沈む我が家
2年前、1人の愚かな男が核ミサイルの発射ボタンを押した。それをきっかけとした全面核戦争が起きて秩序が崩壊した。
今、この世界は統制を失っている。国際条約は意味をなさず、宣戦布告もなく戦争が始まる。身を守るために武器が大量生産された結果、武器の価値は暴落し、銃の扱いは一般常識となった。
絶対に安全なんて場所などない、それが今の世界。
水面下に巨大な影が見えた。
『ウィスペル浮上中。急速浮上です、津波に注意してください』
「え、なんで?」
潜水艦だ。上部前方に艦橋、そのちょっと前に一対の潜舵がある。ボディの大半は曲線で構成され真っ黒い塗装だが、艦橋の後ろから縦舵の間は塗装がやや明るいグレーで、削られたように平坦な甲板になっている。スクリューは2基、双方とも隠密性向上のためカバーに覆われ、横舵の中に埋め込まれるような形になっている
最後にサイズだが、全長254メートル、全幅38メートルある。
「まずい!! 掴まれ!!」
それが海水を押しのけながら浮き上がってくるのだ、何が起きるかなんてわかりきっている。完全制圧した貨物船の甲板上、助け出した人質数名に向かって叫んだ直後に海面が盛り上がり始めた。
「「ギャーーーーーーっ!!!!」」
どっぱーーん!と海を割って現れたのが強襲揚陸潜水艦ウィスペル、第二の我が家みたいなもんである。戦闘艦である都合上存在を秘匿されているものの、退役する頃には世界最大の潜水艦としてギネス登録される予定となっている。
立ち上がった海水の壁が貨物船を直撃し大きく揺らし、甲板上のすべてを水浸しにした。接舷していた小型クルーザーは耐えられずひっくり返ってしまい、おそらく1週間以内にアデン湾のどこかへ打ち上がることになるだろう。
「なんだなんだなんだ……」
いろいろ耐え切って顔を上げるとそこには浮上した巨大潜水艦、向こうから接近しつつ側面ハッチが開いてステアーが伸びてきたため、こちらからも微速で近付き、せり出てきた階段を甲板に当てた。
『2ヶ月ぶり7回目にアストラエアが襲撃を受けました、スリーシックスが出ます』
「ああ…2ヶ月も襲われなかったとは今回はけっこう長くもったな」
全身から海水を垂らしながらまず元人質を艦内に入れる。救出されほっと一息ついてるところだろうが、入るやいなや機密保持のため頭に袋を被せられ捕虜同然に連れていかれた。
こちらはそれにはついて行かず航空甲板へのハシゴを駆け上がり再度艦外に出る、ちょうどエレベーターに乗った兵員輸送ヘリが上がってくるところだった。
「場所は!?」
「ムカッラの港沿いで立てこもってるって!」
航空用エレベーター挟んで反対側のハシゴから上がってきたのは4人、その最初の1人にシオンは問いかける。身長159cmで燃えるように赤い髪を持ち、普段はツインテールにしてある。服装はネイビーのVネックをインナーにしてブラウンのベストを重ね、下は茶黒チェック柄のプリーツスカート。白いニーハイソックスを履き、ぱっと見では高校生にしか見えないが、各所に仕込んだポーチ類やアサルトライフルがすべて台無しにしている。
コールサインはフレア、使用するライフルは10.5インチバレルのレミントンR5RGP。シオンのHK416と比べてハンドガードのレールシステムが上面にしかなくスリムな印象を受けるものの、開発経緯的にも性能的にもほぼ同じである。彼女の個体はオープンタイプドットサイト以外にはスリングくらいしかついておらず軽さ重視。
「スリーシックスは補給して待機!」
「その様子だとシャワーもいりそうですね!」
その僅かな会話の間に2人搭乗、フレアもヘリに乗って、最後に鈴蘭が飛び込めばメインローターが回り始める。腰まである黄色い髪をストレートに伸ばし、14.5インチバレルのR5を所持。トップスに黒のTシャツ(正面右側にMAGPULと書いてあるがでっかい膨らみのせいで歪んでいる)、ボトムスにフラットダークアースのカーゴパンツを着る。マガジンポーチは左腰に寄せ、ハンドガンのホルスターは真後ろにグリップを右上にして着ける。R5はバックアップ用マイクロドットサイトを背負った4倍固定ACOGスコープ、ストックも大型のスナイパー使用だが使用弾薬が5.56mmなのでスナイパーという程の射程は無い。
「行ってらっせー!」
「おみやげはコーヒー豆でー!」
「ハチミツも買ってきてー!」
「ロイヤルハニーってやつねー!」
『んなヒマあるか!!!!』