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マジの旅立ち

最終話になります。


 ……て、悠長に構えている場合じゃない。


 頂上から桜島みたいな噴煙が上がっているのが見える。

 この山――噴火してるじゃん!


 あれ? みんなは?


 シモーネさんも老ドラゴンもいない。

 嘘でしょう?

 待っててくれたっていいじゃない!



「ちょっとー! シモーネさーん!」


 立ち上がるとふらついてしまった。


 ……あ。

 頂上を見上げているっていうことは、中腹あたりにいるのかな?

 五合目位? ――と思ったら、ずりっと、立っていた山肌が崩れた。



「うわー」


 散々転がってから止まった。


 とりあえず生きてる。一気に麓まで転がっていたら死んでた。

 なんか平なところがあってよかった。助かったー。


 でも痛い! もう体中至る所が痛い。全身打撲だ。

 口の中に土が入って気持ちが悪い。


「ぺっ。ぺっ」


 ああでも。リュックがいいクッションになってくれたお陰で、この程度ですんだのかも。

 ん? これって……。



 ――これならば、谷から落ちても鞄が無くなったりしませんね。



 あの店主の声がよみがえる。まさかの伏線回収じゃん。

 やめてよー。言霊ですかー。


 それよりも、うがいしたい。俺、水持ってたっけ?

 とりあえず口をゆすげる物を出そう。


 ゴミ箱からお茶を出して顔にぶっかけてから、うがいをした。




「ふう」


 一息ついたら、老ドラゴンが飛んでくるのが見えた。





「ほう。そなた、無事に戻ったのだな」


 無事に戻れない可能性もあったの!?

 思わず老ドラゴンを睨んだけど、でっかい金色の瞳は一秒以上は見られない。


「あ、あのう。おじいさん。……あ。なんとお呼びすればいいんでしょう?」

「私の名はヴィルヘルムだ」


 へぇー。なんかごっつ。古めかしい感じもする名前。



「あー。ヴィルヘルムさん。みんなはどこですか?」

「そなたの連れなら、突然吹き出した溶岩の近くにいる。あれは、そなたがやったのか?」

「うーん。多分。そうだと思います」

「では、お眼鏡にかなったということか。大したものだ」

「あ、ありがとうございます。あのー。できればそのー。みんなのところに……」

「ああ。よかろう」


 ヴィルヘルムさん。皆まで言わなくても分かってくれた。

 やさしいんだな。


 だけど、うわっ。やっぱり胴体をくわえられるのは慣れないー!


「ぎゃー!!」





「ほら。着いたぞ」


 ぼとんと落とされると、地面から熱を感じた。

 あっつ。

 蒸し暑い猛暑日のアスファルトの上にいるみたい。


 みんなは――。





 ……え? 

 ……ちょっと。

 おいおいおいおいおい。おーい! おーーーーいっ!!


 ……た、タツが、とてつもなく大きくなってる!! なんか、すっごくでっかくなってる!!


 ぅええっ!? マグマを食べただけでそんなことになるの?

 じゃ、レッドドラゴンって、生まれてすぐマグマに浸かって、ドドドーーンッて成長するわけ?


 いや、もう。マジで勘弁してほしい。

 ついていけないよ。



 キュウは?

 まさか本当にマグマにぽちゃんって――?


「おおい! キュウ! どこだー?」


「キュウ! ここでしゅ!」


 タツがいるマグマの噴出口からは少し離れたところで、地面に顔を擦り付けている。

 振り向いたキュウの、膨らんだほっぺには見覚えがある。


 地面を頬張っていたんだ!

 そっかー。食べられる鉱石が見つかったんだね。


 あ! すごっ。

 キュウは、すぼめた口からスイカの種を吐くみたいに、石ころを吐き出した。


 なるほど。

 鉱物以外の土とか石とかは吐き出すのね。





 ……………………。


 鉱物を頬張るスライム。

 打たせ湯みたいに、マグマを全身に浴びて喜んでいるドラゴン。

 山の主みたいな巨大な老ドラゴン。


 この、魔物バンザーイみたいな光景は何?

 俺、こんなところで何をしてんの?



 俺、インドア派だよ。

 なのに、なんでかずーっと外にいるのよ。

 それも、魔物とか魔術師とか、普通でないものたちばっかの中で。

 基本、安全で快適な室内でゴロゴロしていたいわけ。


 ……それなのに!


 なんだか無性に人のいるところへ行きたくなった。

 人混みの中で、もみくちゃにされてもいい。

 誰でもいいから人と話したい。

 人間らしく人の群れの中で過ごしたーい!





 バシン!


 ああ、もう。だから声をかけてくださいってば。

 背中をさすりながら振り返ると、シモーネさんが偉そうに立っていた。

 見下ろすような眼差しで、俺のことを見上げているんですけど。



「ワシらで奪われたレッドドラゴンの卵を探すんじゃ」

「は?」


 なんですって? 

 得体の知れない魔術師たちから、タツの兄弟を奪い返すって言ってます?

 いつ決まったの? 誰が決めたの?


 いやいやいやいやいや。無茶でしょう。


「ちょっとシモーネさん。いつの間にそんな話が出たんです? 俺は反対ですよ」

「お主はタツの兄弟がどうなっても構わんと言うのか? タツの気持ちなどお構いなしか!」


 大きくなったタツが、バサッバサッと飛んできた。

 ……慣れない。やっぱ恐怖を感じる。


「……ご主人様」

「た、タツ。いやあ、あのね。俺が言いたいのはだね――」

「キュウが必ず取り返してみせるでしゅ!」


 いつの間にかキュウまで寄ってきて、タツの大きな足に、ぷにょんぷにょんと体当たりしている。


 いや、キュウさんや。自分の力を過信してはいけませんよ。

 それにしても、どうしてキュウはそんなにも好戦的なの……?


 危ない。このままじゃ、雰囲気で押し切られてしまう。

 そんなの絶対にダメだ。




「と、とにかく。今度こそ、いったん街へ行きましょう。何をするにも、まずは普通に人間がいるところに行ってからです! それだけは譲れません!!」

「ふむ。そうじゃな。まずは情報収集じゃ。なあに。レッドドラゴンなら、どこへだろうと一っ飛びじゃ」


 ふう。よかった。普通の街が目的地に決まりってことですよね。


「たっちゃん! みんなで頑張るでしゅー!」


 それを聞いたタツは顔を上げてニコッと微笑んだ――ように見えたけど、口からはマグマがポタポタ落ちている。


 あ、あっぶなー。

 今、タツにくしゃみとかされたら、俺なんか一瞬で蒸発しちゃうよ。



「よしっ! そうと決まれば早速出発じゃ。ぼやぼやしとる暇なぞないぞ!」






 は? だからってどうしてこうなる?


 老ドラゴンが見守る中、なぜか俺はみんなと一緒に、モクモクと煙の上がる山頂付近に並んで立っている。

 非常に不本意です。


 背中に夕日を受けて、共に眼下の景色を見下ろしているけど、ちっとも気が進まない。


 ――そう声を大にして言いたいのに。言いたいのにー!




 なんか、なんというか、いかにもこれから冒険が始まるって感じが気に入らない。

 気合い入りまくりの三人(一人と二匹)には悪いんですけど、俺は離脱したい。


 嫌なんですけど! こういうの、嫌なんですけど!


 人であれ魔物であれ、誰かと揉めたり、誰かに目をつけられたり、そういうの、本当に嫌なんですけど。


 絶対に嫌だからねー!


 ――嫌だからねー。

 ――嫌だからねー。


 口にだす勇気のない俺の脳内で、やまびこが悲しげにこだましていた。

第二章完結です。

ここまでお読みくださり、ありがとうございました。

ブクマ、評価、いいねをくださった皆様のおかげで、書き続けることができました。

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[一言] まだまだ続けられそうなのに完結なのかぁ淋しいな お疲れ様でした
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