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私は参道の脇にぽっかりと開いた穴を見詰めた。

穴の周りは竹と注連縄で囲いがしてある。

果たしてこれをどうしたものか考えた。


 毎日毎日、ここに来て一度は穴を眺める。

「ふう・・」

とため息を付く。


私は空を見上げた。雨が落ちて来そうだ。

今日は天気も悪いし仏滅だし13日の金曜日だし、十法暮(じっぽうしぐれ=何をやってもうまく行かない日、凶日)と来ている。

だからなのか参拝客も少ない。


都賀はあの出来事から半月も過ぎた頃、突然修行の旅に出ると言って、出て行ってしまった。

都賀の女房は一体何が夫に起きたのか分からずに混乱していた。

私は取り敢えず「都賀は心眼を開いたのです」と言って置いた。


私は穴を眺めながら思った。

自分は都賀に嫉妬しているのだと感じた。

都賀が言った事が本当なら、私こそがそれを見たかった。松が龍になって天高く飛んで行く姿や、卵の薄皮の中で横笛を吹く男や踊る少女。そして三尾の白狐。

自分こそが見るべきである。都賀の様な凡人では無く。

そんなものが見られるのなら、この命を投げ出しても構わないと思った。

どうして私ではなくて都賀なのだ?

どうしてあの時、私は西の参道へ行かなかったのか。

悔やんでも悔み切れない。


龍の消えてしまった穴など如何程の価値があろうか・・・。

私はそう思った。

もう空高く飛び去ってしまったのに・・。

くそっ!忌々しい!

いっそのこと埋めてしまおうか。

などと神職にあるまじき考えも浮かんだ。

私は石ころを穴に向かってひとつ蹴飛ばした。

もうひとつ蹴ろうとした時にふと声がした。


足を止めて隣を見ると、黒服の男が2人。サングラスをしている。

一人がサングラスを外して私を見た。目が鋭い。まるで公安の様な。

まさか!都賀が何かやらかしたのか??心神耗弱の為に?

私の胸に一瞬そんな考えが過った。


男は軽く一礼をすると言った。

「宮司様でいらっしゃいますか?」

私は頷いた。

「宮司の橘で御座います」


男達は私と並んで松の穴を眺める。

「松の件で参りました。・・・これが松の抜けた穴ですか?」

男は言った。

私は驚いて男の顔を見た。


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