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ヴァンパイア皇子の最愛  作者: 花宵
最終章 世界滅亡の危機を救え!

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58、試練の洞窟

 裏門から魔の森に入る。深い霧につつまれたその森は、近くにいても油断すると見失いそうになるほど視界が悪い。


「探索魔法、マッピング!」


 ファントムさんが地面に手をついて探索魔法を使うと、一つの巻物が現れた。そこには、魔の森全体の地図が記されていた。


「すごい便利ですね!」

「お恥ずかしながら、この力で僕はアザゼルから極力逃げて生き延びてきましたから……自分達の位置はこの青い点です。そして敵は赤い点で記されます」

「試練の洞窟は、ここから北西の方角だな。霧が深くて歩いていくのは危険だ。空から行こう。二人とも、俺の背中に乗ってくれ」


 フォルネウス様はドラゴンに変身すると、空を飛んだ。

 空から見た魔の森は一面が真っ白で、何がどこにあるのかさっぱり分からない。ファントムさんが探索魔法で地図を見て、進む方向を微調整しながら目的地へと進んだ。


「フォルネウス様、ドラゴンにも変身が出来るんですね!」

「帝国騎士は変化魔法が使えないと入団出来ないからな」

「そうなんですか?」

「機動力に優れてないと、移動が難しいからな。空と陸、両方の機動力に優れた獣に変身できる事が、一次試験の内容なんだよ」

「ハハハ、僕は一生入団できそうにありません」

「私も難しそうです」

「母上も出来ないのだ。そう考えると、元々人間だった者達には扱いにくい魔法なのかもしれぬな」


 メルムも蝙蝠に変身できたよな、そう言えば。ガブリエル様やシオン様もドラゴンに変身できた。


「自在に姿を変えれるなんて発想がまず、人間にはありませんからね」

「確かにそうですね。でもお姉ちゃんは、空を飛べましたよ?」

「あの方は、規格外ですからね……」

「私も、自分で空を飛べるようになりたいです!」

「アリシアは、俺が抱えて飛ぶから必要ないだろう?」

「フォルネウス様、分かっていませんね。自分で飛びたいというのが、ロマンなのですよ」

「ファントムさんも、やっぱりそう思いますか?」

「ええ、勿論です」

「ワフ!」

「ブレイヴも飛びたいのですか?」

「ワフワフ!」

「一緒ですね」


 頭を撫でてあげると、気持ち良さそうにブレイヴは瞳を細めた。 


「ふむ、なるほど……全てが片付いたら、空を飛ぶ特訓でもしてみるか?」

「やりたいです!」

「僕も参加させて下さい!」

「ワフワフ!」


 そんな事を話しながら魔の森の上空を移動していると、目的地に着いた。


「このまま下降できまか? 試練の洞窟は、ちょうどこの真下です」

「分かった、落ちないようにしっかり掴まっていてくれ」


 フォルネウス様はゆっくり下降して私達を地面に下ろしてくれた。

 ここが試練の洞窟。一体中で何が待ち受けているのかしら。


「やはり、俺は入れないようだな」


 フォルネウス様が残念そうに呟いた。

 洞窟に伸ばしたフォルネウス様の手は、透明の壁に阻まれている。


「アリシア、くれぐれも気をつけて行くのだぞ」

「はい、頑張ってクリスタルを手に入れてきます!」

「ブレイヴ、アリシアの事頼んだぞ」

「ワフ!」

「よし、いい子だ!」

「それでは、いってきます!」

「ああ、ここで待ってるからな」

「どうかお気をつけて。お帰りをお待ちしております」


 フォルネウス様とファントムさんに見守られて、私はブレイヴと一緒に試練の洞窟に入った。


 ソフィー様にお借りした探検バッグからランプを取り出して光を灯す。洞窟内部は一本道のようで、辺りを警戒しながら先へ進んでいると、どこからともなく声が聞こえてきた。


「殺せ、殺せ! 一匹残らず殺してしまえ!」


 黒い影を操り嘲笑う男性の声と、悲鳴を上げて逃げ惑う動物達の鳴き声。その視界が現実のものとなり、気付いた時には知らない森の中に居た。

 黒い影に動物達を殺させた男性は、倒れた動物達の亡骸に魔法をかけて何かを抜き出している。それは黒い影となり、生前の姿へと形を変えた。そして男性の指示通り動き始める。


「ウヴーッ!」


 その光景を見て、ブレイヴが怒ったような唸り声をあげた。

 黒い影は森の動物達を襲い、倒れた亡骸から男性がまた新たな影を作る。そうして繰り返した結果、森中が黒い影の動物達で埋め尽くされてしまった。

 ブレイヴが黒い影に攻撃を仕掛けるも、すり抜けて触れる事が出来ない。それでも怒りを抑えられないようで、何度も転びながら攻撃を繰り返している。


「ブレイヴ! どうか止めて、これ以上は貴方の身体が……」


 ブレイヴの体を抱き上げて、落ち着くように優しく頭を撫でてあげる。

 ここはもしかすると、過去に魔の森で起こった出来事が再現されているのかもしれない。ファントムさんは言っていた。聖獣王フェンリルは非業の死を遂げたと。この黒い影の軍団が、聖獣王フェンリルに牙を向いたとしたら……


「とても辛かったですね。ブレイヴ、貴方は一人ではありません。私がついています。だからどうか、一人で悲しまないで下さい」

「クゥン……」


 すりすりと、ブレイヴは私の手に頬をすり寄せてきた。昔の記憶を引き継がせるのは、ブレイヴにとっては酷な現実を突きつけられる事に繋がるのだと気付いた。


「ブレイヴ、私達の都合に付き合わせてしまい申し訳ありません。無理することはないのです。だから戻りましょう」


 こんなに小さな体のブレイヴにはまだ早すぎる。無理にそれを引き継ぐ事で、ブレイヴの身体に負荷がかかってしまうかもしれない。


「い…………やだ」


 引き返そうとしたら、腕の中から声が聞こえた。


「いく…………ぼくは……い……く」

「ブレイヴ、言葉が!」

「アリ…………シア、こまっ……てる。みんな……こまってる。ぼくも……みんなの、ちからに……なりたい!」


 その時、腕の中のブレイヴが目映い光を放った。


「行こう、アリシア。僕は思い出さなければならない。皆の悲願を、忘れてはいけない」


 そう言ったブレイヴの額には、クリスタルが埋まっていた。


「ブレイヴ、額にクリスタルが!」

「完全ではないけど、少しだけ思い出したよ。先に進めば、きっと思い出せる。だから、行こう」


 ブレイヴの瞳には、強い意志が宿っているように見えた。


「分かりました、行きましょう」


 黒い影の軍団を追いかけて、私達はさらに奥へ進んだ。

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