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これが旅立ちってやつ?

第一章の最終話になります。

 門に近づくにつれて動悸が激しくなってきた。ヤバい。心臓の音で不審者ってバレそうな気がする。




 とうとう俺たちの番が来た。



「身分証」


 うわっ。兵士の顔は見えないけど、偉そうな言い方で嫌な奴って分かる。


 別の兵士が荷台に回り込もうとした時、「荷台に構うでない!」という声が聞こえた。

 俺は自分の耳を疑った。


「なんだと! 貴様、誰に向かって――」

「ワシじゃが?」


 今、兵士と会話しているのって、お婆さんのはずだよね?

 なのに、どうして!?


 ラブコメアニメのヒロインみたいな可愛い声がしたんですけど!?



「だ、大賢者様! い、今までどちらに!?」


 大賢者様? 大賢者様って言った?


「このワシに申し開きをしろと?」


 うわー。見えないんだけど、今、絶対、兵士を睨み返してるよね。


「あ、ああいいえ。そ、そんな。いいえ! 滅相もございません!」

「ふん。荷台にあるのはワシの私物じゃ。触るでない」

「はっ! そ、それで今日は――」

「ちょっと用があってな」


「は、はあ。い、いつ頃お戻りに?」

「そんなこと決めておらんわっ!」

「も、申し訳ございません!」


 老婆が口を開く度に、何人かの兵士たちが、「ひぃ」って声を出すんだけど。

 もしかして、みんなから相当恐れられている?



 ――と。それより、ちょっと色々聞きたいことがあるんですけど!



 老婆(大賢者様?)のお陰で、馬車はそのまま門を通してもらえた。


「い、行ってらっしゃいませ!」

「行ってらっしゃいませ」


 おおー。兵士たちが門の前に並んで一斉に頭を下げている。

 すっご。




 老婆はしばらくは道沿いに馬車を走らせていたけど、徐々に道をそれて森の中へと入っていった。


 なんだか嫌な予感しかしないんですけど。この辺って、あのトリケラトプスにやられたところじゃ――。



 馬車が通れる道がなくなると、人目もなくなった。

 老婆が馬車を止めたので、俺も荷台から降りる。

 俺が安心したせいか、キュウも勝手にポケットから出てきた。




「えええっーーーーーー!!」


 老婆が老婆でなくなっていた。


 白髪が金髪に。皺皺の顔がツルツルに。

 身長はそのままだけど、どう見ても十歳くらいにしか見えない。

 もう、ただの幼女じゃないか。


 胸なんて、背中じゃないかと思うくらいにストン。まあ、老婆の時もストンだったけど。

 貧乳ロリ。


 いや、「貧乳」とは、本来の成長を果たした末にある尊い言葉のはず。第二次性徴前なら、ただの「ぺったんこ」だな。



「ぺったんこ?」


 あ。こら、キュウ。今聞いたことは忘れなさい。

 そんな風に両腕をむにょんと伸ばして、胸がありそうな辺りを押さえるんじゃありません。




「ま、ここまで来れば大丈夫じゃ」

「あ、あのー。それより、なんで子どもに変身したんですか?」

「バカ者! こっちがワシ本来の姿じゃ。美少女大賢者として名高いワシじゃ!」


 え? 誰からも、一度も、先代の大賢者様が「美少女」っていう話は聞いたことないんですけど。


「なんじゃ。ワシに見惚れておるのか?」

「俺にそんな趣味はありません」

「はあん?」


 こっわ。

 幼女の顔なのに、老婆の面影がある。こっわ。


「ああっ! それ! そんな硬いもので俺をバンバン叩いてたんですかっ!」


 いつも老婆が持っていた枝は、身長の1.5倍はある立派な杖に変わっていた。ゲームの中で女神様が持っているような立派なもので、先端にはお約束の(?)青い石がはまっている。


「ふっ」


 老婆はニヤと笑ってから杖を振るふりをして、わざとらしく俺に向かって突き出した。


 いじめっ子かよっ!



「あ、それよりも! さっき、その、『大賢者様』って言われましたけど、それって――その、勇者を召喚したとかいう先代の?」

「そうじゃ」


 はあ?!


「どうして言ってくれなかったんです? それに大賢者様なら、今の賢者様に一言注意してくれるだけで、丸く収まったんじゃないですか! もうー!」


「はん。あやつに何を言っても無駄じゃ。ワシは引退した身じゃしな。だいたい、自分のことは自分でなんとかするもんじゃ」


 ええっ! そんなー。

 俺、もう他力本願が身についちゃったんですけどー。



「それにしたって、俺はこれからどうしたらいいんでしょう?」

「知らん」

「へ?」

「そんなことは知らん」



 出たよ。必殺、知らぬ存ぜぬ。


 俺たちがここにこうしているのって、半分くらいはお婆さんも関与しているよね?



「どうしよう。これからどこに行けばいいのやら……?」

「よしつね。泣かないで」


 ……はあ。

 こうやって、キュウを抱きしめて、ぷにょんとした感触に包まれていると全部忘れられる――訳がない。



「ふん。とりあえずは隣国でも目指すかの。他に行くあてもないじゃろ」

「そもそも俺にアテなんかあるはずがないじゃないですか」

「人に聞いておいてなんじゃ、その口の聞き方は!」


「……はあ。ちなみに、隣国って馬車でどれくらいかかるんですか?」

「知らん」

「え?」

「そんなことは知らん。ワシは馬車でなんぞ行ったことがないからの」

「え?」


「いつもドラゴンでひとっ飛びじゃ」

「よかったー。じゃ、そのドラゴンを呼んでください」

「おらん」

「は?」


 バシン!


 なんで?

 

 もしかして引退したら大賢者だった頃の力を無くしちゃうの?

 ()大賢者って、肩書きだけなの?

 じゃ、もうただの幼女じゃん。


 スライムと幼女と一緒に、旅に出るってか。

 三人いるとパーティみたいだけど、見た目からして、めっちゃ貧弱なパーティ。

 あ、でも、やっぱ勇者がいないんじゃ、冒険者のパーティじゃないよね。


 俺、ゲームでも職業で戦士は選択しないよ。いつも回復系だったもん。



 これじゃあ、今の俺たちの状況って、どう見ても「旅立ち」じゃなくて、「流浪の身」だよね。

 道連れは幼女とスライム。

 ……はあ。



「よしつねー。旅ってなんでしゅか? キュウ、楽しみでしゅ」



 え? キュウ? 俺のこの不安感って伝わってるよね?

 それよりもワクワクが勝ってんの?

 キュウは前向きなのね。

 ……はあ。



「スマホの神様! どうか、どうか、俺にゴロゴロ食っちゃ寝の生活を! もう一度、食っちゃ寝の生活を! どうかお願いします!」


 もう、あとは神頼みしかない。


 スマホの神様ー! 何卒よろしく! よろしくお願いしまーっす!

第一章完結です。

ここまでお読みくださり、ありがとうございます。

少しお休みしてから第二章の連載を開始する予定です。


よろしければ、ここまでの評価をいただけると嬉しいです。

第二章の連載開始については、活動報告でお知らせしますので、よろしくお願いします。

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