ゴミ拾いの村②
「この!」
ジョルジュの頭を押さえつける俺の顔に向かって、ボウガンが向けられた。
ボウガンを構えているのは、先ほどジョルジュをかばい、じいさんに吹き飛ばされたゴミ拾いだ。
仮面が外れたその顔をよく見ると、まだ少年のようだった。その顔には、薄っすらと獣のような毛が生えている。この少年は亜人だ。それも、なりたての。
「ジョルジュから離れろ!」
「ビュッ」という音とともに矢が放たれるが、その矢は当たらない。寸前で俺が止めたからだ。二発、三発と連続で放つが、同じ結果になった。
《狩人》の動体視力からすれば、ボウガンの矢の速度くらいなら見切れて当然。だからこそ、《狩人》は自身の膂力を乗せられない機械仕掛けの武器を好まない。
このていどの武器しか用意していないことからも、《狩人》の存在は想定外だったのだと分かる。
「やめとけ、矢の無駄だ」
ジョルジュは少年にそういうと、今度は俺をにらみつけて言葉を続けた。
「メル…なんでてめぇがここにいやがんだ」
「それはコッチのセリフじゃない?」
質問に質問で返したのが不服だったのか、黙ってジョルジュがこちらをにらみつける。お互い黙っていても仕方がないので、俺のほうから会話を続けることにした。
「俺がここにいるのはジョルジュ、アンタの“救出”のためだよ。あのじいさんたちといっしょにいるのはまあ…成り行きみたいなもんで」
「なんだ、向こうではそんな話になっているのか。まあ…三ヵ月も連絡なしじゃ当たり前か」
「おい」
しびれを切らしたのか、ゴンゾウじいさんが槍をジョルジュに突きつける。周囲の緊張感が一気に増した。
「なにを呑気に話している。理由などどうでもいい。ゴミ拾いに協力した《狩人》は死罪…それが《狩人》の掟だ」
「もちろん、知ってますって」
「ならば!」
ゴンゾウじいさんは、今にもジョルジュの首を落とそうという勢いだ。
「まぁまぁ、その前にひとつ確認しなきゃいけないことがあるでしょ?」
「何をだ?」
「それは…」
ゴンゾウじいさんがこちらを向くと同時に、その腹部に宝刀の柄で一撃を入れる。一撃を受けたゴンゾウじいさんは、腹を抑えてうずくまった。
「ゴッ…き、さ、ま…」
そしてそのまま、腹を押さえて崩れ落ちた。
「降参! 参った!」
そういって、俺は宝刀と弓を放り投げ、手のひらを上げて降参のジェスチャーをとる。周囲のゴミ拾いたちは、状況が呑み込めないのか呆けた様子だ。
「ほら、何やってんの。“敵”が降参してんだよ? なら拘束しないと」
俺の言葉を受けて、ゴミ拾いの一人がおずおずとこちらに近づいてくる。そしてなおも警戒した様子で、慎重に俺の手を後ろ手に縄で拘束した。
「ようし、それでいい。そうしたら次は…わかるね?」
様子をうかがうように、ゴミ拾いたちが首をかしげる。
「捕虜をとったんだ。次は拠点に連れていかないと…君たちゴミ拾いの拠点にさ」