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神を狩る  作者: アキナカ
転がる獣
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転がる獣⑨

 しばらく続いた宴席も、そろそろ終わりそうな雰囲気だ。ゴミ拾い(スカベンジャー)たちはギガンテの身体から、保存用の肉を切り取っている。


「あれで、しばらくは持ちそうっすね」

「ああ」


 持ちそう、というのはゴミ拾い(スカベンジャー)たちのことだ。あの肉で神気を取り入れれば、しばらくは獣化を食い止められるだろう。


 神獣の角を燃やして簡易的な霧の結界を作れば、病人が眠る一室くらいは瘴気から守れるはずだ。


「だが、それだけだ」


 それでも、ジョルジュは浮かない顔をする。


「《狩人》以外の人間は、霧の外では生きられない。寿命が少し伸びただけだ」

「まあ…そうだけど」


 《狩人》になれるほどの神気適正を持った人間以外は、瘴気から完全に身を守れるほどの神気を体内に取り入れることはできない。

 ゴミ拾い(スカベンジャー)に子供しかいないのもそれが理由だろう。おそらく、あの子たちももう数年も持てばいいほうだ。


「どうしようもない。ゴミ拾い(スカベンジャー)は霧の中に生きる権利を剥奪されている」


 ジョルジュは、噛みしめるように言葉を続ける。それはまるで、残酷な現実を前に何かを諦めようとしているようにも見えた。


 ゴミ拾い(スカベンジャー)になるのは罪人か、あるいはその子供たちだ。その罪人の中には、かつての戦争で敗北した敵国の人間も含まれている。彼らは市民権を剥奪され、霧の外へと追放された。


 法や秩序に弾かれた人間たちが、霧の外で生きるために略奪に走る。それが霧の外の現実だ。しかし秩序の中で生きる俺たちに、それに抗う術はない。


「そうですね……まあどうしようも」

「あります」


 言葉を挟んだのは、姫サマだった。

 俺たちの背後に立って、誇らしげに腕を組み、胸を張って立っている。さては聞き耳を立てて言葉を挟むタイミングを見ていたな?


「《原初の獣》を見つけて、あり余るほどの神気を手に入れればいいのです。そうすれば、世界中に霧の塔を設置して争う必要もなくなります」


 残酷な現実に対して解決法として示されたのは、やはりおとぎ話だ。だがそれでも、俺もジョルジュもそれに「ふざけるな」とは返せなかった。


「ゴンゾウから話は聞きました。それでも、私はここで諦めるわけにはいかない…世界を救うために」


 俺たちは《狩人》だ。この少女がウソをついていないことは、見れば分かる。以前はそれを、ただの思い込みだと思っていた。夢見る少女の戯言だと。


 しかし、以前は仮面を被っていたから気づけなかったが…目だ。

 あの目は、夢を見る人間の目ではない。夢を追う人間の目だ。


 あの真っすぐな目が、荒唐無稽な話に不思議と真実味を与えている。少なくとも、彼女自身は本気で《原初の獣》を見つけ、世界を救うつもりなのだろう。


「付いて来てください。必ず、損はさせません」


 その言葉は、同情を引くような懇願ではない。商人らしい、商談のような口ぶりだ。


「…ああもう! わかった、わかった! わかりましたよ! 俺も付き合います」


 俺が思わず吐いたその言葉に、姫サマはニッコリ顔だ。

 横にいるジョルジュは「正気か?」という目で見てくる。そんな目で見んな。俺もそう思ってるから!


「ただし付き合うのは、安全な拠点までです。そこなら商家の伝手が通じるから、新しく助っ人を探せるでしょう。いいですね?」

「それで十分です…感謝します」


 そう言って、姫サマは恭しく頭を下げた。


 気の迷いと話の成り行き。ただそれだけだ。それだけで、この少女のおとぎ話にもう少し付き合ってみることにしよう。

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