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ヴァンパイア皇子の最愛  作者: 花宵
最終章 世界滅亡の危機を救え!

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62、どうか、止めて下さい!

「私達は敵ではありません。貴方達を、決して傷付けたりはしません!」


 そう言ってフォルネウス様は、私とブレイヴを庇うように前に立たれた。


「嘘つくな! 平気で嘘つく奴等が!」


 激昂した男性の投げたグラスがフォルネウス様の頭に当たった。それでも、フォルネウス様は、その場から一歩たりとも動かない。人々に危害を加える気はないと、分かってもらうために。


「あいつを倒せば、俺達はここから出られるはずだ」

「動かないならちょうどいい。皆、今のうちに攻撃しろ!」


 人々は次々にテーブルの上にあったものを、投げつけ始める。フォルネウス様はそれを避けもせずに受け続ける。


「どうか、やめて……お願いです、止めてください!」


 庇うように前に立つと、後ろから引き寄せられフォルネウス様の腕の中に閉じ込められた。


「前に出たら危ない、じゃないか。アリシア、君は必ず……俺が守る」


 私を庇うようにフォルネウス様は人々に背を向けた。そして、彼等の攻撃をその一身に受け続ける。自分達は敵ではないと、人々に示すために。でもこのままではフォルネウス様の身が持たない。回復魔法を唱えようとしたら


「今、魔法を使ってはダメだ……」

「どうしてですか!? フォルネウス様の傷を治させて下さい!」


 辺りにはガラスが割れて散乱し、ナイフやフォークの金属から燭台までもが無作為に転がっている。どれだけの痛みをその身体で受けて来られたのか。


「人々に、怪しまれてしまう。俺なら大丈夫だから。不便をかけてすまない……」


 そう言ってフォルネウス様は私の頭を優しく撫でてくださった。その優しさに涙が出そうになるのを必死に堪えた。


 フォルネウス様はきっと、いつもこうやって耐えてこられたのだろう。

 人々に罵声を浴びせられても、物を投げつけられても、決して危害を加えることはないと。紅の吸血鬼の住まうハイグランド帝国皇太子として、全ての吸血鬼が悪い存在ではないと分かってもらうために。

 誰よりも強い力を持っているのに、それは誰かを守るためだけに使って、自分を守るためには使わずに。本当に、なんて温かくて優しい方なんだろう。


「止めは俺に任せろ!」


 その時、フォルネウス様の背後に剣を手にした男性が近付いてくるのが見えた。

 まさか、その剣で切りつけようというの?!

 このままではいけない。フォルネウス様は私が守る!

 彼等に私達が敵ではないと分かってもらう方法……そうだわ!


「ブレイヴ! お願い、こちらへ」


 後ろでブルブルと震えているブレイヴに手を伸ばすと、こちらに走ってきてくれた。どうか間に合って!


「ホーリーレイン!」


 温かな光の雨が降り注ぐ。

 お願いどうか、皆の不安と恐怖よ消えて!

 強い猜疑心は人々の心を惑わす。どうか惑わされないで、状況を見て正しい判断を下して欲しい。


 カラカランと、何かが落ちる音がした。


「すまない、大丈夫か!?」


 剣をその場に放り投げた男性は、フォルネウス様の元に心配そうに掛けよってきた。


「この方は、隣国の皇太子様じゃないか! 我が領地で子供達を救ってくれた事、感謝しております! このような無礼な振る舞いをしてしまい、誠に申し訳ありませんでした!」

「紅の皇太子様が私達に危害を加えることはないわ! だって何度も、領民を助けてもらったもの!」

「誰か、怪我の手当てが出来る者はいないか?!」


 よかった、フォルネウス様がこれまでやられてきた事は決して無駄ではなかった。人々の心にきちんと刻まれていた。


「ご安心ください、私が治します。フォルネウス様、もう大丈夫ですよね?」

「ああ、頼む」

「リバース」


 回帰魔法を唱えて、フォルネウス様が怪我される前の状態まで綺麗に戻した。


「すごい! まさかあの方は、奇跡の聖女様じゃないか!?」

「ああ、聖女様! 私の弟を救って下さり誠に感謝しております!」


 よかった。何とか人々を止める事が出来た。でもここに居たら危険だ。何とか脱出する方法を考えないと。


『いやーお見事。ここまで君達が人々の心を掴むのが上手いとは思わなかったよ。まどろっこしい事はやめた。今からそこが、君達の墓場となるよ』


 ノアお兄ちゃんの放送が切れた後、閉められていた出入り口の大扉が開かれた。


「グオー!」


 黒い獣達が一斉に入ってくる。フォルネウス様が人々を庇うように前線に立ち、双剣で切り伏せていく。


「敵は俺が引き止める! 皆はなるべく後ろに逃げてくれ!」


 フォルネウス様の指示通り、人々をなるべくホールの奥の方へ避難させる。


「ブレイヴ、もし万が一こちらに黒い獣が来た時は人々を守ってあげて下さい」

「分かった! 僕の聖域で必ず守るよ!」

「私はフォルネウス様の補佐に行ってきます」


 フォルネウス様が何度切り伏せても、黒い獣達は廊下の奥にある黒い穴から際限なく湧いてくる。


「くっ、キリがないな。あの奥の黒いゲートさえ破壊出来れば……」

「フォルネウス様!」

「アリシア、危ないから下がっていてくれ」

「嫌です、私だってフォルネウス様をお守りしたいんです! 一つ考えがあります。私がこの廊下に水を流します。そこにフォルネウス様の雷魔法を使えば一気にあの奥まで攻撃出来ないでしょうか?」

「良い考えだが、強い魔法は建物を壊してしまう恐れがあるのだ」


 フォルネウス様が魔法を使わず双剣で戦われているのは、そのためだったのね。それならば――


「建物が壊れないよう私が廊下を覆うように、水のバリアをはります。そこへフォルネウス様の雷魔法を放つのはいかがでしょう?」

「なるほど! アリシア、お願い出来るか?」

「はい、お任せください!」


 廊下全体に水の壁を敷き詰めるイメージで、私は呪文を唱えた。


「ウォーターウォール!」

「サンダーストーム!」


 フォルネウス様の放った雷の竜巻が、私が廊下に放った水の壁の表面だけを巻き込みながら綺麗に奥まで一掃してくれた。


「すごい、やったぞー!」

「二人とも、とても素敵でした!」


 人々から盛大な拍手がわき起こった。


「突破口は開けました。今のうちに避難しましょう!」


 人々を誘導しながらお城の外に出ると、庭園にエリート部隊の姿があった。


「若、嬢ちゃん! 無事で良かったぜ。囚われてた人間達を保護したはいいんだが、どうやら結界がはってあるようで外に出られねぇんだよ」


 ガブリエル様が空を見上げながら仰った。視線の先を追うと、確かに来た時にはなかったものが空に見える。


「やはり、ノアさんとパメラさんを探さないといけないようだな」

「パーティー会場に居なかったのか?」

「ああ、残念ながら」

「あ! 若様! アリシア様!」


 その時、シオンさん達も合流してきて、彼等が連れて来た人達の中に、なんとフレディお兄ちゃんの姿があった!


「よかった、お兄ちゃん! 無事だったんだね!」

「助けに来てくれたんだね。ありがとう、アリシア」

「心配してたんだよ! 一体何があったの?」


 お兄ちゃんに事情を聞こうとしたら、「皆、気を付けろ!」と、ガブリエル様の焦りを滲ませた声が響いた。

 次の瞬間、前方と右方向から同時に黒い獣の大群が押し寄せる。今度は二ヶ所から?!


「敵は俺とガブリエルで処理する! シオン、君達は人々を守りながら、一旦あっちの離宮の方へ避難させてくれ」

「分かりました! さぁ皆さん、焦らず冷静に移動しますよ。俺に付いてきて下さい」


 離宮まで移動してきたけど、人々の体力は限界に近付いてきていた。


「アリシア、僕が聖域を作るから、そこで人々を休ませてあげよう」

「ブレイヴ、そんなに何度も使って大丈夫なのですか?」

「範囲を狭めれば時間を長く保てるよ。安心して、まだまだ僕は元気だから!」

「ありがとうございます。でも、キツくなったらきちんと教えて下さいね?」

「もちろん!」


 人々が安心して休憩出来るように、ブレイヴが小範囲に聖域展開してバリアを張ってくれた。


「ああ、聖獣様! ありがとうございます!」

「皆の安全は僕が守るよ!」


 ブレイヴの聖域内に、邪悪な者は入れないらしい。だから、あの黒い獣が入ってくる事はないそうだ。


「お兄ちゃんもほら、危ないから聖域内に入ってて」


 人々の誘導を手伝ってくれていたお兄ちゃんに声をかける。


「アリシア、おかげで手間が省けたよ」


 一瞬何を言われたのか分からなかった。


「え? どうし……て、お兄……ちゃん?」

「君をノア様の元へ献上する、それが僕の使命だからね」


 まさか、ノアお兄ちゃんに操られていたの?


 私を担ぎ上げたお兄ちゃんは、何の迷いもなく後ろに現れた黒いゲートの中に入った。

 ゲートを抜けた先は、どこかの部屋に繋がっていた。お兄ちゃんは私をベッドに下ろして、再び黒いゲートの中へ入っていく。


「待って、フレディお兄ちゃん!」


 伸ばした手が、虚しく空気を掴む。追いかけようとしたものの、目の前で黒いゲートは閉じてしまった。

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