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ヴァンパイア皇子の最愛  作者: 花宵
第三章 借りすぎた恩を返したい!

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30、とんでもない爆弾を投下されました!

 訓練場へ着くと、大きな声援が飛び交い、人だかりが出来ていた。どうやら模擬戦が行われているようで、フォルネウス様とガブリエル様が手合わせをしている最中だった。


 大柄の体躯のガブリエル様は、大剣を軽々と片手で振り回してはフォルネウス様を圧倒している。

 それに対しフォルネウス様は、長い刀身を持つ双剣を巧みに使い大剣をギリギリの所で交わしながら、スピードを生かして攻撃を繰り出している。

 しかし決定打にはならないようで、苦戦しているようだ。ガブリエル様の大剣を受け止める度に、フォルネウス様は苦しそうに顔を歪ませる。


「逃げ回ってるだけでは勝てねぇぞ、若」

「俺がただしっぽを撒いて逃げ出す男に見えるのか?」


 その時、ガブリエル様の周りを囲むように五芒星の光が浮かび上がった。ガブリエル様は大きく剣を振りかぶった状態で止まっている。


「胴ががら空きだな」


 そこへフォルネウス様がすかさず双剣で攻撃をしかけるも


「甘いぜ、若」


 ガブリエル様が手を離し大剣を地面に落とした瞬間、大剣が灼熱の炎へと変わり、魔法陣が焼き尽くされた。

 動けるようになったガブリエル様は、灼熱の炎を龍の形に変えて操り遠距離から攻撃をし始める。

 炎龍が訓練場を飛び交い、派手に空中を旋回し、とばっちりで見ている騎士に火の粉がかかり、「アチッ!」と短い悲鳴を上げている。


 すごい迫力だった。昔お父さんに肩車されて一度だけ見た事のある、移動式サーカスよりも派手だった。


 でも、ここに居たら危ないのでは?


 危機感を抱いたその時、大きく旋回した炎龍の尾が目前に迫ってきていた。逃げるのはもう間に合わない。咄嗟に目を閉じて衝撃に備える。しかし感じたのは、誰かに抱き上げられたような重力に逆らう浮遊感だった。


「アリシア、怪我はないか?」


 頭上から振ってきたのは焦りを滲ませたフォルネウス様の声だった。目を開けると、フォルネウス様の心配そうな顔がすぐ近くにある。どうやら間一髪の所で、その場から連れ出し助けてくれたらしい。


「私は大丈夫です。ありがとうございます。それよりフォルネウス様こそ、お怪我はありませんか?」

「俺は問題ない。君が無事で、本当によかった」


 そう言って、フォルネウス様は安堵のため息を漏らした。


「ガブリエル! 俺の負けでいい、試合はここまでだ」

「今のは引き分けだ、若。それより、嬢ちゃん! 怪我はないか? すまねぇ、少し熱くなりすぎた」


 こちらに駆け寄ってきたガブリエル様が申し訳なさそうに頭を下げる。


「大丈夫ですよ、ガブリエル様。どうか顔をお上げください」

「嬢ちゃん、念のためだ。医務室へ行くぞ」

「アリシアは俺が連れて行く。ガブリエル、お前は新兵達の訓練の続きをしていてくれ」

「あいわかった」


 フォルネウス様に抱えられたまま、私は訓練場を後にした。しまった、ガブリエル様に大事な事を聞き損なったわ!


「あの、フォルネウス様。私は大丈夫です。自分で歩けますのでどうか、下ろして頂けませんか?」

「無理をするな。体が震えているではないか」

「これは、その……興奮による武者震いです!」


 誤魔化してみたものの、確かに足がすくんで震えていた。


「勇ましいことで何よりだが、アリシアは必ず俺が守る。だから無理して強がる必要はないのだぞ」

「…………ずるいです」

「何がだ?」

「いつも……助けてもらってばかりで、悔しいです。私だって、フォルネウス様を守れるようになりたいです」


 たった一度の恩で、もう充分すぎるくらいに与えすぎてもらっている。自分の無力さが、とても心苦しかった。

 フォルネウス様は驚いたように息を呑むと、何故か視線を逸らしてしまった。


「どうして目を背けるのですか」

「あまり、可愛いことを言ってくれるな。嬉しすぎてどうにかなりそうだ」


 悔しいと言った事が、嬉しいだなんて。フォルネウス様には負けず嫌いな一面もあったのね。

 そんな中、どうしても目について離れないものが気になり、私は思わず手を伸ばした。


「フォルネウス様、耳が真っ赤です」

「あ、だめだ、今は……っ!」

「どうか遠慮なさらずに。最近水魔法の扱いにも慣れてきたので冷やして差し上げますね」


 魔法で作り出した触れても濡れない水の玉を、優しくフォルネウス様の耳にあてた。


「いかがですか?」

「ああ、冷たくて気持ち良いな。アリシア、魔法の扱いがまた上達したな」

「フォルネウス様が、毎日美味しい食事を与えてくれるおかげですよ。いつもありがとうございます」


 医務室について、やっとフォルネウス様は私を下ろしてくださった。


「コンラッド、アリシアが怪我をしてないか見てくれ」

「先生、度々すみません」

「いえいえ、これが私のお仕事ですから。どうかお気になさらずに」


 この診察台に来るのは何度目だろうかと、思わず苦笑いがもれる。コンラッド先生はその度に優しく診察してくださるから、感謝しかないわね。

 フォルネウス様が助けて下さったし、別にどこも怪我なんてしてない。案の定、診察結果もどこも異常無しだった。

 けれど診察結果のある部分を見たコンラッド先生が


「若様! これをご覧ください!」


 と叫ばれたせいで、何かあったのかと不安になった。


「これは……すごいな! アリシア、また魔力量が上がっている。それに水属性と聖属性適正も以前より格段に上がっている」

「ソフィー様のお手伝いで、以前より魔法を使う機会が増えたおかげでしょうか?」


 古遺物や骨董品の修理を最近よく手伝っていたから、魔法をよく使っていた。


「そうですね、適正は魔法を使うことで少しずつ上がっていきます。魔力量に関しては、栄養価の高い食事を摂ることで少しずつ上昇します。しかしアリシア様のこの魔力量の上がりはきっと……」


 何故かコンラッド先生は、私とフォルネウス様を交互に見てにっこりと微笑まれた。


「若様とアリシア様の、お互いを想う愛情の深さ故でしょうね。愛に勝る栄養はございませんし、いやー若いっていいですね、羨ましい限りです!」


 そしてとんでもない爆弾を落としてくれた。


「ああ、これで我がハイグランド帝国は安泰です! 若様とアリシア様の間に生まれた子はきっと、類いまれなる魔法の使い手と成られることでしょう! そういえば、挙式はいつ頃のご予定で?」

「挙式……?」

「フォルネウス様とアリシアの様の結婚式ですよ。全国民が今か今かと心待ちにしておりますよ!」


 本人の前で突然何てことを仰るの!?

 動揺する私を抱きかかえて、「あーゴホン! 用事を思い出した! 行くぞ、アリシア!」と、フォルネウス様は窓から脱走された。


 突然感じた浮遊感に、フォルネウス様が空を飛べると分かっていても、思わず落ちないようにぎゅっとしがみついてしまった。

 フォルネウス様からふわっと香る落ち着いた甘いホワイトムスクの香りに、頭がのぼせたようにクラクラする。


「と、突然、すまない。コンラッドの腕は確かなのだが、一度ハイテンションになると話が長くてだな、その……アリシアに不快な思いをさせるのではないかと思わず……」

「い、いえ! 空を飛ぶのは楽しいので、それは全然構わないのですが……お忙しいのに医務室まで付き添ってもらって申し訳ありません。それに、その……私はフォルネウス様の隣に居るのは相応しくありませんので、ご不快な思いをさせてしまって……」

「不快だなんて、そんな事を思った事は一度もない! それにここは愛を重んじる国だ。一人一人を尊重し大切にしている。だからそこまで身分を気にする必要はないのだよ」


 真っ直ぐに注がれる視線とその言葉に、思わず胸がトクンと高鳴る。


「ただ、その……アリシアには思いを寄せた相手がいるのに、国民が余計な事を言って負担をかけてしまい、本当にすまないと思っている」


 悲しそうに目を伏せるフォルネウス様に、私は明るく言い切った。


「フレディお兄ちゃんの事は、もういいんです! 姉と幸せになって欲しいって、今では心からそう願っていますので」

「そ、そうなのか……?」

「はい。それより今は、フォルネウス様の夢を叶えるために尽力したいのです! 折角助けて頂いたこの命、大切にしながら出来る事を頑張ろうと思っています」


 吸血鬼と人間が本当の意味で共存していける未来のために。これ以上悲しみの連鎖を生まないためにも、やれることをしたかった。


「でも皆さん、どうしてそのように勘違いされているのでしょう?」


 銅像の件もそうだが、フォルネウス様の気持ちを無視して勝手に伴侶に祭り上げるのはよくない。いくら恩人だからってそれだけで未来の皇太子妃になんて、話が飛躍しすぎている。


「それは、その……」


 どこか歯切れの悪いフォルネウス様は、緊張した面持ちで言葉を紡がれた。


「アリシア、その理由について話しておきたい事があるのだが……少し時間をもらえないだろうか?」

「はい、勿論です!」

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