表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

25/48

普通の夜

 ちゃんと服を着たというのに、まだ三人は俺をまっすぐ見ようとしない。

 最初に立ち直ったのはアドルフで、軽く咳払いをしてから話し始めた。


「実はその。着替えをお渡しするのを失念しておりまして。本当に申し訳ございません。テオドールに言われて思い至った次第でして。遅い時間に失礼かとは思いましたが」


「いやっ。それは助かります」


 頼むから、今後もこれまで通りに俺に接してね。



 それより、普通はこんな風に着替えを用意してもらうなんて、平民の使用人にはありえない待遇だよね。

 きっと、俺と同じ身分の使用人が、俺の服を洗濯するんだろうな。

 まあ明日から俺が誰かの分を洗濯することになるもしれないけど。



 隊長が二人の背中を押して、部屋の中に入るとドアを閉めた。


「お、おほん。それより、よしつね様、それはいったい……?」


 あ! キュウ――かと思ったら、隊長の視線の先にあったのは卵の入ったバッグだった。

 よかった。キュウが見つかったのかと思った。


 それにしても、こんなにも早く()()っていう時がくるとは思わなかった。


 でも、いくら卵入れだからって、卵が入っているって分かるものなの?

 卵入れ以外に使う人だっているかもしれないよね。


「ああ、これはその――」

「もしや卵ですか?」


 やっぱ分かるんだー! 

 じゃあ、これって誰が見ても、卵が入っているって丸分かりなのね。


「ああ、はい。たまたま森で拾ったんです」


「たまたま――ですか。さすがですね、よしつね様。拳くらいの大きさの卵でも珍しいのに、そのような大きな卵をお持ちになるのは、大賢者様以来ではないでしょうか」


「そ、そうなんですか。あは。あはははは」


 真顔の隊長が怖い。


「やはり、よしつね様には、我が国の――」

「隊長、さすがにそれは。それに今日はもう遅いですし」


 何やら恐ろしいことを言いかけた隊長を、アドルフが制してくれた。



 俺は教会の見立てが正しいと思います。

 もう、ゴロゴロ食っちゃ寝が生きがいの怠け者なんで。はい。

 この国のためにどうこうっていう話は、慎んでお断りします。はい。



「……はあ。それでは、我々はこれで失礼致します。他にもご不便な点があれば、遠慮なく、アドルフやテオドールに申しつけてください」


「ああ、いいえ。二人にはものすごくよくしてもらっていますし。今のところは何も問題ありませんから」


「そうですか。それでは」


 三人はぺこりと頭を下げてから出ていった。




 はあ。びっくりした。まあ、驚いたのはあっちの方かもしれないけど。


 あれ? そういえばキュウは? 

 卵入れなんかより、スライムの方がびっくりしない?


 あれれれ? どこだ?



「キュウ?」

「ここでしゅ」


 なんだー。小さくなってベッドのシーツの下に隠れてたのか。

 白いから分かんなかったよ。

 そっか。俺がギョッとして体を硬直させたから、諸々察して隠れたんだね。


「えらいぞー」

「よしつねー。キュウ、えらいでしゅ」

「おお、えらいぞー。キュウはえらいなー。あっはっはっ」


 キュウを高い高ーいしてやると、キュッキュッと喜んだ。




 あー。それにしても、なんだか一気に酔いが覚めた。

 いい気分だったのに。

 ま、いっか。


 とりあえず、床にべちゃっと積まれた下着を、椅子やテーブルにかけて広げる。朝までに乾いてくれると助かるんだけどな。


 それから、ユニークでスエットを購入して着替える。

 そうしてベッドに仰向けに倒れ込むと、なんか、普通の夜って感じ。


 そういや、これまでは気絶か寝落ちしかしてないもんな。

 ちゃんと夜のルーティンをやって就寝っていうのは初めてだ。


 そう思いながらも、ベッドの上でゴロゴロしてコミックを読んでいたら、案の定、寝落ちしてしまった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
完結しました!
『追放された悪辣幼女の辺境懺悔生活 〜チート魔法と小人さんのお陰で健康で文化的な最高レベルの生活を営んでいます〜』

カドコミで『転生した私は幼い女伯爵』のコミカライズ連載中です‼︎
フォローよろしくお願いいたします‼︎

『転生した私は幼い女伯爵3 後見人の公爵に餌付けしながら、領地発展のために万能魔法で色々作るつもりです』
⭐️⭐️⭐️⭐️アース・スターノベルから3巻発売中!⭐️⭐️⭐️⭐️
あらすじや口絵イラストはこちらの特集ページをご覧ください。
ご購入はこちらから。amazon 楽天紀伊國屋書店ヨドバシカメラなど
i988178

『転生した私は幼い女伯爵 2 後見人の公爵に餌付けしながら、領地発展のために万能魔法で色々作るつもりです』
コミカライズ企画も進行中です!
各サイトで発売中amazon 楽天紀伊國屋書店ヨドバシカメラなど
i928141

①巻はこちら
あらすじ等はこちらの特集ページをご覧ください。
amazon 楽天 紀伊國屋書店ヨドバシカメラ
i901832

『私が帰りたい場所は ~居場所をなくした令嬢が『溶けない氷像』と噂される領主様のもとで幸せになるまで~』
DREノベルスから2巻発売中!
i929017
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ