものの、彩芽のことが気がかりでしかたなくて、俺はずっと上の空だった。
隣の席が空いていることが、微笑みかけてくる彩芽がいないことが、こんなにもむなしいとは思わなかった。まるで、心が欠けてしまったみたいだ。
そんな状態なので、授業の内容はちっとも頭に入ってこない。ただただぼんやりと過ごし、気づけば昼休みになっていた。
由梨さんから弁当を渡されているけど、食べる気になれない。自分の席に座ったまま、呆けたように虚空を眺める。
「大丈夫か、哲?」
「なんだか今日、ずっとぼんやりしてるよね?」
ボーッとしている俺を心配してくれたのか、修司と知香が声をかけてきた。
「もしかして、高峰さんとケンカでもしたのか?」
「彩芽ちゃんも美影ちゃんもお休みだしね」
隣の空席に目をやって、ふたりがそんな推測をする。
俺と彩芽のあいだにトラブルがあったのはたしかだ。しかし、俺と彩芽の関係を知らなければ、『俺がボーッとしていること』と『彩芽とのトラブル』は結びつかない。
だとしたら、確定だ。
「やっぱり、ふたりは彩芽の協力者だったんだな」
「ありゃ、バレちゃったか」
「いやー。どうしてもって彩芽ちゃんからお願いされちゃってさー」
悪びれもせず、「「たはー」」とふたりが頭を掻いた。
まあ、ふたりが彩芽に協力していたのは、単に面白がっていたからではないだろう。おそらく、俺のためを思ってのことでもあったはずだ。
誰とも付き合ったことがない俺に、カノジョができるチャンスが訪れたのだ。お人好しの修司と知香のことだから、彩芽と付き合えたら俺が幸せになれると考えたのだろう。
想像がついたから、ふたりに悪びれる様子がなくても、怒る気にはならかなった。
苦笑して、俺は思う。
修司と知香は彩芽に協力していたんだから、どうなったか伝えておくべきだよね。
そう判断して、打ち明ける。
「二日前に彩芽から告白されて、断ったんだ」
「そうか……高峰さんの恋は叶わなかったか」
「脈アリっぽかったけどねー。ただ、哲くんが責任を感じる必要はないんだよ?」
「付き合うかどうかは哲の自由なんだしな。高峰さんのことを好きになれないんなら、しかたねぇよ。だから、お前がヘコむことは――」
「いや。好きじゃないわけじゃないんだ」
「「へ?」」
俺を元気づけようとしていたふたりがポカンとして――
「むしろ、異性として魅力的だと感じている」
「「はぁ?」」
心底わけがわからないと言いたげに、眉をひそめた。
「じゃあ、どうしてフったんだよ?」
「魅力的に感じるなら、付き合えばよかったじゃん」
「できないよ。俺に、そんな資格はないんだから」
「「資格?」」
俺の返答に、ふたりが首を傾げる。
彩芽の告白を断った理由を説明するには、俺のコンプレックスを明かさなくてはならない。とはいえ、ずっと抱えてきた後ろ暗い部分をさらすには、勇気が必要だ。どうしても躊躇してしまう。
けど、ふたりは中学時代からの親友だ。修司と知香になら、打ち明けても構わないのではないだろうか?
悩み、ためらい、葛藤して――重い口を開いた。
「俺さ? 『恋』がわからないんだ。誰かを好きになったことはあるけれど、『恋』と呼べるほど心を揺さぶられたことがなくて……」
俺の告白に、ふたりは黙って耳を傾けている。
「それに、彩芽のほかにも、魅力的に感じているひとがいるんだ。そんなの浮気でしょ? 許されることじゃないよ」
語れば語るだけ、醜い自分を直視させられる。忌まわしくて、情けなくて、ギュッと拳を握りしめた。
「こんな軽薄なやつが、彩芽に愛されていいはずがないでしょ? 一途で真っ直ぐな想いに、応えられるわけがないでしょ?」
問いかける俺に、修司と知香が神妙な顔を向けて――
「「いや、どうしてそうなる?」」
「え?」
呆れかえったと言わんばかりの半眼になった。