ソマリア沖にて1
「釣れないっすねぇー……」
突然だが現在地を確認しよう。
ここは地球のインド洋、アラビア半島イエメンから南に進んだソコトラ諸島のすぐ近く、を、漂流する小型クルーザーの上である。漁船に毛が生えた程度のサイズと設備を持つその船はエンジンを停止させ、代わりに機関室付近から真っ黒い煙を噴き出しつつ海流に乗ってアデン湾へ向かっている。ここは海運の要衝、多くの船が昼夜問わず行き交う混雑海域であり、既に救難信号をキャッチした中型の貨物船が1隻、このクルーザーへ向かってきていた。
貨物船のように見えるがぶっちゃけて言うと海賊船である。そもそもどうしてこの海域が混み合うかというとスエズ運河というものが関係しており、アジアとヨーロッパを往来するにあたってこのアデン湾から紅海、そしてスエズ運河を抜けて地中海へと出なければならないからだ。
そのため、船舶ジャックや身代金目当ての誘拐を行う者にとっては絶好の狩場となる。そうこうしている間に本船から小型のエンジンボートが2隻、ヘリコプターが1機発進した、それぞれにアサルトライフルで武装した兵士が乗っているのが見える。
「糸の長さが足りてないんだよ、長さが」
それがわかっていながらも船上にはまったく危機感無く釣りに興じる少女が4人。
「本当に? もう100メートル以上出てっけど」
舷側でイスに座り釣り竿を握るのがシオン。白いブラウスとネイビーのクロップドパンツ、ライトグレーのケープを重ね着して、銀色の髪はローポニー。身長162センチ。
「底釣りの仕掛けでしょ? ここの海底は200メートル近いもん」
操縦席の上に登り貨物船|(海賊船)にフラッシュライトを向けひたすらSOSを打ち続けるのがメル。身長148センチ、ライトパープルの短髪は外ハネがあり、黒地に青と紫のアクセントが入るパーカージャケットがぶっかぶかのため下に何も履いていないように見える。
「しかしまぁソマリアの海賊風情がなんでヘリコプターなんか持ってるんすかねぇ」
「アメリカとかロシアとか中国とか大国が核ミサイルで吹っ飛んで、国際連合っていうのが崩壊して、世界の秩序を維持する機構がなくなった結果、武器がバカ売れして値段がどんどん下がったんでしょ」
船首付近でビーチパラソルとビーチチェアを広げ無意味にサングラスなんかしてるのがヒナ。なんかいい感じの柄があるTシャツと黒いショートパンツ、ライトブラウンのボブカットはてっぺんが156センチ、髪と同色の右目と、艶消しブラックの左目を持つ。
「自分の身は自分で守らないといけなくなったからねぇ、武器と一緒に人の命も安くなったよ」
そろそろ貨物船|(海賊船)の到着と見て船内からダッフルバッグをふたつ持ってきたのがフェルト。真夏の快晴みたいな空色の髪をゆるーく三つ編みにし、てっぺんは142センチ。黒いタンクトップの上から重ね着た膝上までしか丈の無いふんわりした青のキャミソールワンピース、あとスパッツ。
「あ、かかった、釣れた釣れた釣れた」
「マジ?」
「うっわ重い重い重い! デカいぞなんだ!? サメか!?」
「はいはい手伝う手伝う」
「あっ……」
「え?」
と、4人分の紹介が終わったところでシオンの釣り竿が大きくしなる。SOSを打ち続けるメルを除く2人が駆け寄って左右から竿を掴み、
「これ地球釣ってるな」
そしてすぐ離した。