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神を狩る  作者: アキナカ
雪原を往く
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雪原を往く⑥

 骨の集団から、俺たちはひたすらに逃げ続ける。


「あの神授(ギフト)、死体を生き返らせる能力か?」


 ジョルジュがひとり言のように、何者かも分からない襲撃者の神授(ギフト)の分析を始める。


 骨たちを操っているのが、何かの神授(ギフト)であるのは間違いない。だが、その正体をつかむには、現状では手掛かりが少なすぎる。


「何ですか…あれ」


 逃げ続けるうちに俺たちの視界に飛び込んできたものは、氷河だった。それ自体は珍しくもないものだろう。普通ならば。


 氷河の行きつく先、本来は滝になるはずの部分が上空に向かって流れて…その状態で凍結している。まるで天地が()()()()()()()()()()()()


 これが襲撃者の神授(ギフト)の影響だとしたら……。


「どうも…ただ死体を操るだけではないみたいだな」


 先に進むには、この氷河を渡るしかなさそうだ。

 慎重に、慎重に周囲を警戒しながら氷河を歩いて進む。


「あの…どこに向かっているのですか? 目的地である狩猟拠点はこっちの方向では…」


 姫サマが、当然の疑問を口にする。


「もちろん、それは分かっています。俺たちは逃げてると同時に…追っているんです」


 俺とジョルジュは目を見合わせる。言うまでもなく、二人の目的は一致しているようだ。

 先ほど骨の集団と戦ったときに感じたわずかな視線。今俺たちは、その視線の持ち主がいる方向に向かっている。


 骨の集団を警戒し、気取られないように迂回しながら視線の持ち主を探して進む。視線の方向は分かるが、距離までは分からない。


 先頭はジョルジュ、殿(しんがり)を俺、二人で挟み込むような位置に姫サマを置いて隠す。そうして進み、いよいよ氷河を渡り切ろうとしたそのとき……。


「ドゴォ!!!」


 衝撃音とともに、地面が激しく振動した。


「なんだ!?」

「ジョルジュ、姫サマを!」


 その瞬間、足元の氷河が割れ、中から骨が出てきた。今まで出会った骨と圧倒的に違うのは、そのサイズ感。およそ人間の十倍以上の体長はある、巨大なトカゲのような骨格の骨だ。


 その骨トカゲは飛び出ると同時に、大口を開けてこちらに襲い掛かる。


「ちょ!?」


 大口がそのまま閉じられれば、俺は即死だったろう。だが、口の中に入れられたとき、とっさに《蜃気楼の槍》を縦に持ったおかげで、槍が支えとなって噛み砕かれずにはすんだ。

 とはいえ、危機的状況には違いない。


「こ…の!」


 槍はミシミシと音を立てている。上顎に槍が突き刺さっているが、骨トカゲは気にする様子はない。骨なので当たり前だ。


「《雲生みタクト》!」


 ジョルジュが発生させた雲が、首の骨に液体を浴びせて溶かす。この刺激臭は強力な酸のようだ。


 支えを失った頭部は崩れ落ち、俺は口の中から解放された。


「あっぶ…なぁ!?」


 しかし、そこから一息付く間もない。骨トカゲは崩れ落ちた頭部を自分で抱えると、首の上に置いてクルクルと回す。するとたちまち、頭部は元通りに修復された。

 そんなのアリか!?


「おいメル! 感覚を研ぎ澄ませ! ソイツだ!」

「分かってるって!」


 なにせ真っ向から対峙しているのだから。骨トカゲから、()()()()を感じるのはイヤでも分かる。


「つまり、こいつをどうにかすればいいわけか…無茶いうよ本当」


 《蜃気楼の槍》を構え、獲物を見据える。いや、とても食えなさそうだから、そもそも獲物ではないか。とにかく、骨トカゲのヤツもこちらを警戒している様子だ。


 しばらくにらみ合いが続く。


 であれば、勝ったのはこちらだ。


「いいぞ! メル!」


 ジョルジュから合図が出る。


「《蜃気楼の槍》!」


 神授(ギフト)を発動し、全力を込めて槍を振り回す。それに合わせて、骨トカゲも大口を空いてこちらに襲い掛かる。力勝負でいえば当然、サイズ差からいってこちらが不利だろう。

 しかし勝負はその力関係の通りにはならなかった。


「バゴォ!!」という凄まじい音とともに骨トカゲの身体が粉砕される。こちらは無傷で。骨トカゲの崩れ落ちた身体は、原型を止めることもなくバラバラだ。


「…うまくいったな」

「まあね」


 槍を構える前、ジョルジュが複数の小さな雲を発生させたのは見えていた。気づかれないていどに、少しずつ。


 そして雲から降った酸が、時間をかけて骨トカゲの身体を崩れやすくしていた。にらみ合いは、単なる時間稼ぎにすぎない。


 この骨トカゲに痛覚があったなら、酸で自分の身体を溶かされることなど気づいて当然だったろう。今ばかりは、感覚のなさが仇になったわけだ。


「こいつが襲撃者ならいいんですけどね」


 そのとき、崩れた骨から何かが出てきた。何か、小さな影が。


「二人とも下がれ! 何かいる…って、あれ?」


 出てきたのは小さな神獣――コヨッテだ。ピンと立てた尻尾と大きなまゆ毛が特徴的なD級の獲物。


 リスト入りしているから神授(ギフト)の正体も分かっている。ものをわずかに動かすていどの弱い能力で、基本的には無害。サイズも小さいので、中央の金持ちの間では愛玩用に高値で取引されているらしい。


 なんにせよ、コイツは襲撃者ではなさそうだ。どこかで骨トカゲにとりこまれたか、迷い込んだのだろう。


「視線はコイツのものだったのか…これだけやってハズレとはね」


 落胆して上を見上げると、上空を飛んでいたドルルスがこちらに向かって飛んでくるのが見えた。もちろん、狙いは俺たちではない。このコヨッテを狙ってきたのだろう。


「ピューイ!」と鳴き声を上げて、ドルルスがコヨッテを襲う。あのサイズ差だ。狩りは一瞬で終わるだろう。

 しかし、そうはならなかった。地面に落ちたのは…ドルルスのほうだ。


「なんだ!?」


 しかも、その身体はみるみるうちに崩れ落ち…白骨化していた。


「まずい…ジョルジュ、姫サマを守れ!」


 全くの考え違いをしていた。あのコヨッテ…いや、正確にはコヨッテの中身が襲撃者の正体だった。


 あれはすでに死体だ。コヨッテの皮を被った“何か”が、一瞬外に出てドルルスに近づくと、たちまちに身体が白骨化していったのが見えた。


 確かなことはただ一つだ。

 あの神授(ギフト)の正体を見極めなければ、三人とも死ぬ。

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