表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

Brew

作者: VULTURE FLYOUT

昔、海の近くに住んでた時期があったんですけど、その頃に習慣として海沿いを散歩するようにしてたんですよね。砂浜って結構歩き辛くて、かなりいい運動になるので。


それで、ちょうど夏真っ盛りくらいの頃だったかな。

その日は少しだけ曇ってて、日差しが比較的弱くて気温も低い、だから観光客も少ない。絶好の散歩日和だったと思います。






それで「今日は過ごしやすいなー」とか思って散歩してたら、波打ち際になんか小さなゴミが落ちてたのが見えたんですよね。


ちょっと遠くから見た感じ、布で出来たボロみたいな感じでした。

なんというか、何度か折りたたまれた子供用のハンカチ、みたいな……

本当に小さい布の切れ端が、波に揉まれてるようなイメージ。






それだけだったら「あーただのゴミだな……」で済んだと思うんですけど、ちょっと目を引く所があって。


さっき「遠くから見た」って言いましたけど、小さい物って普通はそんなに遠くから見えないじゃないですか。

でも、それの場合は違ってて……なんだろうな、中から溢れ出してた、と言えば良いのかな……


ゴミのある所から、本当にドギツいピンク色の液体みたいなのがね。

遠目からもそこが中心だと分かるくらい、ぶわっと滲み出してたんですよ。


波に吞み込まれて、引いていくのに合わせてピンクに染めて、そしてまた波に攫われて……そうやって、何度も繰り返してたんです。


海辺って、実は馴染みのない人からは想像も付かないくらいゴミが多いんですけど、あんなの生まれて初めて見ました。

本当に目に悪いピンク色で、明らかに体に良く無さそうな感じ。


「赤色○号」とか「青色○号」とか……あまり着色料には詳しくないんですけど、そういうレベルだったんじゃないかな。






それを見た当時の私は、流石に環境に悪いだろうなと思った物ですから。

近くにあった流木でどうにか引っ掛けて、それを砂浜の方にでも放り投げようとしたんです。


それで枝を持って、近づいて……そこで初めて気づいたんですけど。


さっき「布で出来たボロみたいだった」って。

「何度か折りたたまれた子供用のハンカチみたい」って、言ったじゃないですか。


あれね、半分間違いだったんです。








お守りでした。


ピンク色に染まって何が書いてあるか分からなくなったお守りが、バシャバシャと波に揉まれてたんです。


勿論、お守りを海に落とすことはあります。


あまり無いことだとは思いますけど、鞄とかに付けてたお守りがそれごと海に呑まれたとか。

あるいは残念なことではありますけど、海難事故で亡くなった方の遺品だったりとか。


そういった形で海に落ちてしまうことは、きっとあると思うんです。






でも、アレはそういうのとは絶対に違うんですよ。


だって、そうじゃないですか。

海に落ちてから波打ち際に漂着するまで流され続けて、それであんなにしっかり色が出るわけないじゃないですか。








絶対に、誰かがそこに置いてるんですよ。








それに気付いた瞬間、もうすごい嫌な感じがして。


単なるイタズラならまだ良いですけど、変な奴が悪意を持ってやったなら毒とかヤバい薬品って可能性もあるわけですから。


やめた方がいいかもと思ったんですけど、もう結構近くまで行ってたので、まぁ仕方ないかぁと思って。

渋々ですけど、波が引いたのに合わせて枝でお守りの結び目に引っ掛けたんです。






そしたら、ぷちんって。

ちょうど引っ掛けてたところ、結び目の輪っかみたいになってるところが切れたんですよ。

本当に簡単に、茹で過ぎた素麺みたいに切れて、ぺしゃっと地面に落ちた。






お守りの中身は、どうやら空みたいでした。

下の方に切れ目が開いてペラッペラになってましたから、間違いないと思います。


でも、結び目をね。

切れた結び目をよくよく見ると、変な光沢と硬さがあって、糸っぽくない。

ほつれていて、千切れていて、でも当然なんです。


撚ってないんですから。








人の毛束でした。


人の毛髪、かなり長い髪の毛をそのまま束ねて、それも芯まで染まったようなピンク色の毛束を束ねて、糸の代わりにしてたんです。


それに気付いた瞬間うわっと思って、その拍子に足がもつれて砂浜の上で転んでしまって。

そしたらタイミングよく大きめの波が来た物ですから、千切れた毛束もお守りも流れていって、私もそのまま波を浴びちゃった。


で、そのとき海水が口の中に入ったんですけど……

それがまた変な感じで。






なんだろうなぁ。

海水って普通はただ塩辛いだけだと思うんですけど、全然そんな感じじゃないんですね。


こう、運動してる時とか、垂れてくる汗がうっかり口の中に入ることがあると思うんです。変に塩っぽくて、すぐにペッと吐き出したくなる感じの。


アレにガムシロップを混ぜて温くした、というか……

なんか、生き物の体液と人工甘味料を混ぜた、というか……


すいません、ちょっと上手く形容できなくて。

とにかく、そういう感じの甘ったるくて不快な味がしたんです。






多分、そう聞くとかなり危険そうな感じがすると思うんですよね。


やっぱり変な薬とかだったんじゃないか、みたいな。

あるいは、もっとオカルト的な……それ以降何かが立て続けに起きて、とか。








何にも無かったんです。

確かに変な味はしましたけど、本当にそれだけ。


口の中の水を吐き出して、手で顔を拭って。

そしたら、何事も無かったみたいにいつもの海に戻ってました。


はい、すっかりピンク色も消え失せてましたね。

私の方も濡れはしましたけど、それで終わり。

体調を崩したとか、それから何か不幸に見舞われたとか、そういうことも一切無し。


なんだか分からないんですけど、それでおしまい。








うーん。

その後のお話といっても、本当につまらないですよ。


もう散歩の習慣も無いですし、そもそも近くにあっただけで海もそんな好きってわけじゃなかったので、本当にそれっきり。


そこで何か起きたとかいう話も、伝え聞く限りでは無いですし。

それから少しして別件で引っ越すことになったんで、詳しくは知らないんですけど……


そう考えると、あの辺にはもう10年以上行ってないことになりますかね。








……まぁ、でも。

あれ以来、海には入りたくないなぁと思ってますよ。













だって、ねぇ。


海は繋がってる訳ですから。








まだ甘かったら、嫌じゃないですか。














苦くなってても分かられないんだから笑

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ