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異世界で用無し

 夜勤明けで歩道をフラフラ歩いていたせいか、命よりも大切なスマホが手から滑り落ちた。


「うわっ」


 地面への落下はどんなことをしても避けなければ。俺は必死で手を伸ばし、万が一に備えて足も出した。


 午前六時とはいえ、道路の上を車は走っていた。キキキーーー!!

 体が宙を舞っている時、後ろの方で大きな音がした。


 あ、終わった。ジ・エンド。

 え? 人生ってこんな簡単に終わんの?


「ああでも神様! スマホの神様! いるならお慈悲を! スマホを守ろうとしたんです。何卒お慈悲を!」


 今思えば馬鹿みたいだけど。それが、俺が死に際に残した言葉だった。




 ――は?


 目を開けると、奇妙な人たちに囲まれていた。

 青や白のローブを着ている西洋人だ。


「成功ですな」

「やりましたな」


 何やら互いに褒めあっている。なんか分かんないけど、よかったんならよかったね。

 それで俺は……。ん? チカチカすると思ったら、魔法陣の上に立っていた。


 ……は? ……え? ……ほ?


「ようこそお越しくださいました。ささ、こちらへ」


 明らかに一番偉そうな、ゴテゴテした豪華な青いローブを着ている男が、そう言って俺を手招きした。

 どうやら魔法陣から出ろと言いたいらしい。


「……ええと?」


 何をどう聞いたらよいのやら。これってどう見ても――異世界転移なのよ。


 ……マジか?



 モゾモゾと落ち着きのない白いローブがしゃしゃり出てきた。


「賢者様。それよりも召喚者のレベルは?」


 召喚者――多分、俺のことね。この青ローブの賢者様とやらに召喚されたのね。

 それで、勝手に呼びつけておいて、白ローブの男は、まずは俺のレベルを知りたいとか抜かしている訳ね。ムッ!


「ステータスオープン!」


 おおおおーーー!!

 青ローブが叫んだ途端、目の前に、ゲームでお馴染みのステータス画面が表示された。賢者様とやらにも同じものが見えているらしい。


「なんと!」


 むむむ。そんなに驚くほどのレベルなのか?

 ――って。Lv1ってありますけど。いくらなんでもさすがにしょぼい。しょぼ過ぎる数字なのでは?


「属性は?」

「いったいどんなスキルを?」

「アイテムはいかに?」


 白ローブたちが色めき立った。みんな色々気になるんだね。俺が何者か――とかよりも先に。


「属性が――属性はない。スキルは丸印。なんなのだこれは? アイテムは空のバケツ。これは……」


 賢者様がプルプルと震え出した。ああ、失敗したっぽいね。想像と違ったんだね。でも俺のせいじゃないからね。誰かと間違えたんだよ、きっと。そっちがね。


 他の白ローブたちもざわざわと騒ぎ始めた。賢者様が倒れ込むように椅子に腰掛けて、右手をブルンと振った。


 それは、「つまみだせ」という合図だったようで、俺は何も説明されないまま部屋から連れ出された。




 廊下に出ると、兵士っぽい格好の男が二人いた。

 放り出される俺を見て驚いたということは、青ローブにかしずかれながら、恭しく出てくるとでも思っていたのかな?


 白ローブは、俺一人を部屋から出して、何も言わずにドアを閉めた。

 そりゃ面食らうよね。でも色々聞きたいのは俺の方なのよ。


「あのう。ちょっとお尋ねしたいのですが」


 二人とも俺に話しかけられるとは思っていなかったようで、ビクンと体をのけぞらせた。


「ええと。その。ここってどこなんですか。それと、どうして俺はここに連れて来られたんでしょうか?」


 二人は互いに顔を見合わせた結果、答えてくれた。


「先代の大賢者様が召喚された救世主様が、先日亡くなられたのです。そこで次代の救世主様を召喚することになったのです」


 そう言って俺の顔をじいーっと見る。


「いやあ。そうでしたか。俺は、救世主? ――じゃなかったみたいなんですけど。これからどうしたらいいんでしょう?」


「ええっ?!」

「嘘でしょう?!」


 こんな不幸なことってないよね。お互いにね。

 ……にしても。普通、異世界転移って、チートになるのが定番じゃない?


 あーあ。スマホの神様なんていなかった訳ね。願いは届かなかったのかー。

 どうすんのマジで。俺に何ができんの?


 三人とも泣きそうな顔で固まっていると、ドアが開いて、青ローブが出てきた。


 「責任とってくださいよー」とか、「いやいや無視はないでしょう」とか、とにかく何か言いたかったのに、フンと睨まれて、俺は声をかけられなかった。


 死ぬ前と何にも変わってないな。相変わらずのへなちょこ具合。



「この者のレベルでは話にならん。そちらで引き取るがよい。宮殿ではいつも人が足らぬと言っておったであろう」


 青ローブはそれだけ言い残して去っていった。

 そりゃないよー。いくらなんでも、そりゃないよー。


 兵士たちも困ったらしく、青ローブに続いてぞろぞろと出てきた白ローブに、すがるように尋ねた。


「ですが。召喚された救世主様は教会の方で――」

「救世主などではないっ!」


 白ローブが顔をこわばらせて兵士を怒鳴りつけた。

 一つ分かったことは――宮殿の兵士よりも、教会のローブたちの方が上らしいってこと。




 それにしても、不用品を下げ渡すような言い草。ひどくない?


「あ、あの。と、と、とりあえずお部屋にご案内しますので」


 兵士はいい人たちみたいだ。ローブどもより全然いい。ここにいてくれて助かったよー。




 案内された部屋は、ベッドやテーブルや椅子など、一通りの調度品が揃っていた。来客用の部屋なのかな?


 二人の兵士は、俺のことをまだ救世主として丁寧に扱ってくれているみたいだ。隊長を呼んでくると言って小走りに去って行った。


 とりあえず椅子に座ろう。


 はあー。どうしたもんかなー。

 一人になったところで、現実を見つめることにした。


「ステータスオープン」


 ドキドキしながら唱えてみた。

 おっほ! 出た! 表示された。

 なんだかゲームの主人公ぽくって、ちょっとウキウキしちゃう。


 もう一回自分のステータスを見てみる。さっきはすぐに閉じられちゃったから。

 おー。


Lv:1

魔力:100/100

体力:100/100

属性:

スキル:虫眼鏡アイコン

アイテム:ゴミ箱


 もしかしたら、「職業:救世主」とかって、表示されているはずだったのかな。


 うん?


 このスキルのアイコンなんだろ? さっきは「丸印」とかって言われていたけど。俺には普通に検索のマークに見える。


 タップしてみる。

 検索バーが現れた! タップできた! うおおおーーー!!


 これって検索できるってこと? 何が? 何を検索するものなんだ?


 今必要な物ってなんだ? とりあえず寝るところはある。服も着ている。衣食住のうち、ないのは食料か。


 うーん。「ご飯」と入れてみる。えいっ。


 うおおおおーーーーー!!!

 スマホの神様!! 神様ーー!!


 見覚えのあるアプリがずらずらと表示された。デリバリー系のアプリ候補が並んでいる。

 これって――。これって――。ダウンロードしたらどうなるんだ?


 やってみるしかないだろ。どうせ一回死んでいるんだし。さっき役立たずって烙印を押されたんだし。


 とりあえずいつも使っている「デリバリー館」にしよう。えいっ。


 ダウンロード中の、見覚えのある表示がくるくると回り出した。それと同時に俺の目の前もくるくると回りだして、息ができなくなった。

お読みいただきありがとうございます。

連載開始したばかりですが、もし興味をお持ちいただけましたら、

ブクマや、☆評価をいただけると嬉しいです。

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