私〜幼少期
お姉さんに猫耳帽子を毛糸で編んで持っていった。
ちょうど一緒にいたお兄さんが「かわいい」と言った。
「もう、普段、かわいいって言わないくせに」
帽子を嬉しそうにかぶったお姉さんが拗ねた声で言った。
「これ、私にくれるの?」
「うん!」
私は勢いよくうなずくと、きゃはは、と笑いながら、ママたちのいる育児室に走って行った。
「あのね、毛糸使っちゃったの。もうないの?」
ママの1人が羊毛の束とスピンドルを倉庫から取り出してきて、糸の紡ぎ方を教える。
「あん、難しいよー」
糸の太さが太すぎたので、加減しようとしたら、糸が途切れてカラカラ回った。
「やめちゃうの?練習したらいくらでもできるよ」
ママは優しく言ったけど、私は同じ歳の男の子の姿を見つけてそっちへ駆けてった。
「忙しい子ねぇ」とママは呆れ顔だ。
「どこへ行くの?」
「外」
「外って、外?」
「うん」
「都市から出ちゃダメなんでしょ?」
「水の供給施設に何かあったらしくて、パパが見に行くって。だから僕も行くんだ」
「わあ。私も行く」
「あちゃー」
パパはしかめっ面で言った。
「内緒だぞ」
「うん!」
パパと男の子と一緒に立ち入り禁止区域内に入る。
アンドロイド兵が用件を尋ねて、通してくれた。
都市から一歩外へ出ると、ジャミング機能で都市の姿が見えなくなった。
水を汲み上げるポンプが劣化していた。
パパは左腕のデバイスで連絡を取ると、アンドロイド兵たちが新しいポンプを運んで設置した。
「パパ、あそこに、誰か倒れてるよ!」
男の子が叫んだ。
「大丈夫?」
駆けつけると、端正な顔立ちの青年が倒れていた。
「み、水……」
「ミミズ?」
「こら」
パパが私を嗜める。
水質調査の器具の中から水を汲めるビーカーを使って水を運ぶ。
青年はガブガブ飲んだ。
「どこの所属だ?」
「所属?」
「名前は?」
「イオ」
イオは都市の人じゃなさそうだった。パパは警戒して、イオをアンドロイド兵に引き渡した。
「ねえ、パパ。あの人、外の人?」
「多分」
「あの人どうなるの?」
「記憶を消してから元来た場所へ帰す」
「どうして記憶を消すの?」
「都市のことを知られちゃいけないからさ」
「どうして?」
「その答えは学習室で学びなさい」
「えー、ぶうぶう」
「お前たちの記憶も部分的に消す」
「えっ」
私と男の子は顔を見合わせた。