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神を狩る  作者: アキナカ
転がる獣
23/73

転がる獣⑦

 逃げて、逃げて、逃げ続ける。


 ギガンテの凄まじい突進力の前には、いかなる障害物もないも同然。何かを壁にして避難することもできない。

 ひたすら逃げ続けて、距離をとるほかない。


「グゴォォォ!!!」


 咆哮を上げながら、転がり続けるギガンテ。その速度の前に、いかに《狩人》といえどいつまでも逃げ続けるのは無理だ。


 いよいよ、ギガンテの姿が背後まで迫っているのを気配で感じる。振り返ったその瞬間に、ひき殺されるだろう。


「……しゃーなしか!」


 弓を取り、構える。だがその目的はギガンテへの攻撃ではない。

 矢を向けるのは進行方向、つまり大橋の方向だ。


「ビュッ」という音とともに放たれた矢が、大橋の付近の地面に突き刺さる。


「《(つがい)の矢》!」


 もう一方の矢は弓へ番えることなく手に持って神気を込める。そして対となった矢は引かれあい、俺の身体を一瞬で大橋の付近へと移動させる。


 ひとまず難は逃れたが、本来はギガンテへの攻撃に使う予定だった狩猟武器だ。二セット分しか用意できなかったのに、ここで逃走用に消費してしまったのは手痛い。


 振り返り、ギガンテの位置を確認する。多少は距離をとれたはずだ。しかし、そこにいるはずのギガンテの姿は確認できなかった。


 どこへ行った?


「ウッソでしょ、おいおいおい!」


 その答えは、地面をこちらに向かって移動してくる巨大な影が示していた。


 ギガンテが、空中を飛んでいる。

 斜面を利用して勢いをつけ、こちらを飛び越していったらしい。


「まずい!」


「ドスゥゥゥン」と、一帯に地震が起こるほどの衝撃が響き、ギガンテが地面に着地する。俺の進行方向、大橋との間に。

 道を塞がれた。いよいよ逃げ場がない……!


「うぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」


 絶体絶命かと思われたそのとき、聞き覚えのある声が周囲に響いた。その叫び声がゴンゾウじいさんだと気付くと同時に、その影は俺の横を駆け抜けていった。

 愛用の狩猟武器《蜃気楼の槍》を構え、スクリームに乗ってギガンテに向かって突撃していく。


「じいさん!!」


 いくらなんでも自殺行為だ。そう思ってじいさんに大声で警告しようとするが……そのとき、じいさんの持つ狩猟武器が蒼い輝きを放った。


「くそ! それはダメだじいさん! 死ぬぞ!」


 神授(ギフト)を使う気だ。

 あの槍は、ゴンゾウじいさんがA級《狩人》時代に使っていた狩猟武器のはずだ。当然、消費する神気量はケタ違いだろう。今のゴンゾウじいさんが使えば、一瞬で神気切れをおこすに違いない。


「《蜃気楼の槍》」


 ゴンゾウじいさんは、先ほどの叫び声とは打って変わって、落ち着いた声で狩猟武器の名を呼ぶ。

 すると、その周囲に薄っすらと、ゴンゾウじいさんに似た影のようなものが発生した。

 影もまた、槍を構えている。


「グァァァ!」


 その様子にただならぬものを感じたのか、ギガンテはゴンゾウじいさんの方を振り返り、敵意を露わにする。

 そして巨大な顎を持ち上げると……凄まじい勢いでゴンゾウじいさんに顎を叩きつけた。


「ぬんっ」


 しかしゴンゾウじいさんはスクリームを巧みに操り、ギガンテの攻撃を難なく躱す。見事な腕前だ。

 そのとき、ゴンゾウじいさんの周囲の影がその場から離れた。数は、二つ。その二つの影は、ほぼ同時に持っている槍を逆手に持ち替えた。あれは、槍投げの構えだろう。


「撃ていっ!」


 ゴンゾウじいさんがそう叫ぶと、二つの影はそれに呼応して槍を凄まじい力で投擲する。その瞬間、先ほどまで朧気だった槍が確かな実体となったように見えた。

 二つの槍は、勢いを保ったままギガンテの身体へと深く突き刺さる。ゴンゾウじいさんに注意が向いていたギガンテは、神授(ギフト)を発動する間もなかったようだ。


「グギャアアアアアアアア!!!!!!!!!!」


 大きなダメージを受けたギガンテが苦しみの咆哮を上げる。


「小僧! 時間は稼いだぞ!」


 そういうゴンゾウじいさんの身体は、すでにわずかながら獣化している。神気が尽きたのだろう。限界だ。

 だが、助かった。どうやら俺は、あのじいさんに命を救われたらしい。


「ありがとうじいさん! 十分だ! 逃げてくれ!」


 そして俺は…大橋の方向へ向かって再度走り出す。

 逃げるためではない。狩るために。


「ガァァァァァ!!」


 その場から逃げ去るゴンゾウじいさんと俺を見たギガンテは、標的を俺に切り替えたようだ。あれに比べれば、容易い獲物だと思ったのだろう。それでいい。


 いよいよ大橋に到達した俺は、橋の欄干を持ちながらギガンテの方向を振り返った。その目と鼻の先には、大口を開けるギガンテが迫る。

 いいぞ、ここで追いつかれるのは予定通りだ。


「今だ! 橋を切れ!」


 向こう岸に待機しているゴミ拾い(スカベンジャー)に合図を出す。こんなこともあろうかと周囲に待機させていたうちの二人だ。

 二人はその合図に戸惑いながらも、言われるがままに橋を支える巨大な大繩に斧で切りこみを入れた。


 支えを失った橋はギガンテの重量に耐え切れず、そのまま崩壊する。俺とギガンテも、当然そのまま落下していく。

 下にあるのは、深く流れの速い大河だ。


「ガァ!?」


 ギガンテにとっても、全く予想外の状況だろう。それこそ、神授(ギフト)を発動する余裕もないほどに。


「今!」


 そのスキを突いて、《(つがい)の矢》を放つ。その矢は、ギガンテの眉間に突き刺さった。狙い通り。この矢のダメージはわずかだが、それでいい。本当の狙いは別だ。


「バシャアン!」と大きな音とともに水しぶきが上がり、俺とギガンテが河に落下する。水中に沈んだギガンテは、慌てた様子で口にたまった空気を吐き出した。

 重量のあるギガンテにとって、水中は大の苦手だ。俺に敵意を向ける余裕もなく、水面に向かって全力で泳いでいく。

 その様子を俺は、水中でそのまま観察している。まだだ、まだベストなタイミングではない。待つんだ。


「ブワァ!」


 ギガンテが水面に上がり、大きく息を吐く。


 ()()()()()。つまり、この瞬間であればギガンテの神授(ギフト)は発動できない。


「ここだ!!!」


 弓に《(つがい)の矢》を番え、放つ。

 矢は凄まじい勢いで一直線に目的地へ向かって飛んでいく。目的地は当然、先ほどギガンテの眉間に突き刺した対の矢だ。

 《(つがい)の矢》は、対の矢のある場所に向けて障害物を無視して一直線に飛ぶ神授(ギフト)を持つ。水の抵抗も無視できる。


「グギャアアアアアアアア!!!」


 眉間に矢が突き刺さったギガンテは、巨大な咆哮を上げる。どうやら十分にダメージはあったらしい。その証拠に、頭の角が蒼く輝きだした。神獣の最後の命の輝きだ。


「グルァ!」


 咆哮を上げたギガンテは、身を翻しその場から離れようとする。

 俺はそれを追おうとはしなかった。ギガンテの頭上から宝刀を携え、飛び降りてくるジョルジュの姿が見えたからだ。


「逃がすかよ」


 落下してきたジョルジュは、ギガンテとすれ違いざま宝刀を抜く。落下の勢いも載せたその蒼き一閃は、そのままギガンテの角を両断した。

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