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ヴァンパイア皇子の最愛  作者: 花宵
第四章 貴方の隣に相応しくなりたい!

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41、お姉ちゃんにも認めて欲しい

「あの誘拐男の事よ! 時折現れてはコッソリ貴方の様子を遠くから盗み見てたのよ。何年も何年も。どう見てもただのストーカーじゃない!」

「え、そうなのかい?! アリシア、何も変なことはされてない? 大丈夫?」

「大丈夫だよ!」


 このままではいけないわ!

 フォルネウス様の印象が、お姉ちゃん達の中で地に落ちてしまっている。


「昔ね、道に迷ったフォルネウス様を森でお助けした事があるの。その時からフォルネウス様は、私に思いを寄せてくれていたらしいの。だからきっと私の回りに危険がないか、パトロールしてくれていたんだよ」


 人々の平和を守るために戦ってくれているのに、ストーカーだなんてあんまりだわ。


「アリシア、あの誘拐男自体が危険だって、どうして思わないのよ!」

「フォルネウス様は私を吸血鬼にしてしまった事に、ずっと負い目を感じていらっしゃった。私はそれがとても心苦しかった。だって私は命を助けてもらえて、良かったと思ってるんだもの。こうしてまたお姉ちゃん達とお話出来たのも、フォルネウス様のおかげだよ!」

「それは、そうだけど……」

「確かに彼が居なければ、アリシアはここに居なかった。それは紛れもない事実だよ、レイラ」


 お兄ちゃんの言葉に、お姉ちゃんは悔しそうに唇を噛んでいる。


「私ね、ハイグランド帝国で色んな事を学んだの! 吸血鬼としての基礎知識から、マナーや歴史、魔法の扱い方も! それがとても楽しかった。温かい吸血鬼達に囲まれて、人も吸血鬼も変わらないって思ったの。ハイグランド帝国があそこまで栄えているのは、皆が愛を大切にして、相手を思うことの大切さを日々噛み締めながら生活しているからなんだって分かった。フォルネウス様は、そんな国を将来守っていくお方なの。民や臣下を労り、皆に慕われたとても格好いい皇太子様なんだよ」

「あちらに、帰りたいの?」


 お姉ちゃんが不安そうな顔で尋ねてきた。


「種族も関係なく自由に互いの国を行き来できるような、人間と吸血鬼が安心して暮らせる世界。フォルネウス様のそんな夢を叶えるために、私は頑張りたい。だってそうしたら、いつでもここに帰って来れるし、お姉ちゃん達だって自由に私に会いに来れるでしょ? だから私は、フォルネウス様と一緒にその夢を叶えたいと思ってるんだ」


 回帰魔法で人間に戻れるかもしれないと分かった時、私の中に一番に浮かんだのはフォルネウス様のお側を離れる事の寂しさと悲しさだった。

 たぶんその頃から私は自覚していなかっただけで、フォルネウス様の事をお慕いしていたんだと今になって分かった。


「アリシアは、そのフォルネウス様の事が本当に好きなのかい?」

「うん、大好きだよ!」

「ど、どこがそんなに好きなのよ!」


 認めたくないと言った様子で、お姉ちゃんは私に詰め寄ってきた。


「優しくて尊敬出来る所かな。私の事をとても大事にしてくださるし、無邪気で好奇心旺盛な所は可愛いなって思う」


 本当は逆に嫌いな所をあげてって言われても思い付かないくらい、フォルネウス様の好きなところしか思い付かない。でも全部なんて言ったら胡散臭く感じられちゃうかもしれないから、本当に大好きだなと感じる部分だけをあげてみた。


「優しいだけの男はだめよ、優柔不断で頼りにならないもの!」

「フォルネウス様はとても頼りになるよ。この間パーティーでリグレット王国の王女様にお会いしたんだけど、平民の私がフォルネウス様の婚約者になった事が気に入らなかったみたいで、悪口を言われたの。役立たず騎士ってお父さんの事を馬鹿にされて、とても悔しかった。そしたらフォルネウス様が、王女様の頭にワインをかけて怒って下さったの。私だけじゃなくて、フォルネウス様は私の大切な家族も大事に思って守ってくれる、優しくて頼りがいのあるお方なんだよ。だからお姉ちゃんやお兄ちゃんにも知って欲しい。私の大切な人の存在を」


 お姉ちゃんに私の嘘偽りのない気持ちを分かって欲しくてじっと見つめる。すると何故かお姉ちゃんはテーブルに顔を突っ伏して、悔しそうに呟いた。


「うぅ……そんな風に言われてしまったら、認めてあげるしかないじゃない……」

「レイラ、どうやら君の負けのようだね」


 慰めるように、お姉ちゃんの頭をお兄ちゃんが優しく撫でる。


「アリシアの気持ちはよく分かった。だから今度は、あっちの坊っちゃんを試させてもらうわ」


 勢いよく顔を上げたお姉ちゃんは、いきなり奇想天外な事を言い出した。


「……え?」

「……まだやるの?」


 私とお兄ちゃんの驚きの声が重なった。そんな私達にお姉ちゃんはビシッと人差し指を向けると、自信満々に言い放った。


「アリシアに本当に相応しい男がどうか、直々に試さないと分からないじゃない」

「ど、どうやって試すの?」


 あらぬ展開に流れてきて、思わず焦る。


「そうね、まずは弱い男なんて門前払いよ。私に勝てないようじゃ話にならないわ」

「ちょっと待ってお姉ちゃん! お姉ちゃんは蒼の吸血鬼の中で最強なんでしょ?」

「ええ、そうよ!」

「フォルネウス様は、紅の吸血鬼の中で一番魔力の高い方なの。そんな最強の二人が戦ったら、国が滅びちゃうよ! もっと平和的にして!」


 洒落にならない戦いが幕を開けようとしていた。断固拒否!

 それに大切な人同士が血みどろの闘いするなんていやだよ! 怪我したらどうするの!


「もぅ、仕方ないわね。まぁ向こうで一番って言うなら、身体的な強さを見るのは免除してあげるわ。でも問題はメンタルよ」

「メンタル?」

「吸血鬼の一生はとても長いの。その永い年月を、一途にアリシアの事を思い続ける覚悟があるのか、試させてもらうわ。これならいいでしょう?」

「痛いことはしたりしない?」

「ええ、怪我はしないわ。私の幻覚魔法で、心を試させてもらうだけよ。私の試練に耐えれたら、アリシアの結婚相手として認めてあげるわ」


 お姉ちゃん、幻覚魔法なんて使えるんだ……戦って流血沙汰になるよりは、こっちの方がいいよね?


「分かった。それでお姉ちゃんが私達の関係を認めてくれるなら」


 絶対にフォルネウス様は、お姉ちゃんの試練に負けたりしない!




おまけ【一方、その頃のハイグランド帝国では】(フォルネウス視点)


 アリシアの居ない執務室。美しい天使を失った部屋は、どんよりと湿ったように空気が重く息苦しく感じた。


 ああ、そうか。

 アリシアはいつも小まめに窓を開けて空気の入れ換えをしたり、デスクに花を飾って部屋の雰囲気を明るく和らげてくれていた。


 仕事に追われ殺伐としていた俺の執務室が綺麗に保たれ、帰ってくるとほっとした場所になるようにしてくれていたのは、紛れもなくアリシアだった。


『おかえりなさいませ、フォルネウス様』


 討伐任務から戻ると、いつもそうやって笑顔で迎えてくれた。


『お怪我はありませんか? 痛いところがあったら仰って下さい、私が治します!』


 俺の身を心配してくれる姿がとても可愛くて、今すぐ抱き締めたい衝動に駆られるのをいつも我慢していたのを思い出す。


「女帝がアリシアの義姉だったなんて、誰が想像できると言うのだ……」


 想いが通じあって確かな繋がりが出来た今、アリシアは俺の傍にずっと居てくれるものだと勝手に思いこんでいた。どうしてこんなにも自惚れていたのだ。


 アリシアを連れて、きちんと彼女のご家族に挨拶に伺うべきだった。同意なく吸血鬼にしてしまった事をきちんと詫びて、結婚の許しを得るべきだった。どうしてこんなにも当たり前の事が、抜け落ちていたのだ。


 女帝が言っていたように、俺はアリシアをこの狭い鳥籠に入れて、逃げられないように縛り付けていたのかもしれない。自立したいと言ったアリシアを、ここに縛り付けたのは間違いなく俺自身だった。


 誘拐犯……その言葉が、心に重くのし掛かる。


「そう落ち込むなよ、若。ピンチをチャンスに変えてこそ、男の株が上がるってもんだぜ」

「ピンチをチャンスに?」

「嬢ちゃんの家族にとって、今の若の印象は最低最悪の底辺だ。それ以上落ちるとこがないまできている。裏を返せばそれ以上落ちようがないんだから、後は上がるだけだろう?」

「俺は、どれだけマイナスからのスタートなんだ……」

「ガブリエル、言葉の使い方には気をつけて下さいと何度も言っているでしょう!」

「そう怖い顔すんなって、リフィエル。俺はただ、勇気づけてやっただけだろうが」

「だが確かにそうだ。落ち込んでいる時間が勿体ない。今は失った信用を取り戻す方法を考えるのが、最優先事項だ。二人とも、俺に力を貸してくれないか?」


 一分でも一秒でも早く、アリシアを迎えに行きたい。そのためにはまず、マイナス印象をプラスに塗り替える、完璧な挨拶をマスターしなければ!

これにて第四章完結となります。

ここまでお読み頂き、本当にありがとうございます!


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