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ヴァンパイア皇子の最愛  作者: 花宵
最終章 世界滅亡の危機を救え!

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64、弱点見つけた!

 誰かに頭を撫でられているような感覚に目が覚めた。どこか辿々しい手付きで、慣れていないのか、微妙に髪を引っ張られて痛い。


「アリシア……!」


 目を開けると、そこに居たのはノアお兄ちゃんだった。


「ノア、お兄ちゃん……どうして、泣いてるの?」


 ポタポタと大粒の雫が、ノアお兄ちゃんの瞳からこぼれ落ちている。


「君が二度と、目を覚まさないかもしれないと、思ったからだ……」

「心配してくれたんだ、ありがとう」


 手で涙を拭ってあげると、隠されていた右目が視界に入る。


「琥珀色の綺麗な瞳だね」


 私がそう言うと、ノアお兄ちゃんはハッとした様子で髪の毛で隠してしまった。


「どうして隠すの?」

「君は、これが気持ち悪くないの? 左右で色が違うなんて……」


 もしかしてノアお兄ちゃんは人間時代、それで嫌な思いをしていたのかもしれない。


「気持ち悪くなんてないよ。すごく格好いい。隠すの勿体ないなって思うよ」

「僕の瞳をそうやって真っ直ぐに見てくれたのは、パメラ様と君だけだ」

「それはね、そうやって隠してるからだよ。前髪、私が切ってあげようか?」


 体を起こしながらそう言うと、ノアお兄ちゃんは「…………は?」と驚いた様子でこちらを見ている。


「リグレット王国は身分にうるさい国だし、人と同じじゃないと生きにくい国だよね。私も人間だったから分かるよ。でもね、ハイグランド帝国は誰もそんな事気にしないんだ。一人一人を尊重して、違うことを個性として認めてるから。ノアお兄ちゃんがハイグランド帝国に来てくれたら、誰もその目を見て嫌なこと言ったりしないよ。それは断言できる」

「君の頭のネジが緩んでるだけじゃないの?」

「じゃあ逆に聞くけど、緩んでちゃいけないの?」

「いや、そういうわけでは……」


 最初に会った時より、ノアお兄ちゃんのトゲが無くなってる。これはきっとお姉ちゃんの血効果だね!


「安心して。もし万が一にも嫌なこと言ってくる人が居たら、私が文句言ってあげるわ! だってハイグランド帝国では、大切な家族を守るためなら、売られた喧嘩は買う流儀なんだよ! ノアお兄ちゃんは私が守ってあげる」

「君が僕を? そんな弱っちそうな体で?」


 その言葉、ブーメランだよって言っていいのかな? 私の視線で言いたいことが分かったのか、ノアお兄ちゃんは先に私の言葉を封じてきた。


「体のサイズを抜きにしても、僕は君より強いからね」

「じゃあ、か弱い妹を守ってくれる?」

「…………図太いの間違いじゃ」

「何か言ったー?」

「都合の悪い言葉は聞こえない耳みたいだね」

「便利だよーノアお兄ちゃんもそうしたらいいよ」

「確かに便利そうだ」


 その時、テーブルに置いたままのカードが目についた。そうだ、私の血を飲んだ後に遊んでくれるって言ってたよね。


「ノアお兄ちゃん。カードゲームで勝負だ!」

「…………きこえなーい」

「あ、ずるい! 私の血を飲んだ後、してくれるって約束したよね!」

「きこえなーい」

「もう、卑怯だよ!」

「さっき、こうしたらいいって教えてくれたのはアリシアだよね?」

「うー確かにそうだけど!」


 こんなつもりで教えたわけではないのに!


「くっ、ははは!」


 悔しがってる私を見てひとしきり笑った後、ノアお兄ちゃんは目尻の涙を拭いながら「いいよ、やろう」と了承してくれた。


「やった! 何する?」


 私の期待を込めた眼差しから、ノアお兄ちゃんはばつが悪そうに顔を背けて呟いた。


「えっと、知らないんだ……その、ルールを」


 これは完全に私の落ち度だ。相手がルール知ってるって勝手に思い込んでた。


「じゃあ私が教えるから大丈夫! ネジ緩んでる私でも覚えられるんだから、ノアお兄ちゃんならすぐ理解できるよ」

「もしかして、根に持ってる?」

「何のことー?」


 そこ!

 肩震わして笑い堪えてるんじゃないよ、全く!


 でも、よく笑ってくれるようになってよかった。最初みたいに冷たい視線を浴びせられなくなって、ほっと胸を撫で下ろす。


 ノアお兄ちゃんに、この世界には楽しい事もいっぱいあるんだよって教えてあげたかった。一つずつ、そうやって知ってもらえれば、次はどんな楽しい事が起こるかなって、未来に希望が持てるようになると思うから。


「最初はオールドメイド! クイーンのカードを一枚だけ抜いて、皆に配るの。まず自分の手札から同じ数字のカードをペアにして捨ててね。整理が終わったら、交互にカードを一枚ずつ引くの。ペアになったカードは捨ててそれを繰り返す。先に手札が無くなった方が勝ちだよ」


 実際にカードを配って、分かりやすいように説明する。二人とも手札の整理が終わった所でゲームスタート!

 ただしこれ、二人ですると最初はただのカード引いて捨てる作業ゲームなんだよね。


「これのどこが面白いの?」


 案の定、ノアお兄ちゃん退屈そうだ。


「勝負はここから面白くなるんだよ」


 私の残り手札はスペードのクイーンとハートの六。

 ノアお兄ちゃんの手札は残り一枚。このハートの六を引かれたら私の負けだ。よーくカードをシャッフルして差し出す。


「さぁ、どっち引く?」


 右を取ろうとして、ノアお兄ちゃんは何故かプッと吹き出した。


「アリシア、顔に出てるよ」

「…………え?!」

「勝ちたい? 負けたい?」

「そりゃあ、勝ちたいよ!」

「だったらあえて、こっちを引いてあげるよ」


 そう言ってノアお兄ちゃんはスペードのクイーンを引いた。


「え、どっちがクイーンか分かってたの?!」

「だって君、顔に出てるもん。誰でも分かると思うよ」

「そうなの? どうりでいつも負けるわけだ……」

「自信満々に勝負だって言ってた癖に、勝ったこと、ないんだ……っ!」

「笑うなー!」

「あーごめん、ごめん。そうだね、勝負は賭けがあった方が面白いでしょ? この勝負、君が勝ったら何でも一つ言うこと聞いてあげるよ」

「本当に?! 何でも言うこと聞いてくれるの?!」


 思わぬチャンスが到来した!


「負ける気がしないからね」


 自信満々にそう言いきるノアお兄ちゃん。

 ふふふ、その油断が後々自分の首を絞める事を覚えておくがいい。

 でも、私だけ御褒美があるのは不公平だよね? それなら……


「じゃあノアお兄ちゃんが勝ったら、私が前髪切ってあげるね」

「ねぇ、それ……僕が勝っても負けても損しない?」

「そんな事ないよ! 勝ったら前髪切って格好よくしてあげるんだから、御褒美だよね」


 ここまで話してて思ったけど、ノアお兄ちゃん結構押しに弱い気がする。それでも話しかけると揚げ足とりながらもちゃんと答えてくれるから、このまま強気な妹キャラで押しきってみよう。


「アリシア、君……押しが強いって言われない?」

「ぜーんぜん、全く! 安心して、こんな無理強いするのノアお兄ちゃんにだけだから」

「僕に、だけ……?」

「私、元々は一人っ子だったから……年が近いお兄ちゃんが居たら、こんな感じで毎日遊べてきっと楽しいんだろうなって思ったら、少し我が儘になっちゃった。ごめんね」

「……かなりではなくて?」

「そこ、変なところに引っ掛かり覚えない!」

「大事なところはきちんと訂正してあげたが、君のためでしょう?」

「あら、私の事を思ってくれてるんだね。嬉しい!」

「べ、別にそういうわけじゃ……!」


 ノアお兄ちゃんの弱点、見つけたかもしれない。真っ直ぐな好意を向けられると、あたふたしてる。


 そういえばお姉ちゃん言ってたな。私が優しくするとあの子は怖がるって。でもそれ本当は怖がってるんじゃなくて、嬉しくて悶えてただけなんじゃなかろうかと思ってしまった。


「決めた! 私が勝ったら、妹だって認めてもらうからね! ノアお兄ちゃんには、私の本当のお兄ちゃんになってもらう!」


 私の言葉にノアお兄ちゃんは一瞬大きく目を見開いた後、照れ臭そうに視線を逸らして呟いた。


「わかったよ。さぁ、カードを選んで」


 右か左か、あれ何で右だけ左より突き出てるんだろう? これは罠なのか? それとも罠に見せかけた正解なのか? うーん、考えれば考えるほど分からない。


 でも何となくだけと多分、この突き出てるカードがノアお兄ちゃんの望みのような気がした。だから私はその突き出た右のカードを引いた。


「やった、私の勝ちだ!」

「そんなに嬉しいの?」

「うん、すごく嬉しい!」

「仕方ないから、君のお兄ちゃん……やってあげるよ」


 よし、言質はとった!

 ノアお兄ちゃん、可愛い妹の頼みは断っちゃダメだからね? 覚悟するがいい!


 ちょうどその時、ドカンと派手な音がして突然扉が壊れた。


「アリシア、無事か!?」


 粉塵の中から現れたのはフォルネウス様だった。そうだ私、拐われてここに居たんだったとそこで思い出した。

【補足】

オールドメイド=ジョーカーの代わりにクイーンを抜いて始めるババ抜きみたいなものです。

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