回帰派④
この女。どうやらこの女の本当の狙いは…姫サマだ。
「あの小汚いゴミ拾いのガキが何か?」
「ただのゴミ拾いのガキとやらを、キミが身を挺して庇う理由もないだろう?」
まずいな。あのとき、姫サマを庇った俺の行動を見られていたらしい。
「…何の話ですかね?」
「十年ほど前、あるゴミ拾いの集団に角の生えた少女がいたのは目撃されている」
姫サマが拾われたという集団か。当時は角など隠していなかったのだろう。
「その集団は結局中央の《狩人》が任務として討伐したらしいが、依頼主はウィグリッド家だった。ただのゴミ拾いの集団を、あれほどの大商家がわざわざ狙った理由はなんだと思う?」
サァミラは、俺の返事を待たずに言葉を続ける。
「それから、ウィグリッド家には常に回帰派の監視の目があった。その監視役から最近、世話役の《狩人》と跡継ぎの少女の一人を見かけないという報告があってね。行方を捜しているのさ」
「そりゃあご苦労様ですね。参考までに聞きたいんですが、その…神憑き? ってのを探し出してどうする気です」
「さてね。そこはウチのお偉いさんが決めることさ」
サァミラは、近くの机に置かれた古ぼけた書物を手にとる。
「ご覧の通り。我々の方でも古都の研究は進めているけどね、正直手詰まりなんだ」
サァミラはお手上げのポーズをとると、書物を無造作に机の上に置いた。
「だからこそ、神憑き本人がいれば話が早い。彼らなら、必ず古都にたどり着くための手掛かりをつかめるだろう」
そういうと、サァミラは優しげな笑顔を作る。
「と、いうわけさ。悪い話ではないだろう? 私たちの尋ね人の居場所とキミの回帰派入り。それさえ約束してくれれば高待遇を保証しよう。どうか協力してくれ…我々の理想のために」
理想…理想ね。
「よく言いますね……そんなこと、興味ないくせに」
ピタリ、と。サァミラの表情が固まった。俺はその言葉をほんの少しの嫌味のつもりで言ったが…もしかしたら失言だったかもしれない。
俺の言葉を聞いたサァミラの顔から、表情の色というものがなくなったように見えた。だが一瞬で元の噓くさい笑みを浮かべると、楽しそうに言葉を返す。
「驚いたな。キミの視る私の本質とはそれか」
心底うれしそうな顔で、サァミラはこちらを見てくる。
「感謝するよ。そうか、私が本当に欲しいものというのは…ふふ」
一人納得した様子で、不気味に顔を歪ませて微笑む。だがその表情は、初めて見る彼女の本当の顔のように思えた。
「やはり、私はキミが欲しい」
うっとりとした目で、まるで恋人とでも接するかのようにサァミラは俺の頬をなでる。
「だが今日はもう遅い。説得はまた明日にしよう…休むといい」
そう言うと、サァミラは俺の腹に手をやり、矢が刺さった傷口に指を突っ込んだ。
「グッアアアアアアアア!!!」
周囲に俺の叫び声が上がる。全身を焼き尽くすかのような痛みが走り、俺の意識はそこで途絶えた。
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「……てください! 起きて!」
聞き覚えのある声で、目が覚める。意識を失っていたのはどのくらいだろう。
「姫…サマ?」
少しずつ視界がハッキリしてくる。
目の前にいたのは、姫サマだった。ここにいるということは…。そうか、逃げられなかったのか。
「助けに来ました」
「はい?」
今、なんて?