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ヴァンパイア皇子の最愛  作者: 花宵
第四章 貴方の隣に相応しくなりたい!

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39、女帝パメラの最愛

「お姉ちゃん、どうしてここに……?」


 驚きで、上手く声が出せない。


「アリシア、会いたかったわ! 貴方を助けに来たの。こんな吸血鬼達と一緒に居る必要ないわ。私と一緒に帰りましょう」

「ど、どういうこと……?」

「脅されてあんな吸血鬼の花嫁にさせられたのでしょう?! あぁ、可哀想にっ! 貴方の居場所は私が作るわ。だから一緒に帰りましょう」


 そう言って、お姉ちゃんは私を抱き締めた。


「違うよ、お姉ちゃん。私は脅されてなんてないよ」

「それは嘘ね。だって見てご覧なさい。私を視線で殺さんとせんばかりの、彼のあの顔を。大切な花嫁の姉に向ける視線とは思えないわ」

「フォルネウス様! 誤解です! この方は私の姉なんです!」

「アリシアの姉だと……?」

「ええそうよ。アリシアは私の大切な妹よ。二年前、勝手に連れ去って誘拐したのは貴方達よね。だから返してもらうわ」

「お姉ちゃん、私はフォルネウス様に命を助けてもらったの! だから、誘拐なんてされてないよ」

「私は悲しかったわ。ジルからアリシアの無事を聞かされていたのに、初めて届いた手紙か結婚式の招待状だなんて」


 お姉ちゃんはフォルネウス様にビシッと指を向けてさらに、言葉を続けた。


「挨拶も来ないで、家族の許可も得ずに、勝手に花嫁にしようなんて、言語道断よ! そんな横暴な男と一生を共にするなんて、私は認めない!」


 お姉ちゃんの言葉に、ガブリエル様とシオンさんが「確かに……」と頷きながら同意している。


「おい若、正論しか言われてないぞ」

「若様、謝った方がよくないすか。アリシア様のご家族と喧嘩するのはまずいですよ……」

「誠に申し訳ありませんでした。しかしこちらではアリシアの安全が守れません。だから……」

「これからは、私が守るわ」


 強い魔力の波動を感じた瞬間、目の前でお姉ちゃんの長い金髪が銀色に染まり、緑色をしていた瞳が蒼く変わる。


「申し遅れたわね、紅の吸血鬼の皆さん。私は蒼の吸血鬼、女帝パメラよ。今までは人間のフリをしていたけれど、アリシアが吸血鬼になった今その必要も無くなったわ。私はリグレット王国に、新たな吸血鬼の居場所を作る。だからどうぞご心配なく。ああ、今まで妹を守ってくれた事には一応礼を言うわ、どうもありがとう」


 お姉ちゃんが、女帝パメラ様?!

 ど、どういうこと?!


「お待ちください! アリシアは俺の血しか飲めません!」

「そうかしら?」


 お姉ちゃんは親指の爪で人差し指の腹を切ると、それを私の口元に寄せた。流れ込んできた血が舌に触れると、口の中で甘美な味が広がった。


「甘くて美味しい……」

「ふふふ、そうでしょう? だって初めにアリシアに血を与えていたのは私だもの」

「私、そんな事された覚えないよ?」

「アリシアが風邪で寝込んでいた時、よく特製ミックスジュースを作ってあげたでしょ? 早くよくなるように、私の血を少し混ぜてたのよ」

「そうだったの?!」

「ええ、そうよ。だからいくらそっちの契約に縛られていようと、潜在的な欲求をアリシアの身体は覚えているのよ。残念だったわね」

「くっ……」


 フォルネウス様は悔しそうに歯を軋ませた。


「お姉ちゃん、どうか止めて。私は本当にフォルネウス様の事を愛しているの。だからリグレット王国に帰るつもりはないの」

「アリシア、貴方はそう思い込まされているだけかもしれないわ」

「どうしてそんな事言うの?」

「逃げ場のない知らない場所に突然連れて来られて、美味しく食べられる物が彼の血しかない。住まいも食事も制限されて、そんな鳥籠のような環境で過ごしていて、誘拐犯に優しくされたら自然と好意を寄せてしまうのも無理ないわ。だって命を守るためには、その鳥籠の中で優しくしてもらうのが楽だから」

「そ、そんな事ない! 私は……」

「貴方が帰れる場所は他にもあるの。鳥籠の中に縛られる必要はないのよ。これからは、私が貴方を守るわ」


 私が、あの場所に縛られていた?

 違う、私は自分の意思でフォルネウス様の傍に居る事を選んだ。それだけは胸を張って言える。

 目を覚ましてから一年間、温かい人達の思いに触れて、私はあの場所が大好きになった。縛られてなんてない。

 でもお姉ちゃんは昔から心配性で、少し頑固な所がある。ここで言葉で伝えても、きっと信じてはもらえない。

 それにお姉ちゃんが女帝パメラ様だって言うのなら、説得すれば紅の吸血鬼と和平を結んでくれる可能性も残されている。だったら私は――


「わかった、お姉ちゃん。家に帰るよ。そして自分の気持ちを確かめてみる」


 一旦、お姉ちゃんの気持ちを受け止める。相手に認めてもらうには、相手を認める事も大事だから。


「ええ、それがいいわ!」

「その前にお姉ちゃん、クロード様の眷属化を解いてあげて。無関係の人を傷付けてはいけないわ」

「そうね。貴方を取り戻すためとはいえ、少し強攻策に出たのは反省してるわ。ごめんなさい」


 お姉ちゃんがクロード様に手をかざすと、


「……っ、僕は一体……」


 クロード様は正気を取り戻された。


「迷惑料として、これを渡しておくわ。足りなかったら後で請求に来てちょうだい」


 そう言ってお姉ちゃんはクロード様に、ずっしりと重たそうな皮袋を渡した。

 クロード様が中身を確認されると、中には大量の金貨が入っていた。


「こ、こんなに受けとれませんよ!」

「軍隊の準備をしたり、余計な出費が掛かったでしょう? どうせアザゼルの遺産が腐るほどあるから、遠慮せずに受け取って。元々はあのクズが人々から巻き上げたお金なんだし、還元しても問題ないでしょう?」


 アザゼルの遺産!?


「それじゃあ、行きましょう」


 お姉ちゃんは私を横抱きにして、空を飛んだ。フォルネウス様と同じ事が出来るなんて、お姉ちゃんもかなり魔力が高いのが分かる。

 あの時リフィエル様が立てた仮説は合っていたのね。私は知らない所でお姉ちゃんの血を接種していた。だから、魔力が高かったんだわ。


「紅の皇太子、貴方が本当にアリシアを愛しているというのなら、取り返しに来てみなさい。ただしきちんと礼儀を弁えてない無礼な男は門前払いよ。アリシアに相応しくないもの」

「分かりました。認めて頂けるように、誠意を持ってご挨拶に伺います」


 私はポータブルコールでフォルネウス様に話しかけた。


『フォルネウス様、私は自分の意思で貴方の隣に居る事を選びました。お姉ちゃんにも、私達の関係を認めて欲しい。だから頑張って、説得してきます!』

『わかった、アリシア。必ず君を迎えに行く。君のご家族にもきちんと認めてもらえるように準備をして、挨拶に伺うよ』

『はい、お待ちしております』


「それじゃあ、ベリーヒルズ村で待ってるわ」


 お姉ちゃんはそう言い残すと、私を抱えてその場を飛び去った。

過去話に「眷属化」の説明を足しています。


リアルタイムで読んでくださっている読者の皆様用に、説明を補足しておきます。


この物語において眷属化は、吸血鬼の使える能力の一つで、【異種族に自分の血を与えて契約を結び、他者を操る力】です。


相手を吸血鬼に変えることなく操れる力ではありますが、魔力の届く比較的近くに居ないと操れないなどの制限があったりします。


倫理に反するという理由で、ハイグランド帝国では絶対に使ってはいけない禁忌とされていますが、リグレット王国に住む蒼の吸血鬼達は自由に使っています。

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