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ヴァンパイア皇子の最愛  作者: 花宵
第五章 紅と蒼の力を合わせて頑張ろう!

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52、ようこそ、ハイグランド帝国へ

 翌日の夜。お姉ちゃんが三人の蒼の吸血鬼を連れてきてくれた。


「蒼の吸血鬼の皆さん、ようこそお越し下さいました。私はハイグランド帝国皇太子のフォルネウス・ハイグランドと申します。皆さんの到着を心よりお待ちしておりました」


 縄でぐるぐる巻きにされた青年と、お姉ちゃんの後ろに隠れてこちらを窺っている女性の吸血鬼が二人。


「この子達はフィズとランカよ。このクズ外道ファントムに操られていたのを保護したわ」

「フィズ、ランカ! 早くパメラを殺れ! じゃないと、後でどうなるか覚えておけよ!」


 縄でぐるぐる巻きにされたファントムさんが怒鳴ると、反射的にフィズさんとランカさんは頭を抱えて怯えている。


「アンタはちょっとうっさい、黙ってなさい」


 お姉ちゃんが、拳の力でファントムさんを物理的に黙らせた。痛そう。


「とりあえず牢屋はないかしら? ファントムの更正には時間がかかると思うから、しばらく拘束してもらえると助かるのだけど」

「シオン、彼を特別保護室でもてなしてやれ」

「かしこまりました、若様!」


 特別保護室とは、危険な吸血鬼を一時的に拘束しつつもてなすために用意された部屋だ。どんなおもてなしをするのか、フォルネウス様は教えてくれなかったけれど……


「あの、パメラ様……私達、本当に人間に戻れるのですか?」

「もうファントムの命令に従わなくても、いいんですか?」

「ええ、勿論よ。ここは吸血鬼が自由に暮らせる国なの。誰の命令に従う必要もないし、自分のやりたい事をして生きていける。希望するなら、私の可愛い妹のアリシアが貴方達を人間に戻してくれるわ」

「初めまして、フィズさん、ランカさん。アリシアと申します。よかったら少しだけ、この国を見学してみませんか?」


 すぐに人間に戻してあげる事は可能だ。でも知ってほしかった。吸血鬼でも楽しく幸せに生きられる場所があるんだって事を。


「私も一緒に行くから、安心しなさい。ここでは誰も、貴方達に危害を加えたりしないわ」

「分かりました」

「少しだけなら……」


 フィズさんとランカさん、お姉ちゃんの三人を、私はフォルネウス様と一緒に城下へ案内した。一応護衛として、帝国騎士団第一部隊の方々が市民に紛れて護衛してくれている。


「本当にここにいる方々は皆、吸血鬼なのですか?!」


 フィズさんが驚いた様子で言った。


「はい、そうですよ。このハイグランド帝国は、愛を重んじる国です。国民一人一人を尊重して、困っている方がいれば手を差しのべ、皆が笑顔で暮らせるように努めています」

「あそこの行列、何を売っているのですか?」


 ランカさんが、目を輝かせて行列を見ている。


「国民に大人気のタピオカブラッドドリンクです。折角なので飲んでいきませんか?」

「でも、私達……お金が……」

「気にすることないわ。だってほら、歩く財布……じゃなかった。紅の皇太子様を連れてるから」


 お姉ちゃんがそう言ってフォルネウス様の方を見た。


「勿論、何でも好きなものを頼まれて下さい」


 フィズさんとランカさんはどれにしようか迷って、店員さんのおすすめトッピングを選んだ。お姉ちゃんは一番豪華なやつを選んでた。


「アリシア様とフォルネウス様は、何になさいますか?」

「あ、私は大丈夫です」

「私のデザートはアリシアなので、結構ですよ」


 フォルネウス様のその発言で、「どういう意味か教えて下さい!」ってフィズさんとランカさんの目が何故かキラーンと輝いた。


「ここでは普段、愛する者同士で血を分け合っています。心から愛する者の血は、何よりも勝るご馳走でありスイーツなのです」

「つまり、アリシア様が頼まれなかったのも……?」

「アリシアにとってのスイーツは私ですから」

「キャー素敵!」

「いいなー羨ましいです!」

 

 自信満々に言いきったフォルネウス様を横目に、お姉ちゃんがにっこりと笑顔で口を開いた。


「アリシア、スイーツはお姉ちゃんの血でもいいのよ」

「パメラさん、余計な事をしないで下さい!」

「えーどうしてー?」


 お姉ちゃん、わざとフォルネウス様をからかって遊んでるわね。悪い顔してる。


「はい、お姉ちゃん。ドリンク出来たよ」

「ありがとう」


 それ以上フォルネウス様の心労を増やさないよう、ドリンクを渡して阻止成功!


「フィズさんと、ランカさんも、どうぞ召し上がってみてください」

「ありがとうございます!」

「見た目も綺麗で美味しそうです!」


 ドリンクを二人に渡した後、フォルネウス様に話しかけた。


「フォルネウス様は、後で私を召し上がって下さいね?」

「ああ、勿論だ! アリシアも、俺を食べてくれるか?」

「ええ、勿論ですよ」


 約束だぞ! と、それだけで嬉しそうに喜んでくださるフォルネウス様が可愛い。


「お、美味しい!」

「こんなに美味しいもの、初めて食べました!」

「まぁ、悪くない味ね」


 ブラッドタピオカドリンクを飲んだ三人は、満足そうに味わっているようで、ほっと一安心。


「気に入って頂けたようで何よりです。この他にも気軽に栄養を摂れる、ブラッドボトルというものもございます。色んな味を楽しめるように、様々な銘柄を製造しておりますので、お食事には困らないでしょう」

「生きるために、もう知らない誰かの血を、無理やり奪わなくてもいいんですか?」

「ええ、勿論です。食料は好きなものを気軽に買って食べられますし、何れ愛する者が出来て結婚すれば、互いに血を与え合って生活しています。それに我が国では生活保障制度もございますので、飢える事は決してございません」


 フィズさんとランカさんは、フォルネウス様の言葉に涙を流していた。


「こんな素敵な場所があるなんて、知らなかった……っ」

「もっと早く、ここに来たかった……っ!」


 お姉ちゃんはそんな二人の頭を優しく撫でて声をかけた。


「これからどうしていきたいか、一晩ゆっくり考えるといいわ。吸血鬼として生きるか、人間に戻ってやりなおすか。どちらを選んでも、貴方達が幸せに暮らしていけるように、ここでサポートしてもらえるから」

「はい、ありがとうございます……っ!」

「パメラ様、連れてきて下さってありがとうございます……っ!」

「お礼なんて要らないわ。私は女帝の役目を放棄してた。貴方達のように辛い目に遭ってる者達を、助けもしなかったのだから」

「パメラ様はアザゼルを倒してくれました。それがどれだけ、私達に希望を与えてくれた事か!」

「ファントムに捕まってしまったのは、私達が油断していたせいです。自業自得です。パメラ様のせいではありません!」

「ありがとう、二人とも幸せになるのよ?」

「はい!」

「勿論です!」


 その後もう少し城下を楽しんでもらって、蒼の吸血鬼専用に用意された特別寮で休んでもらった。

 翌日、返事を聞くため私とフォルネウス様はフィズさんとランカさんの元へ向かった。


「フィズさん、ランカさん、答えは決まりましたか?」

「今さら人間に戻っても、家族も友人も知り合いも居ません。だからここで頑張って、もう一度やり直していきたいです!」

「私も吸血鬼としてやり直したいです! アリシア様とフォルネウス様のように、運命の相手と巡り合って甘い恋がしたいです!」

「……へっ!?」


 思わぬ爆弾を投下され、ランカさんから送られる羨望の眼差しに変な声が出た。


「ちょっと、ランカ! 貴方本音が漏れてるわよ!」

「いけない、私ったら! 建国祭のお話を聞いてから、憧れが止まらなくて! いつか、私も参加してみたいです!」


 特別寮には、生活をサポートしてくれる世話役と護衛が配置されている。どうやら彼等から建国祭の話を聞いたのだろう。恥ずかしすぎる。


「アリシアと出会えた事は、私にとって本当に奇跡です。こうして思いが通じ合えた喜びは、日を増すごとに強くなるばかりですよ」


 そう言ってフォルネウス様は私の髪を一房手に取ると口付けた。


 ふ、フォルネウス様……?!


「キャー! 素敵!」


 フィズさんとランカさんはそれを見て黄色い歓声を上げている。


「ここは愛を重んじる国ですから、紅の吸血鬼の血を引く男性は皆、深い愛情をお持ちです。きっとフィズさんとランカさんにも素敵なパートナーが出来る事でしょう」

「本当ですか?!」

「私、頑張ります!」

「ええ、応援しています。我が国ではパートナーの居ない未婚の方々を対象に、城下では色々出会いの場も提供しております。こちらの生活に慣れたら、是非とも参加されてみてください」


 そんな場所があったんだ、初耳だわ。


「それは楽しみです!」

「早く馴染めるように頑張ります!」


 こうして、初めての蒼の吸血鬼受け入れは無事成功した。二人はこちらの生活に慣れるまで特別寮で生活してもらい、この国で生きていくのに必要な知識やマナーを覚えてもらう事になった。


「フォルネウス様、二人のモチベーションを上げるためにわざとやったでしょう?」

「多少はそれもあるが、俺は本心しか言ってないよ。こうしてアリシアと巡り合えた事も、思いが通じ合えた事も、俺にとっては本当に奇跡のようだといつも思っている」

「確かに……住んでいた場所も、種族も違った私達が、こうして共に居られるのは本当に奇跡のようですね」

「そうだろう? アリシアが故郷へ帰って気付いたのだ。隣に居てくれるのが当たり前だと思ってはいけないと。だから俺は普段から、君と過ごすこの時間を一分でも一秒でも大事にしたいんだ」


 ずるい。そんな甘い顔してそんな事言ってくるなんて反則だ。


「さて、問題児のところに着いたな……」

「そうですね……」


 そして人をドキドキさせといて、唐突に現実に戻してくる所もズルいですよ、フォルネウス様!


 ファントムさんの待つ特別保護室をノックして、私達は部屋の中へと入った。

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