ソマリア沖にて2
「よしお前ら、助けが来たぞーーーー!!」
左右にボート、上空にヘリコプター、AKタイプのアサルトライフルをこっちに向けた海賊がソマリ語でなんか叫んでるという状況でシオンはダッフルバッグの片方をヒナに向かって投げた。屋根から降りてきたメルはそちらへ、もう片方のダッフルバッグはシオンとフェルトで囲む。
「お前! 人質! こっちに乗る!」
よーーーーやく英語が聞こえてきたもののあまりにもカタコト、内容も予想通りすぎて誰も耳を貸さない。痺れを切らしたボートは左右両舷に取り付き、ヘリコプターからもロープが垂れてきた。
で、
ダッフルバッグから最初に出てきたのはHK416A8アサルトライフルである。銃身12インチでストックの伸縮具合によるもののだいたい全長は1メートル。ロアフレームをタンカラー、アッパーフレームをブラックカラーに組み換えたオシャレ仕様、ホログラフィックサイトをメイン照準器に倍率ブースターを手前に添える。弾倉は装着済み、セレクターをセミオートにしてチャージングハンドルを引いた。
「来い! 乗れ! はやく……」
フック付きロープを使ってクルーザーへ一番乗りしてきた、おそらく唯一英語が話せるだろうソマリア人に銃口を向けると彼は急に黙ってしまった。それ以上の反応を許さずトリガー2回、このだだっ広い海原のせいでまったく反響しない乾ききった銃声が響く。
「ーーーー!」
たぶんその瞬間に自分達が釣り餌に引っかかったのを理解したらしいがシオンはソマリ語に詳しくないので何を言ってるのかまるでわからない。心臓に2発撃ち込まれた最初の1人がクルーザーから転落する前にシオンの背後でM72ロケットランチャーの発射筒が展開される音がして、念のため姿勢を下げつつ振り返り「後方よし」と告げればフェルトが発射ボタンを押し込んだ。全長1メートルもないアルミとガラス繊維の筒からほとんど真上に向け放たれた66ミリHEATが高度30メートル以下にいたヘリコプターの後方下部へ直撃、尻尾をへし折ってテールローターを脱落させ、ヘリコプターの墜落といえばコレ!というべき高速回転をしながら海面へ突っ込んでいく。
「ヒナ先生! 本船ブリッジの窓に操舵士が見える!」
「はいよ」
フェルトは空になった発射筒を捨てダッフルバッグから次の武器を出す。Mk57バンシーというピストルキャリバーカービンで、簡単に言えばライフルっぽい見た目をしたハンドガンである。アメリカの法律に従うとハンドガンには肩で反動を受け止められる部品は着けてはいけないことになっているが、ここはアメリカではないし、そもそも北アメリカはいくつかの州が独立宣言して戦国真っ只中であるため、フェルトが取り出したそれには潔くストックパイプが後付けされており、そのためイメージほど小さくない。一緒に左舷側まで走って、シオンは5.56ミリ弾、フェルトは5.7ミリ弾をセミオートで丁寧に撃ち込む。
その間、クルーザーの右側ではフルオート射撃音がけたたましく鳴り続けていた。
「carar! carar!」
ボート2隻とヘリコプターが全滅した頃、100メートル強の位置まで接近していた本船の甲板がようやく慌て始める。相変わらずソマリ語だったが今のはわかる、「逃げろ」だ。
「撃った」
面舵を取ってクルーザーから離れようとしたのも束の間、ブリッジのガラスが割れ、操舵士の頭に7.62ミリ弾が突き刺さる。代わりが舵輪を掴むまでの一瞬制御を失って加速が遅れ、M27 IARをスリングで担いだメルが運転席に飛び込みクルーザーのエンジンをかけた。
あとプラスチックを無駄に焦がしてる七輪に水をかけた。
「おっとスクラップ間際のオンボロにしてはいい加速だ!」
滑らかな回転数の上がり方でエンジンが唸りを上げ、クルーザーは中型貨物船へ船首を向ける。手すりに引っかかってたフック付きロープを回収、接触寸前の距離で並走してからフックをぶん投げた。貨物船の手すりに命中、最初にフェルトがロープを掴んでとんでもない勢いで登っていった。
その後は銃声と悲鳴のみ。
「あー、CPCP、ターゲット制圧、回収願います」
もうシオンは登らなくてよかろう、ダッフルバッグからヘッドセットを出して通信を飛ばす。