回帰派⑤
「ですから、助けに来ました」
「ということは、ジョルジュもここに?」
「いえ、一人で」
「なんて無茶を…!」
いや、なぜ…というより、どうやってここに来れたんだ? 見張りがいるはずだろう。
「私、昔から勘が鋭いので」
「そんなレベルの問題じゃないでしょ…」
周囲を見回してみると、確かに見張りがいない。見張りの目をかいくぐってここまで来たということか…《狩人》でもない姫サマが?
「とはいえあまり時間はないので…よいしょ」
姫サマは、ナイフで俺の足を拘束している縄を切ろうとしている。いや、その状態で切られると…。
「ちょっとまった姫サマ。先に腕の縄を…!」
「あ」
「ゴツリ!」と、鈍い音がする。
足の縄が切れ、逆さ宙づりだった俺が顔面から地面に落下した音だ。
「痛あ…」
「…ごめんなさい」
ちょっと鼻血出た。
「それよりどうやってここに? 見張りがいたはずでしょう」
「別に何も特別なことはしてませんよ? 見張りが来ない方向から来ただけです」
だけって。簡単に言うけどさぁ。
姫サマが俺の腕を持ちあげ、肩に担いだ。無茶するなと言いたいところだが、片足が折れている現状では肩を借りるしかない。
そのまま姫サマの助けを借りて、部屋から出ようとすると…。
「廊下の右方向から、五秒後に見張りが来ます」
姫サマが小声でつぶやく。それを聞いて右を振り向くが、誰もいない。
しかし姫サマはそれに構わず、俺を左方向へと誘導した。
「一体何を…」
そう問おうとしたとき、背後から足音。つまり、本当に右方向から見張りが来たということか。
「次、六秒後に上の階から見張りが来ます。ここで三秒止まれば、後ろの見張りにも気づかれないので…もういいですね。行きましょう」
何がどうなっているのか…。
「気になっているようですね? 私の特技が」
「特技?」
「ええ、子供のころから勘だけは誰にも負けないんです。だからこうして、片目を閉じると数秒間先の光景が見えるんですよ」
姫サマは、片目を閉じながらフフンと鼻息を鳴らす。何そのドヤ顔。
しかし、勘…勘ね。そんなわけあるかい。
「姫サマ」
「何です?」
「それ…勘と違う」
「え?」
何を言われてるか分からない様子の姫サマ。その頭のバンダナをペラリとめくる。
「ちょ、ちょっと!」
「やっぱり、そういうことか」
バンダナに隠れていた頭の角が、蒼く輝いている。角を触ってみると、ほのかに温かい。
「な、何するんですか、角を触るなんて…ぶしつけぇ!」
そういうと、姫サマは俺の手を払いのけて顔を真っ赤にする。角ってそんなデリケート部位なの?
とにかく、これで姫さまの特技…というより、能力の正体が分かった。
「神授です」
「え?」
考えてみれば、当然のことかもしれない。神獣と同様に蒼い角を持つ神憑きであれば。神授を持っていたとしても不思議な話ではないだろう。
未来視の神授、といったところか。
「そうか、そうだったんですねコレ…子供のころから見えるから、てっきりみんな見えるものかと」
逆になぜ、自分の能力の特異さに気付かなかったのかは疑問だが。
「姫サマ。見えるのはどのくらい先の時間までです?」
「大体七から八秒くらいです。たまにもっと未来の光景が見えることもありますけど…朧気にしか見えないし、自分から狙っては見れません」
それだけ見えれば、見張りを避けるには十分だ。
その後も姫サマの“助言”に従い、建物の外を目指して進んでいった。




