55、恐怖の招待状
私が皆に一週間前の出来事を話し終わったちょうどその時、執務室のドアをノックする音が鳴った。
「若様、リグレット王国から新たな通信が届きました」
フォルネウス様は連絡司令部の方から受け取った魔道具、記憶クリスタルを起動させた。
『やぁ、ハイグランド帝国の皆さん。僕は新たなリグレット王国女王となられたパメラ様の側近、ノアだよ。僕達の同胞を次々と無効化していっているらしいねぇ。まぁいいや、無能の役立たず達は要らない。僕はパメラ様と一緒に、新たな王国を作るから。新生リグレット王国誕生を祝して、建国記念パーティーを開こうと思うんだ。紅の皇太子様、奇跡の聖女様、友好の証として君達二人を特別に招待してあげる。拒否権はないから五日後の午前零時、リグレット王国王城で待ってるよ。二人揃って来ない場合は、君達の大切な義兄の命はないと思ってくれていいよ。それじゃあ、待ってるからね~』
そこで、通信は切れていた。
「どうやら、最悪の予感が的中してしまったようですね」
そう言って、ファントムさんは頭を抱えてしまった。
「ノアとは、どんな奴だったのだ?」
「一言でいうと、狂った奴でした。思考だけならあのアザゼルを越えるかもしれない程、おかしな奴でした。人間に強い憎しみを抱き、吸血鬼となった事に愉悦を感じ、笑いながら平気で人々を殺すのです。食べるためでもなく、ただそこに存在しているのが気に入らないからという理由で」
「それはただの殺人鬼ではないか」
「アザゼルはまだ、強くなるためにたくさんの血を欲するという理由がありました。より強い者の血を取り込むため、強い人間を献上せよと子供や年寄りの血は望んでいませんでした。しかしノアは、献上する必要も食べる必要もないのに、気に入らないからという理由で殺すのです」
「そんなに酷かったなんて……」
ノアお兄ちゃんが人間を憎むのは、奴隷として生きた人間時代にそれだけ辛い目に遭っていたからだろう。お姉ちゃんも言っていた、死にかけていた奴隷の子に懇願されて、吸血鬼としての生を与えてしまったと。
「ただ一つ救いがあったのは、彼はパメラ様を崇拝し、彼女の言う事だけは何を言われても従っていた所でしょうか。『生きるのに必要な命以外は奪うな』そう命令されてからは、無作為に人間を殺すことは無くなりました」
「フォルネウス様、私はお姉ちゃんとお兄ちゃんをこのまま放っておけません。二人は私にとって大切な家族なんです。危険は承知の上です、だからどうか建国記念パーティーに参加させて下さい」
「いけません、アリシア様! ノアはパメラ様が誰かを気にかける事を、酷く嫌っていました。自分がパメラ様の一番になる為なら、平気で他者を蹴落とす奴です。きっとお二人を招待したのは罠です」
「目障りな俺達を、まとめて始末したいって事か?」
「はい。きっとそうでしょう。正直、フレデリックさんがご存命されているかどうかも、怪しいです」
お兄ちゃんが……嫌な未来を想像しかけて、私は頭を振った。今は悪い未来を想像している場合じゃない。どうすれば皆を助ける事が出来るのか、それを考えるのが最優先だ。
「お姉ちゃんは言いました。愛情を知らずに育ったノアお兄ちゃんに、喜びと安らぎを与えてあげたいと。そういう希望を託して、ノアと名付けたのだと。そして私に、最後の希望を託してくれました。私はそんなお姉ちゃんの願いを叶えたいのです。だからどうか、行かせて下さい」
「分かった、共に行こうアリシア。何があっても必ず君は俺が守る。だから、パメラさんとフレデリックさんを助けに行こう。そして君の新たな兄、ノアさんも」
「フォルネウス様! ありがとうございます……!」
思わず嬉し涙が流れる。そんな私をフォルネウス様は抱き寄せて、よしよしとあやすように優しく頭を撫でてくださった。
「止めても、無駄のようですね」
「よく分かっているじゃないか、ファントム」
「貴方は似ています。かつて僕が仕えていた主君に。止めても無駄なら、無事に帰ってこれる算段を立てた方が有意義な所も、嫌になるほどそっくりです」
「褒め言葉か? それとも皮肉か?」
「両方ですよ。そして僕は、そんな主君を尊敬しておりました。でもあの時僕は守りきれませんでした。だから怖いのです、このまま貴方達を行かせるのが……また、失ってしまうかもしれないのが……」
「ファントムさん、私達は帰ってきます。必ずお姉ちゃん達を連れて帰ってきます。だから、信じて下さい」
「アリシア様……全く本当にずるい方ですね。分かりました、僕も覚悟を決めましょう。貴方達が無事に帰ってこれるよう万全の準備をして送り出します。策もなく飛び込むのは危険なので、僕はノアについて詳しく調査をしてきます」
情報を集めに行ったファントムさんが退室した後、フォルネウス様のポータブルコールが鳴った。
『大変なのじゃ! ソフィーが、ソフィーが予知夢を見たのじゃ! シアを連れて、至急我の宮殿に来てくれ!』
酷く焦った様子のトリー様の声が聞こえた。
「アリシア、母上が予知夢を見たそうだ……」
「急いでソフィー様の元へ向かいましょう」
ソフィー様の予知夢は、良くない事が起きる前の暗示のようなもの。おぞましい未来の断片が見えると仰られてたわね。
今のこの状況に、ソフィー様の予知夢まで……まるで不吉な歯車がピタリとハマって回り始めたかのように感じ、背筋にゾッと悪寒か走った。










