28、アリシアの選択
お姉ちゃん、フレディお兄ちゃん、お母さん、ジルにまた会えるかもしれない。
それは嬉しい事だけど……でも……何故だろう。すごく寂しいと思ってしまった。
もし人間に戻ったら、もうフォルネウス様にもソフィー様にも会えない。メルムにも、リフィエル様にも、ガブリエル様にも、シオン様にも。
それだけじゃない。ここで知り合った全ての人達に、もう会えなくなってしまう。折角、夢を見つけたのに。こんな私でも、お役に立てる場所を見つけたのに。
吸血鬼と人間が本当の意味で共存していける未来。それを実現するために皆頑張ってる。
このまま何もかも忘れて、元の生活になんて戻りたくない!
気が付くと、瞳から涙がこぼれ落ちていた。
「す、すまない! 不確かな事で、悪戯に期待を持たせるべきではなかったな……」
「ごめんね、シアちゃん。望んで吸血鬼なったんじゃないものね。そうだよね、戻れるなら戻りたいよね……」
「いえ、違うんです! そうではなくて……」
きちんと説明しないといけないのに、二人の優しさに触れて涙が止まらなくなってしまった。私の気持ちを汲んでそう仰ってくれるフォルネウス様とソフィー様が、温かすぎる。
そしてそんな温かい人達に囲まれたこの場所がとても居心地が良くて、私の大好きな居場所になっていた。
「安心してくれ、アリシア。回帰魔法について、詳しく調べておく」
「私も、古い文献を漁ってみるわ! 何か有意義な情報が眠ってるかもしれないし、見つけたらすぐに教えてあげるわ!」
このままだと誤解されてしまう。私は――
「……り、たく……ない……」
「アリシア?」
「人間に、戻りたくない……です。私は、ここに居たい。皆さんの、フォルネウス様の傍に、居たいん、です……」
必死に涙を拭っていると、フォルネウス様の息を呑む音が聞こえた。
「……っ!」
フォルネウス様は私の頭を優しく撫でると、目線の高さまで腰を曲げて話しかけてくれた。
「ありがとう、アリシア。君が居てくれるから、俺は頑張れるんだ。君が望む限り、俺は君の傍に居ると約束しよう。だからどうか、泣かないでくれ」
「ここに居ても、良いのですか? 私が居ても、ご迷惑じゃありませんか?」
「迷惑だなんて一度も思ったことないよ。むしろ、ずっと傍にいてほしいくらいだ。アリシアのおかげで仕事も捗るようになったし、何より君は俺にとって、とても大切な存在だから」
フォルネウス様のその言葉で胸がいっぱいになった。
「ありがとう、ございます。お役に立てるよう頑張ります」
「アリシア、よかったらこれを受け取ってくれないか? お守りとして、君に渡しておきたいんだ」
フォルネウス様は胸ポケットから小さなアクセサリーケースを取り出された。中に入っていたのは、美しいアメジストのついたお洒落なチョーカーだった。
「フォルネウス様の瞳の色と同じで、すごく綺麗です。私が頂いても、よろしいのですか?」
城下をお散歩した時に、メルムが言っていた。チョーカーは男性から大切な女性へ、お守りとして贈る物だって。
「これはアリシアに持っていて欲しいんだ。本当はもっと早く渡したかったのだが、中々渡す勇気が持てなくて……その、受け取ってもらえるだろうか?」
恥ずかしそうに視線をさまよわせた後、窺うようにこちらをご覧になったフォルネウス様の頬は赤く染まっていた。
「嬉しいです! 大切にします!」
「喜んでもらえてよかった。早速、つけてもいいか?」
「はい、お願いします」
邪魔にならないように髪をサイドに寄せると、フォルネウス様がチョーカーを付けて下さった。
「ふふふ、シアちゃんよくお似合いだわ」
「ソフィー様、ありがとうございます。何だか魔力が研ぎ澄まされていくような感覚がします」
「魔法で加工をしているからな。護身効果にプラスして、魔力強化と持続回復の能力を付与している」
このチョーカーが、すごく高級なものなんだってことがよく分かった。
「そんなに貴重なもの、本当に頂いてもよかったんですか?!」
「逆に足りないくらいだ。アリシアの安全を守るために、今度は何を加工して贈ろうか……」
「お、お気持ちだけで結構です!」
フォルネウス様はまだ納得いかないといった感じだったから、丁重にお断りしておいた。
チョーカーだけでも身に余る光栄なのに、そんなにもらえないよ!
それから残りの壊れている骨董品の修理をした。
「シアちゃん、身体は大丈夫? 魔力足りなくなったりしてなーい? お腹空いたらフォルネウス食べていいからね」
「俺を食料みたいに言わないで下さい!」
「あら、違うの?」
「違いません」
結局最後までフォルネウス様も付き合って下さった。回帰魔法については詳しく調べて下さるそうで、何か分かったら教えてくれるそうだ。
おまけ【母と息子の攻防戦】
「自分の誕生石のチョーカーを贈るなんて、やるじゃない! ふふふ、これでシアちゃんには誰も手を出せないわね。でも貴方、もしかしてずっと持ち歩いていたの?」
「ええ、まぁ。渡せるチャンスを窺ってましたから」
「ちなみにいつから?」
「それは勿論、アリシアがハイグランド帝国に来た時からですよ」
「……お母様は少し安心しました。寝ているシアちゃんに、貴方が勝手にそれを付けなかった事に」
「突然知らない場所に連れてこられて、アリシアにはただでさえ負担がかかっています。そこで身分の高い俺が無理に関係を詰めてきたら、退路を断たれてしまったようで怖いと思いませんか?」
「確かにそうね。フォルネウス、貴方が優しい子に育ってくれてよかったわ。この一年何の進展もしないから、ただのヘタレだと思っていたわ、ごめんなさいね」
「ヘタレ……ゴホン! それにアリシアには思いを寄せた人が居ます。少しずつこちらを振り向いてくれるように、時間をかける必要があるのです」
「ちなみに、どれくらいかけるつもりなの?」
「それは勿論、何十年でも何百年でも、アリシアの心が癒えるまで待つつもりです」
「やっぱり貴方、ヘタレだわ」
「ぐっ……」
「いい、フォルネウス。女性の恋愛は上書き保存! 過去の思い出にずるずる引きずられるのは男性だけで、女性は前に進むのも早いのよ」
「で、ですが……」
「もう十分、信頼関係は築けているじゃないの。故郷に帰る事よりも、ここに居たい、貴方の傍に居たいってシアちゃんは言ってくれたでしょ? 後は貴方が頑張る番よ。堂々と傍に居れる権利を与えられるのはフォルネウス、貴方だけでしょう」
「つ、つまり、この思いを打ち明けろと?!」
「それ以外に何があるのよ」
「アリシアに、引かれたりしないでしょうか……」
「安心しなさい、当たって砕けた骨はきちんと拾ってあげるから。失敗したら一緒に働くのは気まずいでしょう? シアちゃんは私の元にスカウトするから、何も心配することはないのよ!」
「母上……」
「なーに?」
「失敗を望んでおいでですか?」
「ふふふ、そんな事はないわよ~かわいい息子の幸せを、母はいつも願っていますよ~?」
「アリシアは、絶対に渡しませんから!」
勝者、ソフィア
理由、どっちに転んでも美味しい思いをするから










