カエル、爆音、未払い
ここが依頼のあった村か…」
アインは呟く。
「ほっほっほっ、ようこそおいでくだすったお兄さん。
ここは、ああああ村じゃ」
出迎えた老人は言う。
「ああああ村だって?なんだゲーム適当につけた様な名は
そういうのは後になってから後悔すんだぞ」
アインはボヤく。
「まぁまぁそう言わずに、その手に持っている紙を見るに依頼を受けてくれたんじゃろ?
ささ、中に入ってくれるかのぉ」
老人は手招く。
「まぁここで悶着しても無益だろうし行くか」
アインはそう言い、老人が向かった建物へ歩を進めた。
「で、依頼したのはジジイお前か?」
アインは問う。
「ワシではないのぉ…こんな依頼をするのはワシの娘くらいじゃな」
そう言い奥へ目をやる。
「ルルゥー!客だぞー!」
老人は叫ぶと奥から
「はぁーい♡」
となんとも言い難い、最大限可愛らしくしようと努力した結果の声があれなのだろうと思われる返事が返ってきた。
「…まずい!」
アインは過去の経験からこのパターンはあまりよろしくない事を知っていた。
2つのパターンである。
1つ。
本当に可愛いが田舎の為、可愛いさアピールが間違ってる場合。
この場合はなんとか都会の常識を教えてやることで改善が出来る。
2つ。
村で女性が少なくあまりお顔がよろしくないが発言権を持っている為周りが現実を教えなかったが為に勘違いしたパターンだ。
特に後者は今まで自分が頂点、クイーンであったが為転落だけはどうしても避ける。
そうなったら後は泥沼だ。
誰かが犠牲になるまでこの戦争は終わらない。
「お待たせー♡」
そう声を出し奥の部屋から姿を現したのは…
「カ、カェッ…」
アインは言葉に詰まる。
詰まらせて正解だった。
なぜなら奥の部屋から現れたそれはヒキガエルのような肌に天然ガスを貯蔵するための丸型タンクの様な腹をした巨漢だったためだ。
これを怒らせたら村ひとつ消える自信があった。
「カ?」
カエル女は先程言葉を詰まらせ放ちかけたアインの言葉の続きを催促する。
「カ、カカカ、カワイイデスネ」
アインはなんとか答えを搾り出した。
「あらー♡う、れ、し、い〜♡」
と、カエル女は喜んだ。
喜びを表すため跳ねているが跳ねる度に家が揺れ天井の埃が落ちてきてお気に入りのジャケットに降りかかるのでやめてもらいたい。
「そうですか…ハハハ…」
そりゃそうだ、外からの男に言われたのだから。
自分も都会に認められたと思うのだろう。
とアインは無意味な考察をする。
「そうかそうか兄さんもそう思うのじゃな、やはりうちの娘は可愛いじゃろ〜」
老人は愛娘の可愛さを誇る。
「マジかよ…」
アインは誰にも聞こえない声量で呟く。
よく見たらこのじいさん目ヤニでほとんど目を開けていなかった。
娘の現状など見えるわけがなかったのである。
アインは気を取り直して切り出す。
「で、お前がこの依頼をしたのか?」
「そうよぉ〜」
依頼人の確認をするアインとそれに応えるカエル。
「じゃあさっさと行くか」
席を立つアイン。
「頼りにしてるわよん♡」
と肩を叩くカエル。
………痛い。
スリッパで叩かれたような痛みがした。
―ああああ村近辺の森―
「ここが薬草の取れる森だな?」
「そうよぉ」
「あまり奥には行かないから安心してちょうだい♡」
「あ…あぁ……助かる…」
「でも〜あたしの王子様に助けて貰えるならぁ〜あたしぃ〜森の奥まで薬草取るの頑張っちゃおうかしら〜♡」
アインは動揺した。
…あたしの王子様?貴様の王子になる約束はした覚えがないぞ?なんなんだ?
「どんな時でも守りますよ…」
依頼だからね…
「う、れ、し、い〜♡じゃあ早速取りに行きましょ♡」
カエルは森へ入って行く。
アインはこのまま帰ってこないでくれと祈ったが依頼を思い出しすぐに後を追う。
「見て見て〜王子〜♡こんなに採れたわよ♡」
自身の背丈の半分くらいの大きさの籠いっぱいに詰まった薬草を見せるカエル。
やはり自然に帰した方がこの子も幸せではないのか?
と思いつつもアインは
「沢山採れたな」
と返事をした。
「愛のパワーってやつかしら♡」
カエル女は言う。
…無視するか。
「あらあら照れちゃって♡」
とカエルはまだまだ勘違いだと気が付かないままほざいている。
「おい、止まれ」
アインは違和感に気付き腰の銃に手を伸ばす。
「あらここで休むの?確かにここは広いし空気も澄んでいていいデートスポットだもんね♡」
戯けた事を言うカエル。
「違う、敵だ」
アインは短く伝わるように説明した。
「嘘、アタシ死にたくないわよ…」
プルプル震え出すカエル。
普段からこれぐらい静かならやりやすいのだが。
そうこうしてる内に茂みや木の裏などから3匹のシバ・ウルフが現れた。
「囲まれたな…」
アインは面倒そうに言う。
「ちょっとちょっとぉ!囲まれたわよ!」
先程までの色気を微塵も感じないセクシーボイスだったカエルが緊張した声色で報告をする。
「これだからパーティは嫌なんだ…」
一人ならアインでも圧勝出来ただろう。
だが今は護衛対象がいる。
動かせないアキレス腱を抱えたままではアインも動くに動けないのだ。
そう考えている間にもジリジリと距離を詰めるシバ・ウルフ。
すると
「いんやぁあああああ」
とベヒーモスが如き雄叫びをあげ泣き叫ぶカエル。
風圧を感じるその泣き声は聴力があまり高くなく両手で耳を塞げる人間種のアインならともかく耳が良く、手で塞げないシバ・ウルフ達には致命の一撃だった。
「もう大丈夫か?」
暫くした後、カエルに声をかけるアイン。
「怖かったぁ〜」
と、ぐずるカエル。
…お前は一体自分が幾つだと思っている。
「まぁ後はカエル…帰るだけだから行こうか」
とカエルの手を(触りたくは無いが)引く。
―カエルの家―
「という訳で依頼を達成したからこの依頼書にサインもしくは判を押せ」
依頼書を机に置くアイン。
「分かりましたわ……これでいいかしら?」
「あぁ、問題ないな」
依頼書を改めたアインは村を出た。
―冒険者カンパニー1F受付―
「ということがあったんだ…働くって辛いな」
アインは愚痴をこぼす。
「そりゃ災難だったな」
ギリガンは言う。
「他人事だと思いやがって」
アインはギリガンを睨みつける。
「そりゃあ他人事だからな」
言葉をそのまま返すギリガン。
「やるか?」
腰の銃に手を伸ばすアイン。
「報酬を受け取るか報酬から弁償するかどっちがいいんだ?」
と問うギリガン。
「受け取る方に決まってんだろ」
手を元の位置に戻すアイン。
「じゃあちょっと待ってろー…」
金庫を開けようとするギリガン。
しかし、冒険者カンパニーの戸が勢いよく開かれ…
「大変です社長!今すぐ来てください!」
職員がギリガンを呼んでいる。
「なんだ?今行くぞ!」
ギリガンはそのまま職員の方へ走り去る。
「おい、俺の報酬はどうすんだ!」
叫ぶアイン。
「あぁ?ああ!」
ちゃんと聞いているのか分からない返事して去るギリガン。
「なんじゃこりゃあ!」
聞いた事も声を上げ驚くギリガン。
ギリガンの見たものとは…
これからは後書きにキャラ紹介や資料乗せます。
Character
老人
ああああ村の老人。
目が悪く目ヤニで瞼がほとんど開かないため娘の醜態が分からず毎日「可愛いのぉ〜」と言ってはカエル女をつけあがらせている。
ルルゥ
カエル女。
豚よりも鼻が利く。
カエルと書きすぎて作者にキャラ紹介まで名前を忘れられていた。
職員
冒険者カンパニーの事務員。
変わらない日常を愛し、ちょっとでも変化があると不機嫌になる扱いにくい人。
Monster
シバ・ウルフ
ああああ村以外の森にも数多く個体が確認されている狼。
シバイヌとこの世界特有のオオカミとの混血により生まれた。
日本犬の血が入ったオオカミで見た目はニホンオオカミに近くなっている。