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神を狩る  作者: アキナカ
もう一人の狩人
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もう一人の狩人③

 完全回復からさらに数週間が経った。俺は今、街の外に出ている。目的は狩りではなく、鍛練だ。


「どうです!? 今度こそうまく出来たでしょう!」


 そこには嬉々として“卵”を手渡してくる姫サマがいた。《狩人》の装束に身を包み、頭には角を隠すためのバンダナを巻いている。


 確かに、見た目はうまくできている。

 刃物で“卵”の断面をカットしたあと、中に炸裂音のする火薬を仕込む鍛練。手先がそれほど器用でない姫サマは、これに数日苦戦していた。


「まあ、見た目は問題ないですね」

「でっしょう?」

「問題は…強度!」

「ああっ!!!」


 俺は姫サマが仕込みを行った“卵”を空中に放り投げる。するとどこにもぶつかっていないにも関わらず、“卵”は空中で破裂して強烈な炸裂音を鳴らして中身が弾け飛んだ。


「断面の斬り方が甘いんすよ。だからわずかな衝撃で破裂する。やり直し」

「はぁい」


 しぶしぶ、といった様子で姫サマは“卵”の仕込をやり直す。


 つまり姫サマの計画とは、自身が《狩人》になるというもの。《原初の獣》を、今度は自分で狩るために。


 当然その計画を言いだしたときは反対したが、言って聞くような娘ではなかった。結局強引に押し切られる形で、俺も指導役を引き受けてしまっている。


 姫サマはまだ正式に《狩人》と認められたわけではない。新人の《狩人》は、上級《狩人》の指導の元にD級相当の神獣を狩って初めて、最低ランクであるD級《狩人》として認められる。


 《狩人》になるためのパターンは大きく分けて二つ。


 一つはC級以上の《狩人》から推薦を受けたうえで、《狩人》の適正試験に受かること。これがいわば、ギルド所属の《狩人》にとっての正規ルートだ。

 ただしこの方法では試験に数ヶ月かかるうえに、素性の怪しい人間は審査段階で弾かれる。おそらく、ウィグリッドの名がなくなった姫サマは審査でアウト。


 そしてもう一つの手段は、《狩人の宝刀》を自前で用意すること。

 そうすれば、細かい認定試験をすっ飛ばして《狩人》適正さえ認められれば《狩人》になることができる。

 《狩人の宝刀》は限られた資源だ。それをギルドから支給されるためのハードルは高いが、自前で用意すれば問題はない。

 むしろ未熟な《狩人》が道半ばで倒れれば、ギルドが《狩人の宝刀》を回収して所蔵できるという狙いもあるのだろう。


 姫サマが選んだ道は、もちろん後者だ。

 俺たちの手元には、アドンで回帰派の《狩人》から拝借した《狩人の宝刀》があった。これはまだ借りておこう。それこそ永遠に。


「はっ! せい!」


 続いては、近接戦闘の訓練。状況に応じてさまざまな狩猟武器を使いこなせるように、《狩人》は訓練段階で多くの武器の扱い方を学ぶ。


 今は基本中の基本。剣術からだ。

 力任せに打ち込んでくる姫サマの剣を、軽くいなす。姫サマはぜえぜえと息を切らしながら、なおも懸命に模造刀を振り回す。


「こん…の!!」


 いつまで経っても有効打を当てられないことに、苛立つ姫サマ。いよいよ大振りな攻撃をしてきたのを躱し、足を払って転ばせた。


「いったあ!」


 俺は転んだ姫サマに何もいわず、ただ首元に訓練用の模造刀を突きつける。


「~~~~!!!!」


 声にならない声を上げる姫サマ。どうやらいいように転ばされる現状によほどイライラしているらしい。


「なら、切り札を使います!」

「…切り札? ああ」


 姫サマのバンダナから、わずかに蒼い光が漏れだす。姫サマの未来視の神授(ギフト)が発動した印だろう。


「ふっふっふ。いくら素早くても、先が見えれば…そこだ!」


 姫サマは、俺の動きを先読みして剣を打ち込む。だが俺はそれを難なく受けとめ、逆に姫サマの頭を軽く叩いた。


「あ…あれ?」

「確かに未来視の神授(ギフト)は戦闘においても強力ですがね。まだ身体の動きが追いついてない。そのままじゃ宝の持ち腐れってもんです」

「う、うぅ…」


 未来を読んで攻撃しても、その攻撃を見てから反応されたら意味がない。本当の意味で神授(ギフト)を使いこなせるようになるのは、まだまだ先だろう。


「もう一回! もう一回!」


 なおもくじけてない様子で、姫サマは再戦を希望する。大したガッツだ。細かい作業よりも、身体を動かすほうが性に合っているらしい。


「分かりましたよ。ただし今度は神授(ギフト)はなし」

「えぇ~」

「神憑きだってバレたらまずいでしょ? 本当に必要なとき以外は、極力、神授(ギフト)は使わないこと」

「はぁい」


 またも、しぶしぶ俺の指示に従う姫サマ。素直なんだか素直じゃないんだか分からない。


「ほら姫サマ。行きますよ」


 だが、姫サマは構えない。


「どうしました?」

「敬語」

「はい?」

「敬語、やめないと」


 そういえば…そうだった。一応、俺たちは師弟関係ということになる。姫サマの出自を怪しまれないためにも、敬語をやめるように姫サマが提案したのを忘れていた。


「じゃ、アゲハ」

「よろしい」


 よろしいんだ。なんかまだ偉そうじゃない?


「となると、そっちからの俺の呼び方も変えたほうがいいかな?」

「なんてです?」

「師匠、って呼ばないと」

「えぇ…」


 なぜか釈然としない様子の姫サマ…もといアゲハ。


「……ししょー」


 なんか棒読みじゃない? まあいいか。

 こうして下準備や戦闘の基礎訓練は、紆余曲折ありながらも順調に続いていた。そろそろ、実践的な訓練に移ってもいいころだろう。

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