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神を狩る  作者: アキナカ
ゴミ拾いの村
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ゴミ拾いの村①

 《狩人》にとって、敵とは何か。


 神獣…獲物は《狩人》にとって食い、食われる関係ではあるが、同時に恵みをもたらす糧でもある。決して敵ではない。

 狩場を荒らし、獲物の残りを付け狙うゴミ拾い(スカベンジャー)をはじめとする盗賊は戦闘能力に明確に差があり、そもそも敵にはならない。


 つまり《狩人》の敵たり得るのは……同じ《狩人》だけだ。


 その《狩人》が今、明確な敵意を持って俺たちの目の前に立っている。

 そしてその手に持っているのは……。


「あの指揮棒(タクト)、狩猟武器か」


 じいさんが確認するかのようにつぶやく。いつの間にか槍を構え、戦闘態勢をとっている。


「でしょうね」


 神獣の身体には、死後もなお神授(ギフト)の一部が宿ることがある。狩猟武器とは、そんな神獣の素材を用いた《狩人》専用の特別な武器だ。

 神気を流し込むことで、その神獣に宿っていた神授(ギフト)の一部を発動することができる。


「こちらも手を打たねばやられる…さっさと構えろ」

「構える?」

「寝ぼけたことを抜かすな。狩猟武器に決まっているだろう」

「ああ、狩猟武器…狩猟武器ね。はい」


 確かに《狩人》同士の戦い、いわゆる“縄張り争い”において最重要となるのが狩猟武器だ。この状況であれば構えない理由はないだろう。そう、それができない理由さえなければ。


「おい待て…キサマ、狩猟武器はどうした」


 ゴンゾウじいさんが、当然の疑問を口にする。《狩人》であれば、愛用の狩猟武器を最低1種は任務に持ち込むのは当たり前のことだ。


「いやぁその…ちょっともろもろ入用だったので武具屋に…ねえ」


 ポカンとしながら俺を見ていたゴンゾウじいさんも、やがて言葉の意味を理解すると顔を真っ赤にして怒り出した。


「キサマ…狩猟武器を売っぱらったのか! 仮にもC級の《狩人》が!!」

「いやいや、人聞きの悪いことを言わないでくださいよ? ちょっとお金と引き換えに預けただけですって。任務さえ終えれば買い戻すつもりで…」


 なにせ、今回請け負ったのは救出任務だ。神獣を相手にする予定はなかったし、危険もないはずだった。つまりは何というか…運が悪かったという表現が妥当だろう。


「おい」


 能面の《狩人》が声を出すと同時に、「フオン」と音が鳴る。


 この音は、どうやら能面の《狩人》が、ふところから取り出したガラス瓶に狩猟武器らしき指揮棒(タクト)を近づけたときに鳴った音のようだ。

 すると、手に持ったガラス瓶に入った液体が、いつのまにか消えている。


「!」


 それを見て、俺は頭上に目をやった。予想通り、俺の頭上には先ほどバドゥ車を襲ったあの“雲”が浮かんでいる。

 事前に狩猟武器による攻撃を受けていなかったら、気づけなかっただろう。


 あの狩猟武器に宿っているのは、液体を雲にする神授(ギフト)らしい。


 その場から大きく横に飛び、雲から降り注ぐ雨を回避する。すると、周囲のゴミ拾い(スカベンジャー)たちが、それを見計らっていたかのように、一斉にボウガンをこちらに向けて構えた。


「フンッ」


 しかしボウガンから放たれた無数の矢は、ゴンゾウじいさんの槍の一回転によって阻まれた。


「どうも」

「おい」


 ゴンゾウじいさんが槍を構え、前を見据えながら話す。


「お前の方が動ける。ワシが突っ込む。お前が射て」


 ずいぶん簡潔な指示だ。言葉は少ないが、意図は十分に理解した。

 返事をするより先に、ゴンゾウじいさんは能面の《狩人》に向かって走り出した。


 しかし、能面の《狩人》はそれに対し…一歩引いた。そして足元にある水たまりに向かって、周囲のゴミ拾い(スカベンジャー)たちが火矢を放つと、たちまち燃え上がり周囲は炎に包まれた。


 つまりあの水たまりは油で、あれは炎の結界だ。接近を警戒して、事前に足元に油をまいていたのだろう。炎の結界で身を隠しながら、俺たちの頭上に毒の雨を降らせるつもりだ。


「ヌォオオオオオオ!!」


 しかし、それにひるむゴンゾウじいさんではなかった。轟くような咆哮を上げて、炎も構わずにただ前方へと突っ込む。それでも、能面の《狩人》にひるんだ様子はない。


 その様子に違和感を覚えた俺は、能面の《狩人》の頭上を見る。そこには、注意しなくては気づかないていどの大きさの、小さな雲が浮かんでいた。


 二段構えのトラップだ。無警戒で突っ込めば、あの雲から毒が降り注ぐだろう。


「まずい…じいさん!」


 その瞬間、じいさんと《狩人》の間に、一人のゴミ拾い(スカベンジャー)が割って入った。両手を大きく広げて、庇うような仕草を見せる。

 それを見た能面の《狩人》は、一瞬ではあるがうろたえた様子を見せた。そのとき、頭上にあった小さな雲も消え失せていた。


「クソ!」


 能面の《狩人》を庇ったゴミ拾い(スカベンジャー)は、じいさんの槍になぎ倒された。

 それを見た能面の《狩人》は、じいさんを迎え撃とうと腰の宝刀に手をかける。しかしその行動は、俺が放った一矢によって妨害された。


「ぐぁ!」


 肩に矢が突き刺さった能面の《狩人》に、じいさんが槍を突き付ける。


「ここまでだ」


 そう言って《狩人》の喉元に槍を突き刺そうとするじいさん。


「カツン!」

「!」


 しかしその行動もまた、俺が放った一矢によって阻まれた。槍の柄に突き刺さった矢を見て、じいさんがこちらをにらみつける。


「おい小僧…どういうつもりだ」

「そのまま、そのまま」


 じいさんの槍は、《狩人》の喉元寸前で止まっている。そのせいで、周囲のゴミ拾い(スカベンジャー)たちも動けないでいる。じいさんも《狩人》も動けない。膠着状態だ。

 俺は彼らに構わず《狩人》に近づき、その能面に手をやった。


「違和感は二つ。まず一つ目が、荷台の中身に興味を示さなかったこと。つまり物資が目的ではない」


 なにせ、襲撃時に真っ先に荷台に火をかけている。物資の略奪を目的とするゴミ拾い(スカベンジャー)からすれば、あり得ない行動だ。


「二つ目は、アゲハ…姫サマが目当てということ。高い身分の人間がバドゥ車に乗っていることを知っていた」


 身なりを見れば金持ちなのは分かるだろうが、彼らはまず「その娘を置いていけ」と言った。バドゥ車から降りる前に、中にいる人間を知っていたのだろう。


 あとはまあ、さっきゴミ拾い(スカベンジャー)の一人を巻き込まないよう、毒の雲を消した行動で予想は確信に変わった。肝心なところで、非情になり切れないあの性格には覚えがある。

 姫サマたちの目的や正体を知っていてもおかしくない《狩人》といえば、一人しかいない。


「ここにいたわけね。ジョルジュ」


 能面を外したその顔には、確かに見覚えがあった。俺が救出任務で探していた行方不明の《狩人》、ジョルジュだ。

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