男爵家の従順なメイドと、従順さを優先出来ないメイド
ひどい検証が始まります。
『男子って従順な女子が好きなんでしょう?』
横で王立学園の女子生徒がそんなことを言っていたのを思い出す。
男爵家の一人息子でもあるあなたは、これについて検証することにした。
場所は、男爵邸別館の『工作部屋』と呼ばれている一室だ。窓は戸によって陽の光が遮られていて、照明も暗い。四方の壁の周りには、大小様々な機械が放置されている。ただ、掃除はされており、木の床に埃はほとんど見られない。
廃墟のような雰囲気漂うこの部屋に、あなたはメイドを呼んだ。同い年の彼女はロングスカートの黒いメイド服を着用し、茶色い地毛を三つ編みにしていた。
さっそく、あなたは検証を開始する。
メイドには水の入ったバケツを胸部の前で持たせ、正方形の機械の上に立たせた。高さ五センチほどの板状に見える機械で、上部には格子状の金属板がついている。
髪を一本の三つ編みにしたメイドは、バケツを両手で持ったまま、静かに待つ。
あなたは目の前で、メイドには何があっても絶対にバケツを離すなと命令を下した。
「はい。ご主人様」
メイドの返答の後、あなたは手に持った遠隔操作用の装置を使い、メイドの真下の機械を作動させる。
「えっ?」
金属板の隙間から、非常に強力な風が上部へと流れ始めた。激しい強風に襲われるメイドは驚くものの、言われた通りにバケツを維持する。そのため、スカートを押さえることが出来なかった。
風の進むまま、スカートが大胆に舞い上がる。
白いロングソックス、しっかりとした太もも、それに質素で子供っぽい白い下着が、恥ずかしいぐらいに丸見えになった。スカートの丈が長い分、裾の舞い具合がすごい。
三十秒後にあなたが機械を止めると、風の音は途絶え、メイドのスカートが元に戻る。水は最初からバケツ内の半分ほどしか入っておらず、下に垂れたりはしていない。
もういい下がれと、バケツを受け取った後にあなたが伝えると、
「分かりました。ご主人様」
メイドは一礼し、あなたに従った。
次に、部屋の外で待たせていたもう一人のメイドを呼びつける。
二人目となる彼女は、髪を左右で三つ編みにしていた。一人目のメイドに持たせていた水入りバケツを彼女に渡し、同じように薄型機械の上に立たせる。
再びあなたは、メイドには何があっても絶対にバケツを離すなと命令を下す。
「はい、ご主人様」
バケツの両端を持つ二人目のメイドの前で、あなたは機械を作動させる。
「きゃあああああああああっ!」
彼女は下半身をご主人様に晒すのが嫌だと、無意識に考えたのだろう。バケツよりもロングスカートを必死に押さえることを優先し、バケツを落としてしまった。
メイドは両手で正面を押さえたため、スカートの後ろ側が大きく舞い上がっている。結局はスカート内を露出してしまうことに変わりはなかった。
機械を止めると、メイドはスカートを強く押さえながらへたり込む。
「うぅ……なんでぇ……」
スカートの一部を濡らしてしまったメイドは涙目だ。
どうして逆らったと、あなたは彼女を強く責めた。
「すみませんご主人様、恥ずかしかったので……っ」
言いわけは聞きたくない、お前はクビだと告げる。
「えっ、これだけで私はクビなんですかっ?」
二人目のメイドはまたも逆らう。
今すぐ出て行けと、あなたは言葉を続けた。
「お願いしますご主人様! もう一度チャンスを下さいっ! 今度はちゃんとやりますっ!」
逆らい続けるメイドはあなたにすがる。あなたを見上げている彼女の顔は、実にみっともない。
もう一度だけだ。あなたがそう念を押すと、
「ありがとうございます! ご主人様!」
彼女は偽りのない感謝を返してくれた。クビにするなんて嘘をついたあなたは、少し心を痛める。
あなたはもう一度、彼女にバケツを持たせた。バケツは空のままで、強風の出る装置を作動させる。
「うっ!」
今度の彼女は、バケツを離さないよう必死で務めたので、下着と下半身が丸見えになった。白い下着はもう一人のメイドと同様、実用性優先の地味なものだった。
過去二回の検証と違い、三回目に当たる今回は、三十秒経過しても、あなたは強風を止めない。
しかもあなたは、下がっていた一人目のメイドを呼びつけ、強風に耐えている二人目のメイドの両足に、いやらしく絡みつけと命令した。
「はい。ご主人様」
四つん這いになった一人目のメイドは、二人目のメイドの下半身にまとわりついた。二人目のメイドはバケツを死守しながらも、喘ぎ声を我慢出来ずにいる。風の音で声がかき消されてしまうのが残念だ。
二分以上はメイド達の様子を眺め続けてから、あなたは装置を停止した。一人目のメイドには二人目のメイドのスカートがかぶさる。
検証は終了だと伝えると、一人目のメイドはスカートの中から上半身を出して、立ち上がる。横に並んだ二人はあなたに頭を下げた。
あなたはまたも、嘘をついていた。検証はまだ終わりにしない。
二人のメイドから少し離れた後に、あなたは二人に言う。強風でスカートを舞い上がらせて下着を見たかっただけで命令を下したこの愚かな主人を、――首を絞めて殺せ、と。
「はい。ご主人様」
一人目のメイドはためらいなく従う。
あなたへと近づいて来る彼女は、本気に見えた。
「えっ、えっ?」
二人目のメイドは混乱していたが、バケツを床に落とし、一人目のメイドを止めようと動いた。
一人目のメイドの両手があなたの首に向かったのを見て――、やっぱりやめろとあなたは命令した。
「はい。ご主人様」
あなたと顔が近くなっていた一人目のメイドは、両手を下げた。
「良かったです……」
二人目のメイドは、一人目のメイドの背後で、ほっとしたような表情を浮かべている。
安堵する彼女に対し、殺せと命令したのに、逆に助けようとしたのかと、あなたは問う。
「……はい。申し訳ございませんでした、ご主人様……」
二人目のメイドは、深く頭を下げた。人としては正しい判断をしたのに、自分の嘘で謝らせてしまった。あなたは良い気分がしない。
気にするなとあなたは伝え、二人のメイドを見た。
彼女達にはそれぞれ違いがあっても、いつもあなたの近くにいてくれる。あなたも、彼女達のことを気にかけている。
『男子って従順な女子が好きなんでしょう?』
今日の朝、登校中に横で聞いた問いかけが頭によぎる。
検証するまでもなかった。
□
翌日の休憩時間に、
「私とこの子、どっちが好きなの?」
横で王立学園の女子生徒がこんなことを聞いてきた。
茶色い髪を一本の三つ編みにした彼女は、あなたのメイドだ。いつも従順な彼女に対し、家の外では普通な感じの女子生徒を演じろと命令している。
質問をしてきたメイドには、昨日、助けようとしてくれた子だと、あなたは答えた。
「君から殺せって命令をしたのに、それはひどくなぁい? 私のこと、嫌いなんだー」
「そういう言いかたは失礼ですよっ!」
従順さで劣るほうのメイドが注意する。彼女には普通の女子生徒を演じろとは命令していない。
「なーにその態度。命令に忠実でない子が私を叱りつけるなんて、失礼しちゃうなぁ~」
従順なほうのメイドが、劣るほうの背中に抱き着いて拘束する。なお、彼女の胸部は大きくない。背中に抱き着かれているほうの胸部は、やや大きめだった。
制服姿の二人を見ながら、あなたは胸部の小さいほうに言う。ためらいなく首に両手を回したくせに、撤回する時間をくれたほうも、助けようとしてくれた子に含まれるだろう、と。
この時の従順なほうのメイドが、呆気に取られた顔をしていたのが印象的だった。
「……少しだけ、メイドに戻らせて頂きます。従順でなくてすみませんでした」
謝罪する彼女はすでに同僚の拘束をやめている。
あなたは彼女に、従順かどうかは主人が決めることだと述べた。だとすれば、お前は従順だ、とも話す。
「おっしゃる通りです、ご主人様」
彼女の表情の変化を感じた後、どっちも好きなのにどっちを選べなんてことを聞くなと、あなたは注意した。
「はい。ご主人様」
違う、普通な感じの女子生徒として答えてほしい。そうあなたは頼む。
「……うん。聞いてほしくないことを聞いてごめんね。もう聞かないから。でも、私のことは、ずっと好きでいてね」
「わっ、私のことも好きでいて下さいっ!」
あなたは二人に、当然だと、偉そうに答えた。
二人のメイドのことが好きなのは嘘じゃない。明日もこれからも、きっと好きでいられる。
その感情は、あまり態度では示したくないけれど。
(終わり)
当初予定していた内容は解説風だったので、だいぶ違ったものになってしまいました。
最後まで読んで下さり、ありがとうございました。




