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ヴァンパイア皇子の最愛  作者: 花宵
第五章 紅と蒼の力を合わせて頑張ろう!

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42/67

42、蒼の女帝は紅の皇太子を試したい!

「来たようね」


 お姉ちゃんと過ごして一週間後、フォルネウス様がベリーヒルズ村へ訪ねて来られた。


「さぁ、紅の皇太子。覚悟しなさい!」


 不適に笑うお姉ちゃんの笑顔が、とても怖い。


「お姉ちゃん、私迎えに……」

「だめよ、もう試験は始まっているのだから。この村に一歩でも足を踏み入れた時点で、私の作った幻覚空間に囚われているわ」


 ポータブルコールでフォルネウス様にお声がけしても返事がない。お姉ちゃんの魔法効果かな?

 ソファーに座るよう促され、お姉ちゃんが空気を切り裂くように大きな四角形を描くと、そこに外の風景が写し出された。す、すごい。


「フフフ、様子を一緒に観察しましょう」


 あれ、あんな所に石像なんてあったっけ? 道端にある不自然な石像、よく見ると私によく似ている。何このデジャヴ感。


「お姉ちゃん、あの石像何?」

「それは勿論可愛い子供の頃のアリシアよ。今から彼の優しさを試させてもらうわ。安心してね、この中に映し出される人も物も全てが幻覚で作られたものだから。さぁ、様子を見守りましょう」

「分かった」


 フォルネウス様は石像の前で足を止めると、両手を合わせてお祈りしている。


 習慣って怖い!

 それ奇跡の聖女像じゃありませんよ、フォルネウス様!


 お祈りするフォルネウス様にお婆さんが近付き声をかける。


「そんな所に立ち止まられちゃ邪魔だよ! 全く最近の若い者は、ろくに働きもせずにこんな所で油を売って!」

「通り道を塞いでしまい、申し訳ありませんでした」


 文句を言うお婆さんに、フォルネウス様は丁寧に謝罪をして道を譲っていた。お婆さんは、それでも文句をぶつくさと呟きながら歩いていった。


「さぁ、ここからよ。アリシア、よーく見てなさい。仕掛け発動!」


 その時、突然空から大きな石がおばあさんと石像目掛けて落ちてきた。


「いきなり文句を言うようなモンスターを、彼ははたして助けるのかしら? ああ勿論、アリシアにそっくりな石造も守れないようじゃ話にならないわよ?」

「そ、そんな無茶な!」


 フォルネウス様は、石造に降ってきた大きな石に雷魔法を飛ばして岩を砕くと、石像に欠片が降りかからないように防御壁でガードされた。その後、素早い動きでお婆さんを抱え移動する。その背後で物凄い音を立てて大きな岩が地面にぶつかった。


「お怪我はありませんか?」

「あ、ああ。ありがとう、助かったよ」


 流石フォルネウス様だわ!

 討伐任務をこなしながら普段から人助けされているから、きっと慣れていらっしゃるのね!


「ふん、少しはやるようね。次よ、次! 強い吸血鬼の男なんていつも美女を侍らせてるでしょう。少し誘惑してやれば、すぐに落ちるはずよ!」


 フォルネウス様が女性を侍らせている所なんて、見た事ないけどな。

 再び歩き出したフォルネウス様の前に現れたのは、とても綺麗なお姉さん達だった。


「お兄さん、私達と遊んでいかない?」

「いえ、先を急いでますので結構です」

「そんな冷たい事言わないでよ~」

「いいじゃない、ちょっとだけでいいから!」


 お姉さん達はフォルネウス様を取り囲むと、逃げられないように腕に抱きつこうとする。けれど、フォルネウス様は軽々とそれを避けて口を開く。


「気安く触れないで頂けますか」

 

 そう言い残して、フォルネウス様は先に進む。そんな様子を見てお姉ちゃんが荒ぶっている。


「な、何で引っかからないのよ! リグレット王国でも指折りの美人を揃えたのに!」

「お姉ちゃん。フォルネウス様はそんなに不誠実な方ではないわ」

「はっ、そうよ! アリシアの可愛さの前ではただの美人なんて用なしだわ。それならば、これなら足を止めずに居られないでしょう!」


 お姉ちゃん、また悪い事企んでるな。


「大丈夫ですか?」


 道端に倒れた女性を見つけたフォルネウス様は、駆け寄って声をかける。

 顔を上げた女性を見て、フォルネウス様が驚いた様子で固まった。


「どう? アリシアにそっくりでしょう! これなら紅の皇太子も無下には扱えないはずよ。はたして、あの子が偽物だって事に気付けるから?」


 お姉ちゃんは自信満々そうに言いきった。

 確かにその女性は私にそっくりだった。


「アリシア! しっかりしてくれ、アリシア」


 呼び掛けに応じるようにゆっくりと目を開けた偽物は、感極まったようにフォルネウス様に抱きついた。


「フォルネウス様! 迎えに来て下さったのですね!」

「ああ、そうだ。怪我はないか? 何故こんな所で倒れていたのだ?」

「私は……そうだ、お姉ちゃんから逃げて来たんです」


 偽物は警戒した様子であたりをキョロキョロと確認して、言葉を続けた。


「ごめんなさい、フォルネウス様。私にはお姉ちゃんを説得出来ませんでした。絶対にあちらには帰さないって監禁されて、フレディお兄ちゃんが何とか逃がしてくれて。お姉ちゃんは、迎えにきたフォルネウス様を殺そうとしています。だからここにいると危険なんです! はやく逃げましょう!」

「アリシア、それは出来ない。きちんと謝罪と挨拶をさせて欲しいんだ」

「どうしてですか?! もうお姉ちゃんなんてどうでもいい。私はフォルネウス様が傍に居てくれればそれでいいんです。だから一緒に、ハイグランド帝国に帰りましょう!」


 フォルネウス様の手を引いて、偽物は歩きだす。けれどフォルネウス様は、その場から動かない。


「アリシア、君にとって家族は大切な誇りだ。そのように簡単に切り捨てられるような存在ではないはずだ」

「私はお姉ちゃんより、フォルネウス様の方が大事なんです! お姉ちゃんは、本気でフォルネウス様の命を狙っています。そんな危険な場所に、貴方をお連れするわけにはいきません!」

「ありがとう、アリシア。俺の身を案じてくれるのは嬉しいが、大丈夫だ。お姉さんの気が済むまで、殴られる覚悟は出来ている」

「私は嫌です! フォルネウス様が痛い思いをするのは嫌です!」

「それでも、やはりきちんと謝罪と挨拶をさせて欲しい。アリシア、俺は覚悟をしてここに来た。それだけの悲しみを、俺は君のお姉さんに与えてしまったのだ。たとえ分かり合えなかったとしても、その努力もせずに逃げ出すわけには、いかないのだ。君は言った。お姉ちゃんに私達の関係を認めて欲しいと。俺はそんなアリシアの想いを、大事にしたい。君達を仲違いさせたまま、引き離したくないんだ」


 フォルネウス様のそのお言葉が、ジーンと胸に響いた。


「なかなか見所あるじゃないか。僕は気に入ったよ。彼になら、アリシアを安心して任せられる」


 静かに様子を見守っていたお兄ちゃんが、嬉しそうに言った。


「悔しいけど、認めてあげるわよ!」


 こうして、秘密裏に行われたお姉ちゃんの試練に、フォルネウス様は見事合格された。

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