騒がしい救出戦
イエメンは2015年から内戦状態にある。当時の政権に不満を持ったフーシ派なる勢力が武力をもって国をひっくり返そうとした結果、国際連合が世界最悪の人道危機と称する戦いがずっと続いており、そこに宗教系テロ組織とかアラブの支持を受けた南部暫定評議会まで加わってきてもう大変なことになってしまった。本来それを調停しなければならない国連が機能していない以上、イエメンの国内情勢は悪化の一途を辿っており、NGO法人による人道支援によって前線以外での治安がギリギリ保たれているという状態だ。
で、まぁ、純粋に人助けがしたいNGOも場合によっては「俺が撃った敵を助けるつまりお前も敵」という考え方をされるわけで。
「スリーシックス現着、敵戦力は歩兵2個小隊程度です、母艦からの支援は不要でしょう」
『オーケイ、ウィスペルは潜航するよ』
薄いブラウンのマウンテンジャケット、それのフードでベージュのボブカットを覆い、額にブラックレンズのゴーグルがある。白いショートパンツにはマガジンポーチなど一切ついておらず、代わりに大型バッテリー。左前腕にはタッチパネル式キーボードがあり、ゴーグルを降ろして少しいじるとヘリコプターのスタブウイングからなにかが投下された。
「ユリアナはこのままドローン管制! 屋上に直接降りる!」
合計8個、空中で展開されクアッドコプタードローンになった。それぞれP90の機関部を使った5.7ミリガンターレットを装備していて、着陸するべき5階建て建物を取り囲む。すぐに発砲が開始され、群がっていた歩兵を何人か倒しつつ追い払った。
「今!」
真っ白い塗装がされた日干しレンガの建物が並ぶムカッラの街へ向けヘリコプターが急速降下、一瞬だけ建物屋上にタイヤを着ける。
「よっしゃ行くぜぇぇぇぇ!!」
その一瞬で3人降りる。真っ先に飛び出したのがクロ、黒いTシャツの上に巻いたデューティベルトにポーチを取り付け、下はピンク2本線の黒ジャージ。髪はどピンクだ、肩にギリギリかからない程度の短髪の、左右一房ずつのみ胸元まで伸ばしたヘアスタイルはスポイトで採取してカラーパレットに登録したいくらいのピンク色をしている。150センチという身長に似つかわしくないMk46マシンガンにベルトリンクポーチを引っ提げ屋内へ突入、そこからフレアと鈴蘭が階段を降りるまで発砲音が止むことはなかった。
「5階クリア!」
「明梨! 急いで!」
屋内は銃撃戦による穴だらけだった、ほとんどはクロの乱射によるものだろうが、廊下のとある場所にはアメリカ製の装備に身を包んだ民間軍事企業(PMC)オペレーターが2人倒れていて、すぐそばの木製ドアをノックしてからドッグタグを素早く回収する。
「ひぃぃ……!」
部屋から出てきたVIPはベージュのワンピースと白のカーディガン、公の場で通用し得る服装で、赤みがかった茶髪の右側にテールを作ってある。本来なら他にも荷物がたくさんあったのだろうが、こんな状況なので半泣きの彼女だけ回収して
『ユリアナからフレア、ロケットランチャーとかアサルトライフルとかとにかくいろんなものに狙われています、着陸不可』
屋上に、と思ったのだがどうも無理そうだ。近くの敵兵をすべて排除するか、射程外まで離れなければならない。
「費用ケチって安い護衛雇うなって言ってるでしょ! そんで結局私らに高い金払う羽目になるんだから!」
「あのそれは……」
「そもそも戦災支援ってこんな最前線でやるものではなくないです?」
「家建てたそばから壊されてるじゃんね!」
「やめようよみんな!!!!!!!! そうやって人をいじめるのは!!!!!!!!」
なんてやってる間に4階から足音、最低5人はいるか。
「ユリアナ! 階段手前!」
『掃射します』
VIPこと明梨の頭を引っ掴んで伏せさせ、窓の外でローター音が鳴るのを待つ。敵兵の5階到着と同時に4機のタレットドローンが窓外に並び、5.7ミリ弾をぶちまければ何もせずとも全滅した。
「走って!」
「ひぃぃぃぃぃぃぃぃ!!」