最強の剣⑤
狩猟拠点アドン。
中央王都以外に人類が居住できる、数少ない霧の拠点だ。
王都以外では最大規模の人口を有しており、物流の中間地点として《狩人》が行き交う。遠方の狩猟地に向かう場合は、ここで物資を補給するのが通例となっている。
都の外の拠点は、かつて《狩人》によって編成された遠征団によって開拓された。今そこで暮らすのは、遠征団の子孫たち。しかし《狩人》の子孫といえど、誰しもが十分な《狩人》適正を持つわけではない。
拠点に設置された簡易的な《霧の塔》は、そんな子孫たちを瘴気から守るためのものだ。
「さて、そろそろ到着ですよ。懐かしいなアドン。子どものころに行ったことあります。中央では見たことないような名産品もあって…」
「へぇ~」
俺たちは雪原を抜け、狩猟拠点アドンまでの道を進んでいた。
もう数十分もすれば着く距離だ。いろいろあった旅路だったが、ようやく休めるというもの。何よりまともな食事にありつけるのがありがたい。
狩猟拠点アドンでは《狩人》による物々交換も盛んだ。おそらく、新しい助っ人も簡単に見つかるだろう。
…まあ、助っ人が見つかるまでは姫サマに付き合うとするか。
「おい、見ろ」
先を進んでいたジョルジュが何かを見つけたようだ。おそらく目的地が見えてきたのだろう。
しかし、様子がおかしい。
ジョルジュは、進行方向にあるものを見るように促した。
目の前にあったのは、やはり狩猟拠点アドンの遠景だ。しかし、子供のころに見た光景とは、明らかに違うことがある。
霧が、晴れている。
「なん…でだ?」
そのとき、複数の視線と――刺すような殺気。
「危ない!」
殺気の向かう先には、姫サマがいた。俺は思わず、その間に入る。次の瞬間、凄まじい勢いで何かが飛んできた。それが矢だと気付いたのは、俺の腹に突き刺さる直前だった。
「っっ!!」
「メルさん!」
腹部に激痛が走る。俺はすぐさま腹に刺さった矢を抜き、矢じりを舐める。舌にわずかな刺激を感じた。
「逃…げろ。ジョルジュ」
大声を出したつもりだったが、虫の鳴くような小声にしかならなかった。意識が朦朧としている。
遠くで泣きわめく姫サマと、それを抱えてこの場から逃げるジョルジュが見えた。そうだ、それでいい。今は何より逃げるんだ。
おそらく、俺は毒矢にやられている。
俺はついに地面に倒れ込んだ。意識を失う前に朧気な視界の中で見えたのは、近づいてくる複数の人影だった。