45、ただいま!
実家を見て、懐かしさが込み上げる。玄関の呼び鈴を鳴らすと「はーい、今開けますね」というお母さんの声が。
「お母さん、ただいま」
「まぁ、アリシア! おかえり、よく来てくれたわ! 無事で本当によかった……っ!」
お母さんは私を見るなり抱き締めてくれた。本当は少しだけ怖かった。吸血鬼になった私を受け入れてくれるのか。でもそれは余計な心配だったようで、ほっとした。
「夜遅くごめんね。実は紹介したい人が居て、挨拶に来たの」
「初めまして、お母様。アリシアさんと交際をさせて頂いているフォルネウス・ハイグランドと申します」
「まぁ、なんて男前! 貴方がアリシアを助けてくれた方なのね! 本当にありがとう!」
「いえ、私の力が及ばず、大切な娘さんを吸血鬼にしてしまった事、誠に申し訳ありませんでした」
「こうしてアリシアが元気に生きていてくれるだけで、私は嬉しいのよ。娘を助けてくれてとても感謝しているわ。だからどうか、顔をあげてちょうだい。立ち話もなんだから、中に上がってちょうだい」
リビングに案内されて、席に座る。私が暮らしていた頃と何も変わっていないリビングに、懐かしさが込み上げて少しだけうるっときてしまった。
「ごめんね。来てくれるって分かってたら、もう少し良いものを用意しておいたんだけど」
「こちらこそ、突然押し掛けてしまい申し訳ありません。お気遣い頂き感謝致します」
申し訳無さそうにお茶を出すお母さんに、フォルネウス様は「ありがとうございます」と爽やかな笑顔で感謝を述べていた。
そんなフォルネウス様の姿を見てお母さんは「美形の好青年だなんて! アリシア、とても素敵な方と出会えて良かったわね!」と嬉しそうだった。
「フォルネウスさん。遠い所からわざわざ挨拶に来てくれてありがとうございます。二人の結婚を、私は心から祝福しています。どうか娘の事を、これからよろしくお願いします」
「勿論です、お母様。アリシアさんを一生涯愛し、大切に守り抜いていくと約束致します」
「良かったわね、アリシア。本当に良かったわね!」
お母さんはそう言って、嬉し涙を流してくれた。
「お母様、良かったらこちらをお受け取り下さい」
フォルネウス様が魔道具のキューブから取り出されたのは、アクセサリーケースと綺麗に包装された箱。
「まぁ、綺麗なブレスレット! それに美味しそうなワインね! わざわざありがとうございます!」
「こちらのブレスレットは、通信機能も備えております。このボタンを押すだけで、アリシアといつでも連絡を取れるように設定してありますので、ご利用下さい。もし通信が途切れやすくなった場合は、太陽の光をしばらく浴びせる事でまた使えるようになっています」
「フォルネウス様、魔力がなくても使えるのですか?」
「これは特別に作らせた魔力内蔵型のポータブルコールで、太陽の光を浴びせる事で自動で内蔵魔力を補充してくれるようになっている。だから魔力を扱えない人でも利用出来るんだ。アリシア、繋がるかどうかテストをしてもらえるか?」
「はい、勿論です!」
それからお母さんにポータブルコールの使い方を伝授し、無事に使える事を確認した。
「こんなに小型のブレスレットで、そんな事が出来るなんてすごいわね!」
「喜んで頂けて光栄です。それと良かったらこちらの紀章もお受け取り下さい。これはハイグランド帝国への無期限の通行許可証となっております。アリシアも喜びますし、我が国にも是非遊びに来られて下さい。連絡していただければいつでも迎いを遣わせますので」
「お母さん、是非遊びに来てよ。私が案内するから!」
「ありがとう、落ち着いたら是非行かせてもらうわね」
「うん、待ってるね!」
こうして無事に家族との挨拶を終え、私はフォルネウス様と一緒にハイグランド帝国に帰った。
「アリシア、寒くはないか?」
空を飛びながら、フォルネウス様が心配そうに尋ねてこられた。
「はい、こうしてれば大丈夫です」
フォルネウス様の首元に回した手をぎゅっと強める。ピタッと密着してるから、全然寒くない。むしろ――
「湯たんぽみたいでとても温かいです。それにほのかに甘くて、良い匂いがします。私、フォルネウス様のこの香り大好きです」
「……っ! あ、アリシア……危険だから、今はあまり可愛いことを言ってくれるな」
「ふふふ、フォルネウス様の顔、林檎みたいに真っ赤です」
「全く、誰のせいだと思ってるんだ……」
「私のせいだったら嬉しいです。だって、ずっとお会いしたかったんです。少しくらい堪能したっていいじゃないですか……っ!?」
そうやってフォルネウス様をからかっていたら、唇を塞がれてしまった。状況を理解した瞬間、胸の鼓動がけたたましくなり続ける。
「少しくらい、堪能したっていいんだろう?」
私の言った台詞をそっくりそのまま返されてしまった。
「フォルネウス様。もっと堪能しても……いい、ですよ」
勝ち誇った顔をしたフォルネウス様が可愛くてもっとおねだりしたら
「参った、降参だ! これ以上は俺の理性が持たない!」
フォルネウス様は瞠目した後、照れた様子で顔を背けてしまった。
「分かりました。続きは帰ってからにしましょうね」
「帰ってから、続きを……?!」
「嫌、ですか?」
「嫌じゃない、急いで帰ろう!」
その後、フォルネウス様の頑張りのおかげであっという間にハイグランド帝国についた。
「シアちゃん、おかえりなさい! 二人で一緒に帰ってきてくれて本当に良かったわ!」
「シアー! おかえりなのじゃ! 12年と3ヶ月5日間、フォルネウスの抱き続けた思いを無事に認めてもらえて、嬉しい限りじゃ!」
「父上は少し黙ってて下さい!」
「姫様! おかえりなさいませ! この一週間、姫様にお会いできなくてとても寂しかったんですよ! ご無事に帰還されて本当によかった……っ」
「おかえり、嬢ちゃん! 元気そうでなによりだ」
「おかえりなさい、アリシア。君の帰りを、皆首を長くして待ってましたよ」
「アリシア様! ご無事でなによりです!」
お城に着くと、皆が温かく迎えてくれた。
「皆様、ご心配をおかけして申し訳ありません。ただいま戻りました!」
おまけ【皇太子vs奇跡の聖女】②(フォルネウス視点)
「アリシア、唇を押さえてどうしたのだ?」
「あ、いえ、その……さっきフォルネウス様がして下さったのが、初めてだったので……」
恥ずかしそうに俯いてしまったアリシアを前に、俺は焦っていた。
本当の初めては、君を助けた時だなんて、言えない。その後一年間、ずっと口移して血を与えていたなんて、言えない。
「フォルネウス様は、その……とても慣れていらしたように思えたので……他にも経験がおありなのかなって……」
不安そうに瞳を揺らしてこちらを仰ぎ見るアリシアに、このままではあらぬ誤解をされてしまうと思った俺は正直に真実を話した。
「すまない。君を助けるために口移しで俺の血を与えていたのだ。その後一年間、目覚めるまで、ずっと……だから、その……キスはあれが初めてではないのだ」
よかった……と、アリシアが安心したように小さな声で呟いた。
「それは人命救助です。だからフォルネウス様、それを抜きにしたら?」
「さっきのが、初めてだ」
嬉しそうにアリシアは花が綻ぶような笑顔を見せた後、俺にとんでもない爆弾を落としてきた。
「フォルネウス様、お腹すいてませんか? 私も人命救助したいです!」
まさか、それは……言葉の意味を理解した瞬間、俺の顔はきっと茹で蛸のように赤くなっていたに違いない。
勝者 アリシア
理由 言葉でフォルネウスを骨抜きにしたから










