40、やっぱりお似合いの二人
「さぁ、ついたわよ」
「お姉ちゃん、ここはどこ……?」
「どこってベリーヒルズ村よ」
「私が居た頃の面影が、微塵もないよ?」
緑豊かな田園風景は、石畳のお洒落な町並みに大変身していた。
「アリシアが生きているって聞いて、頑張って整えたのよ! 百年ぶりに隠し財産を取りに行って、村全体の整備費用に当てたわ!」
百年ぶり?! 隠し財産?!
お姉ちゃん今何歳なんだろう。
それにしても、頑張りすぎにも程がないだろうか。どこの都市に来てしまったのだろうかと、思ってしまった。夜中なのに、ちゃんと外灯があって暗くない。けれど、流石に民家の明かりは消えている。
「ここが、今日から一緒に住む新しい家よ」
「す、すごい豪邸だね」
「だって、あっちが豪華だから帰りたいって言われたらお姉ちゃん寂しいもの」
「そんな理由で帰りたいとは、言わないよ」
ただいまーとお姉ちゃんが玄関の扉を開けると、「おかえり」と迎えてくれるフレディお兄ちゃんの姿があった。
「アリシア! 大丈夫だったかい?! 君が悪い吸血鬼に嫁入りするって、レイラが騒いでいたから心配してたんだよ」
「偉いでしょ、フレディ。私はちゃんと奪還してきたわ。まぁ、多少は汚い手を使ったけども」
「レイラ、お願いだからあまり無理はしないでくれ……」
お兄ちゃんはそう言って頭を抱えている。
「フレディお兄ちゃんは、お姉ちゃんが吸血鬼だって、知ってたの?」
「そうだね。話すと長くなるから、少しだけ皆で昔話をしようか」
部屋に案内され、フカフカのソファーに腰を掛ける。「喉乾いただろう?」とお茶まで淹れてくれて、ほっと一息ついた所で本題に入る。
「何から話したらいいのか分からないから、気になる事をアリシアから質問してくれるかしら? 私達は、それに嘘偽りなく答えるわ」
「分かった。お姉ちゃんが蒼の吸血鬼の女帝パメラ様っていうのは、本当なの?」
「ええ、本当よ。私の本当の名前はパメラ。遠い昔に家族を吸血鬼に殺されてね、私自身も吸血鬼にされてしまったの。目の前でたった一人の妹の命を奪った吸血鬼に復讐する事だけを誓って、生きてきた。そのために、非道な事も沢山やってきたわ」
お姉ちゃんはそう言って悲しそうに目を伏せた。
「復讐したい吸血鬼っていうのは、皇帝アザゼルの事?」
「よく知ってるわね」
「向こうで吸血鬼の歴史を学んだから」
英雄パメラ様がアザゼルを裏切ったのは、復讐のためだったんだ。
「アリシアが私を見つけてくれた時、本当は死に場所を探して彷徨っていたの。長い時を生きて、妹を殺した憎い吸血鬼に敵も取って、それ以上生にしがみつく気力もなかった。でも助けてくれた女の子が妹にそっくりだったの。夢でも見てるのかと思ったわ」
「それって私の事?」
「ええ、そうよ。妹はシアって言うんだけど、名前までそっくりでビックリしたわ。寂しいのを我慢してお母さんに心配かけないように頑張ってる貴方の姿を見ていたら、放っておけなかったの。もう少しだけ生きてみたいと思った。妹にしてあげられなかった事をやってあげたら、すごく喜んでくれて嬉しかった。本当はこんな化け物が傍に居ちゃいけないって分かってたのに、貴方の笑顔だけが私の心の支えだったのよ」
「お姉ちゃんは化け物なんかじゃないよ。私にとっては大切なお姉ちゃんだよ。お姉ちゃんが居てくれたから、私は寂しく無くなったし、毎日がとても楽しくなった。本当に感謝してもしきれないくらいだよ」
「ありがとう。そう言ってもらえてとても嬉しいわ。あの当時ね、長らく食事を取ってなかったから、私の身体はボロボロだったの。生きたいと思ったらお腹が空いてね、裏山で獣を捕まえて血を啜っているのを、運悪くこの男に見つかったのよ」
お姉ちゃんは心底嫌そうな顔をしてフレディお兄ちゃんを指差した。
「あの時は本当にびっくりしたよ。この事をアリシアに言ったら殺すって、えらくドスのきいた声で脅されてね……」
「お、脅し?!」
「フレディ、アンタはアリシアに救われたのよ。あの当時、アリシアが貴方の事を大事に思ってなかったら迷わず始末していたわ」
「始末ってお姉ちゃん、そんな物騒な事しちゃだめだよ!」
「アリシア、残念ながら君のお姉ちゃんは君以外にはこうなんだよ」
「そ、そうなの?!」
「違うわ、アリシア。貴方を盾に私を脅し続けたこの男が悪いせいよ!」
「ど、どっちが正しいの?!」
「どっちも正しいわね」
「どっちも正しいよ」
お姉ちゃんとお兄ちゃんの声が重なった。
「それから私の後を監視するようにずーっと付きまとってくるのよ。もう煩わしいったら、ありゃしない!」
「村の皆に危害を加えられたら困るからね。秘密を知ってしまった以上、放ってはおけないよ」
「あれこれ口うるさく注意してくる癖に、私がフラフラしてたら『僕の血を飲め』って言って聞かないし。『君が倒れたらアリシアが悲しむだろう』って、貴方を盾に脅すのよ。酷いと思わない?」
「飢餓状態の吸血鬼を野放しにしておくほど、恐ろしいものはないだろう」
そう言って口喧嘩を始めてしまったお姉ちゃんとお兄ちゃん。
「なんか二人の雰囲気、昔と随分変わったね?」
こうやって言い争ってる姿なんて見たこともなかった。だって二人はいつもにこにこと微笑みあっていたはず……だよね?!
「あー昔のあれは全部演技だもの。便宜上皆の前では仲が良いフリをしていただけよ」
「そ、そうだったの?!」
「アリシア、残念ながら実際の僕達の日常なんて、こんなものだよ。でもレイラ、君を守る騎士になりたいと言ったあの誓いは本物さ。君がアリシアの幸せを望んでいるのと一緒で、どれだけ君が僕を邪険に扱ったとしても、そんな君を守って生きたいという僕の意思は変わらないからね」
「き、急に何よ!」
そう言ってお兄ちゃんがお姉ちゃんを見つめる瞳には、やっぱり熱が籠っている。見つめられたお姉ちゃんも、心なしか頬が赤い。
なるほど、こうやって私の知らない所で二人はちゃんと愛を育んでいたんだね。そんな二人の様子を見ていたら何だかすごくほっとした。
「本当、頭おかしいわよね。吸血鬼に求婚してくる人間なんて」
「全然おかしくないよ、お姉ちゃん。本当は二人、仲良くないのかなってちょっと不安になっちゃったけど、深い愛情で繋がってるのが分かってすごく安心した」
「アリシア……」
「お姉ちゃんがこうしてきちんと自我を保っていられるのは、心の中に愛があるからだと思う」
「そうねアリシア、貴方への深い愛があるおかげね」
「それもだけど、フレディお兄ちゃんとの絆もね!」
「切れるものなら切りたい縁だわ」
「そんな事言っちゃダメ!」
「大丈夫だよ、アリシア。これもレイラの一種の愛情表現だから。僕が居なくなると心配して探しに来るしね」
「お姉ちゃん、可愛い!」
「フレディ、後で覚えてなさい!」
「勿論、望むところさ」
お姉ちゃんのツンとした部分をお兄ちゃんが優しく包み込んで、やっぱり二人はとてもお似合いだと思った。
「二人が幸せそうで本当に良かった!」
「今でこそ、レイラはここまで元気になってくれたけど、アリシアが居なくなってからの一年間は本当に大変だったよ」
「だって、アリシアは私の生きる希望だったのよ! あんなストーカー男にかっさらわれるなんて、冗談じゃないわ!」
「ストーカー男……?」
それってもしかして、フォルネウス様の事?










