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夢みたいだけど心臓に悪い状況――7

「ふむふむ」と頷いていると、美影が呟きをこぼす。


「ですが、わたしは間違っていたのかもしれませんね」


 いつも凜々しい彼女にしては珍しく、弱々しい声だった。


「あなたと親しくなってから、彩芽様はとても楽しそうに笑われるようになりました。このような彩芽様は、幼いころから仕えているわたしでも、見たことがありません」


 美影が苦笑した。切なそうな笑みには、色濃い自嘲が滲んでいる。


「わたしは、必要以上に男性を警戒していたのかもしれません。もしかしたら、(しん)に彩芽様を思いやっていた方がいらしたのかもしれません。そんな方々すらも、わたしは遠ざけてしまった。そうしなければ、彩芽様はもっと楽しい日々を送られていたかもしれないのに……」


 彩芽の寝顔を眺める美影。黒真珠の瞳からは、彩芽への愛慕と、自分の行動に対する後悔が見てとれた。


 ポリポリと頬を掻いて、俺は口を開く。


「たしかに美影は、男性に対して当たりが強すぎたと思う。けど、自分を責めることはないよ」

「……そうでしょうか?」

「そうだよ」


 罪悪感に囚われる必要なんてない。そう美影に伝えたくて、俺は迷いなく頷いた。


「彩芽は多くの男性から狙われていた。美影がそのひとたちを追い払ってなかったら、ひどい目に遭っていたかもしれない。心に傷を負っていたかもしれないんだ。そうならないように守ってきたのは美影じゃないか。いま、彩芽が笑っていられるのは、美影がいたからじゃないか」


 美影がハッとする。


 目を見開く美影に、俺は笑いかけた。


「ここまで誰かに尽くせるひとは、そうそういない。誇るべきことだよ。だから、自分を責めなくていいんだ。献身的に彩芽に仕えている美影は、とっても素敵なひとだよ」


 言った途端、美影がジト目になった。


有罪(ギルティ)です」

「へ?」

「なにを仰っているのですか、あなたは?」

「い、いや、俺は、ただ美影を励ましたくて……」

「そのような言葉は彩芽様に贈るべきです。わたしに向けるなど、見当違いも(はなは)だしい」

「なにそれ? どういうこと?」

「反省してください。次はないですよ」

「怖い!」


 理不尽な物言いに、俺は泡を食う。


 はぁ、と溜息をついて、美影が顔を背けた。


「とにかく、あなたは彩芽様だけを見ていればいいのです。わかりましたね?」

「わ、わかりました」

「以後気をつけてください。では、失礼します」


 俺が呆然とするなか、美影が部屋を出ていく。彼女の顔は見えなかったけど、髪の合間から覗く耳は、真っ赤になっていた。


 残された俺は、目をパチパチとしばたたかせる。


「……もしかして、素っ気ない態度は照れ隠しだったのか?」


 独りごちて、ぷっ、と吹き出した。


「怖いひとだと思ってたけど、案外、可愛いところもあるんだなあ」

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