一軒家
三題噺もどき―ひゃくろくじゅうなな。
お題:サンルーム・寝台・妬み
痛々しいほどの光が、全身を刺していく。
肌を晒していると、容赦なく刺してくる。かと言って、覆い隠せばその暑さに倒れかねない。
その必要をなくすために、日焼け止めというものがあったりするのだが。それを塗ったところで、痛いものは痛いのだから。
もうなすすべなしという感が、否めない。
「……」
そんな夏日に、1人。大きな家の前で立ち尽くしていた。
二階建ての一軒家。どれぐらいの広さなのだろう…あまりそういうのには疎いのでわからないのだが…。
写真で見た限りは、かなり広かったように思える。一家族が暮らすには十分って感じ。部屋数もそれなりにあった気がする…。必要最低限であればいいと思っていたので、あまり記憶にない。
「……」
周囲を高めの柵で囲われている。どうやら一階にはサンルームが設置されているらしい。外干しするのが嫌なので、ありがたい限りだ。室内乾燥もできるようだったが、日光に当てて乾かせるのなら、その方がいい。
―肌を日にさらすのは痛くて勘弁なのだが。服は別に。
「……」
しかし、その中がやけにがらんとしているというか。ぱっと見、サンルームにも何も置かれていないようだし。こういう所って、机と椅子が置かれていたりしないか?
その上、建物全体が静かというか、死んでいるようというか…人が住んでいる感じがしない。一軒家の宿泊施設に泊まるのは初めてだったが…。それにしても、もう少し生活感というか安心感というか、実家みというものがありそうなものなんだが…。
「ホントにここ…?」
住所はここで合っているのだが…。
「……」
少し、状況整理をしよう。
今、1人で様々なところを転々としながら、リモートで仕事ができる職についている。パソコンと電波さえあればというやつだ。
基本はビジネスホテルに泊まったり、野宿もどきをしたり、寝台列車に乗ったりしているのだが。―これに限っては移動手段なので、泊ったという感じではないが、なかなかに快適なのだ。一週間ぐらい乗り回したいぐらい。
仕事自体は基本、カフェやファミレスなんかでしている。地方にも案外おしゃれな場所はあるのだから、色々変わったなぁと思わなくもなかったり。
「……」
それで、今回は諸事情あって一所に一か月ほど留まることになったのだ。急遽だったので、急いでホテルを探したのだ。急だったうえに時期が時期だったのか空きがなかった。
それでも、拠点は必要なので、どこか…と思っていたところにここが当たったのだ。
他のどのホテルよりも安く、一軒家でありながら1人からでも泊まれる。朝食などのサービスはないが、まぁそこはいらないので逆にありがたい。
その上、他人とのかかわりを完全に断てるのであれば、それに越したことはない。こうして一人旅みたいなことをしているが、基本他人とのかかわりは嫌いなのだ。ホテルはどうしても、人の息が残るからな…。
「…でも…」
ホントにここだろうか。
なんだか、宿泊施設という感じがしないのだ。しかしなぁ、住所がここである以上なぁ…。どうしたものか…と、門扉の前で逡巡していると、突然玄関が開いた。
え、人いたの。
「――様ですか?」
「え、あぁ、はい」
「お待ちしておりました。管理人の――と申します」
この度はご利用いただきありがとうございます。―そういいながら、深々とお辞儀をする。
そりゃそうか…管理人ぐらいはいるか。諸々手続きはあるしな。
「どうぞ、」
「あ、はい。お邪魔します」
そのまま促され、門扉を押し開け中に入る。
ギぃ―と音が響く。
中に入ると、そうそうにチェックインや施設内の注意事項などの説明をされる。チェックアウトの話まで終わり。
「施設内を案内いたします。」
と、とりあえずリビングに荷物を置き、その人についていく。
そのリビングは、テレビとソファだけがあり、なんだか閑散としていた。
それから、浴室、トイレ、もう一つの部屋。続いて二階へと上がる。
「こちらがベットルームになります」
そういわれて見せられたその部屋は、ベットが一台あるだけの。寂しい部屋だった。クローゼットもあったが、中には何もない。ハンガーの一つすらもない。
―ホントにここ、宿泊施設なのか?
「以上になります。ごゆるりと…」
二階の案内もすべて終わり。最終確認などを済ませた後、その管理人はそそくさと居なくなった。
―やけに早口だったし…態度がよそよそしい。早くここから出たいみたいな…。
「なんなんだ…」
しかし、その理由は、夜になってはっきりと分かった。
「―――!!」
夜中。
とりあえず、その日の仕事を終わらせ。
あの管理人の態度と、この家の異様さに違和感を覚えながら。とくになにもないなぁと思いつつ。
閑散としたリビングで食事を済ませ、ベッドに入ってからの事。
「―――
どれぐらい寝ていたのか分からないが。
突然の息苦しさに目が覚めた。
身体がびくともしない。
意識は完全に起きているのだ。
ジワジワと嫌な汗が全身を覆う。
「―――
混乱のまま。
きゅう―と、喉が絞められている感覚。
「―――!?
ぼんやりとしている視界の端に入ってきたのは、1人の男の姿。
身体に馬乗りになり。
力の限り、首を絞めている。大きなその両手で。
そのまま、首を折ろうとしているのではないかとも、思う程に。
「―――
恨みのこもった顔で。
妬みに歪みきった顔で。
その力の限りに―
「―
そのあまりの力に。
なすすべもなく。されるがまま。
喉を絞められ。
呼吸も止まり。
―私は意識を手放した。