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神を狩る  作者: アキナカ
転がる獣
18/73

転がる獣②

「あれを…狩るんですか?」


 B級の神獣を狩るというのがどういうことか、姫サマにも少しは伝わったらしい。

 だが、あの神獣の真の脅威は巨大さや捕食行動ではない。


「ギュラァーー」


 甲高い声を周囲に響かせたのは、ギガンテではなく周囲を集団で飛びまわる翼を持つ神獣。あれはグァグァだ。C級の小型神獣で、リスト入りもしており、生態や神授(ギフト)も広く知られている。


 どうやら彼らは山肌に生えた木々に巣を作っていたらしい。当然、巣を破壊したギガンテに敵対の意志があるようで、高い鳴き声で威嚇行動をとる。


 次の瞬間、グァグァの集団の頭部の角が一斉に蒼い輝きを放つ。神授(ギフト)を発動させる予兆だ。


「フーシュルァァ!!!」


 周囲の空間が大きく、赤くゆがむ。そして何もなかったはずの中空に、巨大な炎の玉が浮かび上がる。


 あれがグァグァの神授(ギフト)である《連なる火炎》だ。ひとつひとつはわずかな火力だが、複数体で同時に発動させることで巨大な炎を作り出す。

 だが、あれほど巨大なものは見たことがない。どうやら数十匹ものグァグァの群れがギガンテに敵意を向けているようだ。


 その炎を見たギガンテは落ち着いた様子で、ただ息を深く吸い込む。そして…ピタリと動かなくなった。その角は、蒼く輝いている。

 ギガンテもまた、神授(ギフト)を発動させるのだろう。


「シャァァァ!!!」


 いくつも重なり合ったグァグァの咆哮とともに、《連なる火炎》が放たれる。その炎は凄まじい炸裂音とともにギガンテに衝突し、周囲に激しい煙を巻き起こす。


 煙が晴れ、ギガンテの姿が見えた。全くの無傷で、何も気にする様子がない。というより、全くその場から動いていない。


「グルゥ」


 小さなうめき声をあげたかと思うと、ギガンテはわずかに前方に歩みを進める。グァグァのほうを見ることもない。あの獣にとって、グァグァは敵対する意味すらない矮小な存在なのだろう。


「なん…で?」

「《貫かれぬ盾(イージス)》」


 息を止めている間、あらゆるものから無敵になる神授(ギフト)。防御力だけでいえば、A級にも引けをとらない能力だ。

 ギガンテは、あの巨大な甲羅と堅牢な肌でほとんどの攻撃を防ぐ。それで防げない、それこそ神授(ギフト)による攻撃などには、あの神授(ギフト)を使う。防御行動に特化して生存してきた神獣なのだ。


「そんな強い神獣を…今から狩るんですね!」

「いやいや、狩りませんって。今日はあくまで偵察」

「ええ~」


 不満そうな声を上げるんじゃないよ。


「せっかく《狩人》の狩りを生で見れると思ったのに…」

「あのですね姫サマ。狩り…とくにC級以上の獲物を狩る場合は入念な準備が必要になるんです。だからそんなにすぐ期待しているものは見られませんよ」

「準備って…どんな?」

「まずは偵察。神獣の生態や狩場の詳細を確認する作業です」


 まさに今行っていることだ。リスト入りしている神獣であれば神授(ギフト)の正体を明らかにする必要はないが、それでも個体による能力の差は大きい。実際にその目で神授(ギフト)を発動させるところを見るのは必須だ。


 そのほか、地形の確認や周囲の神獣の生態など確認すべき事柄は多い。本来であればこれに一週間はかけたいところだが、今回は突貫の狩りだ。今日中に済ませるほかないだろう。


「へぇ…じゃあこの次は何をするんです?」

「次に、狩りに出る仲間を集めて作戦会議。どう狩るかのプランを練ります」


 本来であれば、これに最も時間をかける。だが今回は時間もないし、《狩人》も俺とジョルジュしかいない。入念な作戦準備など望むべくもないだろう。


「そしたらいよいよ狩りに出るんですね!?」

「その次は現地での下準備。つまり罠作りです」


 実際に獲物を狩る前に、周囲に有効な罠を作っておく。これも重要な工程だ。会敵することなく獲物を消耗させたり、動きを制限したりできる。


 そして本来の高難度の狩りであれば、偵察、作戦の立案、罠の作成はそれぞれ専門家に助力を願うのが通例だ。彼らは得意分野に特化した《狩人》で、それぞれの工程のみを専門的に研究している。


 ランク制と分業制、その二つを徹底するようになったのは近年のことだったが、おかげでギルド所属の《狩人》の致死率は半分近くにまでなったという。


「なんか…思ったよりも地味ですね」


 身も蓋もないことを。


「本で見た《原初の狩人》は、宝刀一本だけでかっこよく獲物を狩っていたのに…」

「そりゃあおとぎ話ですからねぇ…。現実はもっと地道なもんです」


 不満そうな顔をする姫サマを無視して、周囲の様子を探る。


 すると、斜面から転がり落ちるギガンテの食い残しが、転がってひとところに集まっていくのが見えた。

 そこには、不自然なほどに巨大なくぼみがある。直径にして、あのギガンテの身体の二倍以上の大きさだ。


「これは…もしかして」


 慎重に斜面を滑りながら、くぼみに近づく。間近で見ると、やはり大きい。そしてその形は、自然物にしてはいやに真円に近い。


 くぼみには、骨や毛、それに掘削機械などの一部が散乱している。

 これはおそらく、獣の食い残しだ。主にギガンテのものだろう。その食い残しが斜面を転がってこのくぼみにたまり、土砂がその隙間を埋めることで、この地面ができているらしい。


 このくぼみは、かつての大規模な掘削作業でできた大穴の跡だ。過去には巨大な穴があったのだろうが、長い年月をかけて獣の食い残しや土砂が溜まり、ただのくぼみになったらしい。


 地面を手で触ってみると、簡単に下まで突き刺すことができた。ずいぶん柔らかい。これなら、掘るのにたいした労力はいらないだろう。


「これは…イケるかもしれない」

「なにがですか?」


 いつの間にか斜面を滑ってきた姫サマが質問を投げかける。俺はそれにニヤリと笑って答えた。


「作戦は決まりました。あとは…罠作りです」

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