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スライムと契約

やっとスライム登場です。

 宮殿に戻ろうとした俺の背中に衝撃が走った。

 もう嫌でも分かる。老婆が枝で小突いたんだ。


 なんで? 俺、ここまで頑張ったよね?

 振り返ると、丸まっていた背中を伸ばした老婆が、枝を振り上げていた。


「これ! 誰が行っていいと言った!」


 え? 俺のことを何だと思ってんの? 

 その――言うことをきかないなら叩くぞ、っていうポーズは、おかしいと思うんですけど。


「命の恩人を無視するとは信じられん」

「ええと。それを言うなら、俺が助けたんじゃ……?」

「バカ者! お主風情がアレを倒せるものか。死にかけておったくせに」


 うわー! やっぱり? 俺、死ぬところだった?


「いや、でも。お婆さん。戦えるんですか? いや、戦った、ってことですか――ね? 相当お強いんです――ね?」


 なんか言い方を間違えると折檻されそうで怖い。


「ふ。その場におって分からんとはな。情けない召喚者じゃのう」

「ええっ! 俺のこと、召喚者って分かるんですか? そっか。宮殿の外の人にもバレてるんだ」

「バカ者! ワシだからじゃ」


 ん? うーん。

 見た目じゃ分かんないけど、相当な猛者だったりする? 

 こんなお婆さんだけど? いやー、ないな。ないない。


「お、お名前を伺っても?」

「名などないわ」


 え? お前に名乗る名などないっていう意味の「ない」? それとも名前を持っていないの?


「どちらにお住まいなんですか?」

「そんなものは決めておらんわ。ワシは気の向いたところで寝るんじゃ」


 うそ。異世界で路上生活? 

 いや、この世界だと、地面の上とかで寝るのが普通って可能性もあるか……?


「そんなことより、ワシは腹が減ったぞ」

「は?」


 俺にどうしろと?


「飯じゃ。ほれ。行くぞ」


 いや、来ないで。待って! ううっ!

 そんなヨボヨボなのに、なんで背中に飛び乗る時だけは、ラガーマンみたいになるのよ。




 そんなこんなで結局、部屋には戻れず、老婆に食事を奢るはめに。


「ここの肉盛りはうまいぞ。お主も遠慮せずに食え」


 ……ええと。

 わざわざ支払いは俺って念を押してから店に入りましたよね? 俺の奢りなんですけど。


 でも確かに、満席の居酒屋みたいな雰囲気で、人気店なのは分かる。それに応えるみたいに、運ばれている料理は全部大盛り。ちょっとサービス過剰じゃない?


 でもなー。この国の料理って、よく考えればちょっと不安になる。


 「肉」って言われても、いったいなんの肉なのか怖くて聞けないし。そもそも牛とか豚とかっているのかな? 魔物肉なら絶対に口にしたくない。


「お、俺は、まだ腹が減ってないんで」

「ほえ? そうか?」


 とにかく、どこかで老婆を振り切って、部屋に戻ったら牛丼でも食べよう。


「なんじゃ? 若い女子(おなご)ならよいのか? この見た目が気に入らんのか?」

「へ?」

「お主の考えなどお見通しじゃ」


 えっと? 今考えていたのは牛丼のことですけど? 

 格好つけて間違えてるじゃん。


 ゴツ!


 信じられない! 

 老婆が俺の額をカチ割りにきた。木の枝なのに、金槌で叩かれたみたいに脳が揺れたよ。


「生意気なことを考えるでない。顔に出ておるのじゃ」




 もう俺は黙ることにした。向かいに座っている老婆の顔なんか見ない。

 無視だ。無視。無視。




 老婆が食べ終えると一ギッフェ――安っ。コインちっちゃ! ――を支払って、さっさと店を出た。


「ふん。お主の礼儀がなっていないのは、召喚者ということで許してやる。だが早く身につけることじゃな。まあでも今は、腹が膨れたので気分がよい。ついて来い」

「いえ。ここで失礼します。私は宮殿に戻らねばなりませんので」

「嘘つけ。こんな時間にぶらぶらしているということは、用など無いに決まっておるわ」


 ……す、鋭い。


「いやあ。ええと――」

「いいから来い。損はせんぞ?」


 いやあ。お金ならたんまりあるんです。もう損なんてしないんです――俺。



「ちっ。面倒な奴じゃ」


 老婆はそう言うと、枝で地面をトンと叩いた。




 は?


 一瞬で森の中に移動していた。

 何したの?! ってか、何するつもり?


「ほれ。色々おるのが分かるか?」


 いや、なんか、深ーい深ーい森の中みたいなんですけど。俺、大丈夫なの?


「キュウ」


 ひえっ。

 なんかの鳴き声が聞こえた。

 ちょっ、ちょっと、危なくない?


 老婆は品定めするように、「ふんふん」と辺りを眺めていたが、狙いが定まったようで、木々の間にヒュッと突っ込んで行った。

 老婆には、俺に見えていない物が見えているらしい。

 それにしても、老婆なのに、すごい運動神経。

 なんか、こわっ!




 ザザッと下草を揺らして、老婆が何かを抱えて戻ってきた。畑から大根でも引っこ抜いて持ってきたみたいだ。なんかずいぶん丸いけど。


「今のお主は力不足なんてもんじゃないからの。まあこれくらいなら契約できるじゃろ」

「え? 契約? 契約って――」

「もちろん、魔獣との契約じゃ。一人だと心許なかろう」

「ふえっ?」


 いや、だからー。

 俺、相棒ならモフモフ希望なのよ。

 魔獣って!


「キュウ」


 老婆は、「ほれ」と手に持っているものを俺に見せた。


 スライムだ! うわあ! 本物だ!


 スライムは、バースデーケーキの上の飾りのホイップみたいな――よくある涙の雫が大きくなったような――形をしていた。

 てっぺんがツンとツノが立ったような。いや、ツノじゃないか。

 なんかひねったような……。うーん。小籠包をつるんとした感じかな。

 というのも、白かったから。

 真っ白な体に、つぶらな瞳が潤んでいる。


「キュウ。キュウ」


 こいつの鳴き声だったのか。

 それにしても、この白いスライム――もう、めっちゃ可愛い!

 鳴く時に、口があるあたりが窪むのとかも、めちゃくちゃ可愛い!


「ほれ。手を出すのじゃ。お主の魔力でこいつを支配するのじゃ」

「え? 支配って? そんなのどうやって――うわあ!」


 どうしてそう、説明なしに行動に移すかね。


 老婆は俺に無理やりスライムを抱かせて、また枝で俺を小突いた。体がぽうっと熱くなる感じがして、スライムとのつながりを確かに感じた。


 こ、これが、魔獣との契約!? なんていうか、魔力というよりも精力を吸われているみたい。


「よし。それくらいで大丈夫じゃ」

「はあ……」


 老婆が枝でコツンと俺の肩を押した。


「ステータスを見てみろ」


 ん? スタータス? ああそうか。


「ステータスオープン」


 いやっほう!

 「契約魔獣」っていう項目が増えてる!


 お? 魔力が結構減ってる。スライムなのに、780も持っていかれたってこと?

 ――ってことは、いっぱしの魔物なら、数千とか数万とか必要になる訳ね。


Lv:16

魔力:4,470/14,800

体力:4,020/4,800

属性:

スキル:虫眼鏡アイコン

アイテム:ゴミ箱、デリバリー館、ウィークリー+、ポケット漫画、緑マンガ、これでもかコミック、魔力ポーション(4)、体力ポーション(3)、19,419ギッフェ

装備品:短剣

契約魔獣:スライム

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