偶然? ――6
目を白黒させる俺に、彩芽が人差し指を立ててみせる。
「哲くんは、『同調現象』というものをご存じですか?」
「どうちょうげんしょう?」
「自分の意見や行動を、周りのひとたちの意見や行動に合わせてしまう心理効果のことです。たとえば、文化祭の出し物を決めるとき、自分以外の全員が同じ出し物をやりたがっていたら、その出し物が気に入らなかったとしても、賛成しなくてはならないような気持ちになりませんか?」
「たしかに。自分だけが反対したら気まずいもんね」
「はい。いまのわたしたちも同じなのではないでしょうか?」
「同じって?」
「わたしたちの周りでは、たくさんのカップルさんがイチャイチャされています。ですが、わたしたちはイチャイチャしていません。だからこそ、わたしたちは居心地の悪さを感じているのではないでしょうか?」
「それは違うと思うけど!?」
「いえ! きっとそうです!」
反論する俺を圧倒するように、彩芽が力強く断言する。いつになく強気な姿勢だ。
そ、そうなのか? 彩芽のほうが正しいのか? 俺は間違っているのか?
彩芽があまりにも自信たっぷりなものだから、俺は混乱に陥ってしまう。
その隙を突くかのように、彩芽ががんもどきを差し出してきた。
「ど、どうぞ……あーん」
「ちょ……っ!? か、間接キスになっちゃうよ!?」
「わたしは気にしません!」
「俺が気にするんだけど!?」
「ですが、このままでは、いつまで経っても居心地が悪いままですよ?」
「う、うう……っ」
茹で蛸みたいに赤い顔をしながらも、彩芽に引く気配はない。
は、恥ずかしいけど、あーんを受け入れないと居心地が悪いままなんだよなあ……けど、そもそも彩芽の理論って、本当に正しいのか? ああ、もう! なにがなんだかわからないよ!
処理する情報が多すぎて、脳みそがオーバーヒート。
まともに考えることができず、彩芽に促されるまま、俺は口を開けてしまう。
「あ、あーん」
「はい。あーん」
差し出されたがんもどきをパクリと一口。
恥ずかしすぎて、まったく味がわからない。
「つ、次は、哲くんの番ですね」
「俺もするの!?」
「もちろんです! お互いにしてこそのイチャイチャですから!」
「た、たしかに?」
「ですから……あーん」
「わ、わかった……あーん」
ひな鳥みたいに口を開ける彩芽に、目をグルグルさせながら玉子焼きを食べさせた。
その後も食べさせ合いっこをした結果、食事を終えるころには、俺の頭は完全に茹だりきっていた。
彩芽も真っ赤な顔になっていたが、なぜだか肌はツヤツヤしていた。