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老婆救出

 門から出ても、取り立てて何の変化も感じなかった。

 街の中の大通りみたいに石畳で舗装されていない、剥き出しの地面が広がっているだけ。


 その中でもはっきりと道と分かるものが遠くまで続いている。多分、大勢が踏み固めるうちに草が生えなくなって、道のようになったんだと思う。


 周囲は森というよりも林という感じで、見渡す限り木が生えている。それでも密集しているようには見えないから、割と見晴らしは良さそう。

 鬱蒼とした暗い森じゃなくてよかった。そんなの怖いからね。


 でも、魔物が道の上を歩く訳がない。きっと林の中へ入らなければ出くわさないはず。

 行くしかないかー。

 無理そうならすぐに逃げられる範囲で探してみよう。




 という訳で、木々の隙間をぬって歩いているんだけど、何にもいない。


 ――どうして?


 まだこの辺りは賢者様の結界とやらが働いているのかな?

 仕方がない。もうちょっとだけ林に分け入ってみよう。




 ――あれれ? 結構歩いたけど、やっぱり何にもいない。

 魔物って、人里の近くにはいないものなのかな? もしかして遠出しないと遭遇しない?


 とか言っているうちに、木々が鬱蒼としてきた。ちょーっと奥まで入りこみすぎたかな。

 そろそろ引き返さないと道に迷いそう。



 トスン。トスン。トスン。


 遠くの方で、何か重たいものが移動するような音がした。



 ドン。ドドン。ドドン。ドドン。


 あれ? 音が近づいてきている? しかも重さが増しているような……。それに、さっきよりクリアに聞こえる。


「うぎゃー!」


 今、はっきりと男性の悲鳴が聞こえた。やばい。やばいかもしれない。



 ――逃げよう! 


 俺は反射的に走り出していた。


「ぎゃあー!」


 背中越しに聞こえる男の悲鳴って、こうも情けないものだったのか。


「ひいい!」


 恐怖におののく悲鳴に体が捕まりそうな気がして、脇汗がどっと出た。

 どこまで近づいてるんだ?

 怖いのに振り向かずにはいられない。


 立ち止まって目を凝らすと、木々が揺れているのが見えた。そこに焦点を合わせると、土煙が上がり、時々バチバチと地面スレスレに何かが光っている。

 稲妻が地面を這っているように見えたのは――トリケラトプスみたいな魔物の牙から発せられた攻撃だった。


 その魔物から必死の形相で逃げている男は、さっき、国境門のところですぐ前に並んでいたガタイのいい戦士風のいかつい男性だった。

 あんなにイキっていたのに。全然歯が立たなかったんだ――なんて言っている場合ではない。


 こっちに来るー!


 ちょっとパニックになりそうなんだけど。多分、逃げても俺の足じゃ追いつかれる。なら、ここで攻撃するしかない!


「ええいっ!」


 あのいかつい男性なら避けるだろうという希望的観測のもと、思いっきり短剣を振った。自分でもなかなかの竜巻が出たと思ったのに。

 恐竜チックな魔物の顔をなでただけだった。


 ……つまり。

 魔物を怒らせただけ。そして、俺の存在を魔物に教えただけ。

 うへっ! やってしまったー!


 ……よし! 逃げよう! 


 もう帰り道がどうとか言ってる場合じゃない。

 魔物は真っ直ぐこっちに向かっているから、ちょっと右の方にずれて、木々の間に隠れるように走ろう。


 ああ、もう。

 アドルフに緊急時の応援要請の方法を聞いておくんだった。なんて世間知らずのバカだったんだ。俺ってば、ほんと最悪。


 

 うへっ! お婆さん!?

 俺の後ろに並んでいたお婆さんがいる!

 なんで? 何をしてるの? ってか、どうすんの? ヤバいよ?!


「お婆さん! 逃げて! 走って! 早く!」


 俺は足がもつれそうになりながら、精一杯叫んだ。なのに、お婆さんは、「は?」って顔で俺のことをぼんやりした目で見ている。


「魔物! 魔物が来てるから!」


 「ほら、あそこ」と指さそうとした途端、地面の上を青白い光が走ってきて、俺の足にまとわりついた。


「ぎゃあああっ!」


 か、体が裂けたかと思った。

 痛いっ! めっちゃ痛ーーい!


 あれ? そういや俺、普通の布の服しか着ていなかった。ゲームでも防具は必須なのに。現実世界でやらかしちゃった。

 痛いのはマジで無理なんだよ。マジでー!


「うわああっ!」


 ヤケクソになって、目をつぶったまま短剣を死ぬほど振った。かまいたちやら竜巻やら、何かしらの風が発生したはずだ。

 頼むから攻撃が当たっててくれ。


 俺の攻撃のすぐ後、短剣の風のうねりとは違う、何か得体の知れないものが、俺の体の上をゴーっという音と共に飛んで行った気がした。



 なんだか急に静かになった気がして、おそるおそる目を開けると、魔物が丸こげになって倒れていた。


「は? た――倒した!? ええっ!? 本当に?!」


 全く手応えがなかったんだけど? それに、どう見ても巨大なオーブンで丸焼きにされたみたいな姿なんだけど?


「うおおおお! ありがとうございます! い、命の恩人です! ありがとうございます!」


 イキっていたいかつい男性が涙目で俺に駆け寄ってきた。


 えー? 俺の攻撃で倒されるところを見たんですか? 風の加護で繰り出される攻撃に、炎系が加わるようになったの?

 そんな急に? うーん?


「じゃ、私は先を急ぎますので。それでは」


 そう言うと、いかつい男性は走り去って行った。

 いやあ軽いねー。それだけ? まあいいけど。



「これ」


 ふん?


「これ。お主」


 あっれ? 俺、呼ばれている? 誰に?


「こっちじゃ」


 ――あ。声のする方を見ると、逃げ遅れた老婆がいた。シャンと立っている。


「あ、お婆さん。無事だったんですね」

「当たり前じゃ。ワシが助けてやったんじゃ」

「へ?」

「いいから、こっちへ来い」


 怪我でもしているのかな。助けてほしいなら素直に頼めばいいのに。

 手を引いてあげたらいいのかな?


「そっちを向くのじゃ」

「は?」


 手を差し伸べた俺に、背中を向けろと言っている。

 なぜ?


「おぉおおわああ」


 老婆がいきなり俺の背中に飛び乗ってきた。


「情けない声を出すでない。ほら、さっさと歩くのじゃ」

「え?」

「ワシは命の恩人じゃぞ。はよ街へ戻るのじゃ」

「いや。その――痛っ」


 枝で小突かれた。

 おんぶしてやっているのに。まあちっとも重くはないけど。

 でも、ま。帰ることには賛成。ちょっとのつもりが油断して深入りしていたみたいだし。


「じゃあ、お婆さん、行きますよ」

「バカ者! そっちではないわ」

「痛っ! あの、いちいちぶつの、やめてもらえますか。口で言ってもらえれば分かるので」

「ふん。生意気な奴じゃ」


 ああ、もう。

 あんまり関わりたくない種類の人だなあ。面倒臭い。




 それでも、途中、二、三度、「違う」「そこは左じゃ」などと命令されながら――しゃべる度に頭に枝を振り下ろされたけど――なんとか国境門まで帰ってこられた。


「はあ。ここまで来れば、もう大丈夫でしょう。あとは一人で歩けますね」

「何をぬかしておるのじゃ。はよ、門の中へ入らんか」


 え? 街中へ入るまで降りないつもり? 


「痛っ。わ、分かりましたから」


 おいおい。このお婆さん、どんだけ気が短いんだ。それに偉そうだし。


 門をくぐる時も、俺の背中の上から門番に確認させていた。

 結局、老婆に、「ここでよいわ」と言われるところまで歩かされた。


 降ろした途端に、「はあ」と大きなため息をついたら、また小突かれた。

 やれやれ。


 明日からは素直に、またアドルフたちに手伝ってもらおうかな。

 ところで、さっきのトリケラトプスの分って、どうなってるんだろう。


「ステータスオープン」


 うわあ! レベルが16に上がってる! けど、体力が激減している。380しかない!

 もしかして、あの攻撃をもう一回受けていたらヤバかったんじゃ……。

 と、とにかく、急いで回復しておかなきゃ。

 

 体力ポーションの高級品を飲むと、ぐわってきた。なんか力がみなぎる感じ。精力剤じゃないよね?


 ふう。いったん部屋に戻って休むか。


Lv:16

魔力:5,120/14,800

体力:4,800/4,800

属性:

スキル:虫眼鏡アイコン

アイテム:ゴミ箱、デリバリー館、ウィークリー+、ポケット漫画、緑マンガ、これでもかコミック、魔力ポーション(4)、体力ポーション(3)、19,420ギッフェ

装備品:短剣

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