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上手に偽装工作(死んだふり)をしよう

 アドルフとテオドールの顔を見つけて、俺は泣きたくなった。


「よしつね?」

「しー!」


 キュウにも、俺のこの切ない気持ちが伝わったんだね。

 兵士である彼らは命令には逆らえない。仕方のないことなんだ。


 でもやっぱ嫌だー。

 これじゃあ、敵味方に分かれちゃったみたいじゃん。



「ふーむ。そうじゃな」


 老婆は、少し首をかしげて考えていたが、二人から目が離せないでいる俺の袖を引っ張って、人混みをかき分けて集団の前の方へと移動した。


 え? ちょっと。何するんですか。ヤバいでしょ。どう見ても、あれって、俺を捕まえるためでしょ。

 たった今、お婆さんがそう教えてくれたんでしょ?


 俺が無言で老婆にそう訴えかけると、老婆はニヤッと笑って大声で叫んだ。


「こやつ! 何者じゃ! こそこそ逃げようとしておるぞ!」

「はあーーーっ!?」


 老婆に抗議しようとしたら、枝を一振りされて兵士たちの前に弾き出された。


 いやいやいやいやいやいや。嘘でしょー!!



 あ。アドルフが俺に気づいた。うわー。顔を背けた。

 そっか、気がつかないようにしてくれてんだ。

 ……泣ける。



 何人かの兵士が、俺を見て、「あっ」という声を上げた。


 そっか。そりゃあ、俺を見たことある人間って、それなりにいるよね。

 宮殿の中をあちこち歩いて回ったからね。



「その男を捕まえろー!」


 やめてー!

 とうとう号令がかかった!


 俺の恐怖と焦りを感じたのか、ポケットの中のキュウが熱を持って膨らもうとしているのが分かった。




「キュウッ!」


 ぼよん、とキュウが飛び出て宙に浮いている! 

 バレたっ――と思ったら、レベル上げをした森の入り口付近にいた。



 ああ、まただ。もう何なの!

 

「あれれ? キュ?」


 キュウも突然の変化に戸惑ったらしく、不思議そうな顔で、ぷにょん、ぷにょん、と地面の上で弾んでいる。

 



 少し遅れて老婆がやってきた。


「ふう。お主が森へ逃げ込んだと吹聴してきたから、すぐに追っ手がやって来るじゃろ」

「どうしてそんなことをするんです!」

「ひどいでしゅ!」


 キュウもぷんぷん怒った顔で、老婆に体当たりした。


 そうだよな、キュウ。偉いぞ、よくやった!




「お主はここで死ぬんじゃ」

「はあー?!」


「あやつの望み通り死んでやれば、もう追ってはこんじゃろ」

「ひ、ひどいじゃないですか! 俺を助けてやったとか言っていたくせに。今度は俺を殺して教会に取り入るつもりですか!」


 バシン! バシン!


 過去一の強打。い、今、息ができなかったんですけど。



「バカ者! 何も本当に死ねとは言っとらんわ!」

「へ? じゃ、じゃあ……」


「森へ逃げて、魔物に襲われて死んだと思わせるんじゃ。お主は力を持たぬ平民と思われておるからな」

「確かに」


 そうだ。あの賢者様と会った時、俺はレベル1だった。その後レベル上げしたことは、アドルフたちしか知らないはず。

 あの二人ならきっと黙っててくれると思う。

 今はそう信じるしかない。


「服を脱げ」

「はいはい」


 俺がスエットを着て、使用人の制服を地面の上に投げ捨てると、老婆が枝でポンと制服を叩いた。

 すると、あーら不思議。

 制服は引き裂かれて半分くらい無くなった。


 なるほど。

 これなら魔物に襲われて亡くなった後みたいに見える。

 さすがに肉片まで散らすことはできないけど。


 そうだ。念の為、身分証も破って破片を残しておこう。もちろん、ちゃんとコピーしてからだけど。

 ふっふっふっ。



「なんじゃ、その服は? 目立つような格好をしおって。これでも被っておれ」


 おっと。そうだね。スエットって、この世界じゃ変だよね。


 老婆がよこしたのはフード付きのマントだった。なんだか賢者様ご一行を思い出しちゃうんですけど。





「すぐ来るかと思ったが、何をしておるんじゃ。まったく。お主、その辺に隠れておれ」

「え? 隠れるって言われても。どの辺に?」

「知らん。見つかるなよ」

「え?」


 それだけ言うと、老婆は消えた。

 もうー。


「こっちでしゅ」


 キュウが俺の足に抱きついてきた。

 なんだキュウ。いい隠れ場所を知ってるのか?


「キュウ、知ってるでしゅ。よしつね、ついてくるでしゅ」


 よしよし。それじゃあ一緒に隠れていようね。言うこと聞かないとまた叩かれるしね。


 キュウの案内で、俺は森の奥に入って行った。





 しばらくすると、ガヤガヤと大勢の声が聞こえてきた。

 短気な老婆は、目撃者のふりをして兵士たちを呼び寄せたらしい。


 どうかな? うまくいったかな? 俺の死亡を信じてくれた?





 人の気配がしなくなるまで待っていると、老婆が姿を現した。


「うわっ。一声かけてくださいよー」


「やかましいわ。それより、どうやら、うまくいったみたいじゃ。なあに、召喚できなんだとしても、そこは、『やっぱり召喚術は一度しか使えない』と納得して終わりじゃ」


「じゃあ、もう俺は大丈夫なんですね」

「ああ、この国を出ればもう安心じゃ」

「……は? 国を出る?」

「当たり前じゃ。大勢に顔を見られておるからな。しかも死んだんじゃ。このままこの国におれる訳がなかろう」

「そんな――」


 ……終わった。


 ああ、俺の日常が。幸せだった怠惰な日々が。

 こうもあっけなく終わるとは。


 スマホの神様ー! 聞こえていますか神様ー!

 こんなのってあんまりですー!

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― 新着の感想 ―
緊張感なさすぎのダメ人間だなぁ
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