表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神を狩る  作者: アキナカ
一振りの勇気
62/73

一振りの勇気③

「借りるぜ…ジョルジュ!」


 “卵”を地面に叩きつけ、煙が上がる。気絶したジョルジュから拝借してきたお手製の妨害煙幕だ。視界と動きを封じるのに役立つ。


「《蜃気楼の槍》!」


 生み出す分身は二体。煙幕にひるんでいるスキを突き、まずは一頭目の喉を突く。分身たちもまた同時に一頭ずつ仕留めた。


 群れの先駆けが倒されれば群れ全体がしり込みするのが普通だが、どうもこの群れにその様子はない。やはり、血に狂っているのだろう。


「フシュルルル」


 遠目に見えた神獣数体の角が蒼く輝く。見たことのない個体だが、あれらはどうやら同種だ。連携を警戒すべきだと思ったそのとき――構えるよりも先に、複数体が同時に突撃してきた。


 距離は十分に空いていたはずなのに、もう目の前にいる。素早い、というわけでもなさそうだ。俺はその突撃を間一髪で受け止める。避けるわけにはいかない。後ろには姫サマがいる。


「こ…の!!!」


 複数体が連携して同時に襲い掛かってくる。同時ではなく、時間差で襲われていたら危なかったかもしれないが…何とかしのげた。

 反撃しようと槍を振ると、すでにそこに群れはいない。遠くから、こちらの動きをうかがっている。


「なるほどね…」


 あれが、あの神獣の神授(ギフト)か。

 短距離ではあるが、瞬間移動をするらしい。血に狂っているにも関わらず、無意識の連携のとれた動きがやっかいな相手だ。


「それじゃあ…これだ」


 右手に《蜃気楼の槍》、そして左手に構えたのは――。


「グワァウ!!!」

「姫サマ、俺の背中につかまって!」


 またも、神獣の群れが襲い来る。

 空間移動して、複数体が一瞬で間近に迫っていた。


「《重力の大剣》!」


 しかし、そこまでだった。《重力の大剣》の神授(ギフト)によって神獣たちは重力に押しつぶされ、地面にめり込むとやがて動かなくなった。


「こりゃ…すっごいねえ」


 使ってみると、改めて神授(ギフト)の強力さが分かる。

 あのとき、《重力の大剣》を回収しておいて正解だった。いい狩猟武器だ。形見(無許可)として大切にしておこう。


 次々と襲い来る群れを、《蜃気楼の槍》と《重力の大剣》の二刀流で撃退していく。十数頭を無力化したかと思ったところで、群れの様子に変化があった。


 何かが、来る。


「こいつは…」


 その二足歩行の神獣が出現した途端、周囲の神獣たちの空気が変わった。群れに緊張が走り、どこかその神獣に畏れを抱いているような態度で、一歩引く個体も多い。


「…まさかこいつが、《原初の獣》か?」


 あのギガンテよりも一回りも二回りもでかい。長い手足と巨大な牙、そして何より目を引き、警戒すべきは周囲をほとばしるあの蒼い雷光だ。

 伝説に語られている、《原初の獣》の神授(ギフト)とよく似ている。


「ブルルルルァァァァァ!!!!!!!!!!」


 天地に轟くような、超巨大な咆哮。その迫力に、周囲の神獣たちもすっかり委縮してしまっている。

 咆哮が止むと、獣はこちらを向く。俺たちを獲物と見定めたらしい。


「だったら…先手必勝!!」


 俺は腰に付けた“とっておき”を獣に投げつける。シェロが置き土産としてキャンプに残しておいた、ミスリル爆弾だ。

 ミスリル爆弾は、その名の通り着火剤としてミスリルを仕込んだ超強力な爆弾。火薬だけでなく、複数体の神獣の神授(ギフト)を仕込んでおり、その破壊力はケタ違い。

 爆発には神気を流す必要があるので《狩人》以外には使用できない。


「姫サマ、伏せて!!」


 周囲に大爆発が起こる。俺は姫サマを庇うように爆発に背を向ける。


 爆発が終わり、大きく巻き起こった煙が晴れる。

 本当に《原初の獣》であればこんなもので倒せるはずもないが…傷くらいは付けられるだろう。


「…あれ?」


 と思っていたが、結果は意外だった。


 獣は爆発をまともに食らい、腹に大きな穴を空けている。あれはどう見ても、致命傷だ。そのまま獣は、前のめりに倒れた。


 巻き込まれた周囲の神獣たちも被害は甚大のようで、すでに多くが戦意を喪失している。なんて凶悪なもの持たせたんだシェロのヤツ…。


「ともあれ、だ」


 あっけないけど、これで狩りは終わりだろう。だが…。


「これが…《原初の獣》ですか?」

「まだ近づかないように。調べてみます」


 姫サマが不用意に近づこうとしたのを止める。すでに神獣は虫の息だが、万が一ということがある。


 遠目から様子を観察していると、わずかな呼吸音も消え、神獣の動きは完全に止まった。


「これは、せいぜいC級…よくてB級ってとこでしょうかね」


 本当に《原初の獣》であれば、こんな爆弾だけで倒せるはずがない。おそらく、この神獣を呼ぶ血の儀式が長い年月をかけて後世に伝わるうちに、《原初神話》と混ざったのだろう。

 蓋を開けてみれば実にあっけない。やはり《原初の獣》はおとぎ話だったというわけだ。


 よりくわしく観察しようと、獲物に近づく。

 そこで角を見て、気づいた。この獲物はB級でも、ましてC級でもない。この角の輝きと神気の量は、明らかにA級のものだ。

 ならなぜ――こんなあっけなく倒れた?


「違います…私の視た未来に写ったのはこの獣じゃない!」


 どうやらその言葉は正しいようだ。

 前のめりに倒れた獣を見て初めて気づいた。その背中に付けられた、深く長い、えぐられたような傷跡に。爆弾ではない。これこそが、この獣にとっての致命傷だ。

 この獲物は、すでに致命傷を負った状態で逃げてきた。


 ということは――コイツに致命傷を負わせた獲物が近くにいる。


 その神獣は、音もなくいつの間にか、いた。

 まるで、ずっと前からそこにいたかのように当たり前に佇んでいる。

 先ほどの獲物よりもひとまわり小さい体躯ながら、ただそこにいるだけではるかに大きく見えた。顔には無数の斬り傷。

 そしてその身体には――蒼く光る雷光がほとばしっている。


 間違いない、こいつが…こいつこそが、《原初の獣》だ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ