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ヴァンパイア皇子の最愛  作者: 花宵
第三章 借りすぎた恩を返したい!

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25、その気持ち、痛いほど分かります!

「はい、構いませんが……」


 一体何の用なのだろう?


「ありがとうございます! 説明をするより実際に見てもらった方がはやいと思いますので、付いてきてもらえませんか?」

「分かりました」


 心なしか早足のロージーさんに案内されてついたのは、皇城の東側にある離宮。皇帝ディートリヒ様と皇妃ソフィア様の住む屋敷だった。


「ロージー! アリシア様は?!」

「来てくださったわ!」


 エントランスに入るやいなや、一人の侍女か泣きついてきた。


「アリシア様、どうかお助け下さい!」


 とても切羽詰まった様子で懇願してくる彼女の理由は、目の前の光景を見てすぐに分かった。

 正面に飾ってあったであろうクリスタルで作られた鳥の彫刻像が倒れており、見事に翼や首の部分がポッキリと折れていたのだ。


「掃除中に誤ってぶつかってしまって、皇妃様がとても気に入っておられる彫刻像を壊してしまったのです。お礼は何でも致します! なのでどうか、直して頂けませんでしょうか?」

「アリシア様、どうか私からもお願いします! このままではシーラは首になってしまいます……っ。彼女には病気の母とまだ幼い妹がいて、職を失ってしまうと困るのです。どうか、お願いします!」


 魔力に目覚めた頃、高級家具を壊しまくった私は、彼女達の気持ちが痛い程分かっていた。だからこそ、涙目で懇願してくるロージーさんとシーラさんの力になってあげたかった。


「お任せ下さい。必ず直してみせます!」


 彫刻像に手を添えて、魔力を集中させる。


 お願い、どうか綺麗に直って!


 そう強く念じながら「ヒール」と唱えた。すると、ポッキリと折れていた鳥の彫刻像が見事に元通りになった。


「すごい! 本当に奇跡みたいです!」

「アリシア様、ありがとうございます!」

「お役に立てたようで、よかったです」


 何とか元通りに出来てほっと一安心していると


「これは想像以上だわ! 本当に素晴らしい!」


 上空から称賛する声が聞こえてきた。

 声のした方を見ると、エントランスの二階からこちらを見て微笑んでいる女性の姿があった。


「ソフィア様?!」

「はっ、大変申し訳ございません!」


 優雅に階段を下りてきたソフィア様に、ロージーさんとシーラさんは深く頭を下げて謝罪の言葉を口にした。


「顔を上げてちょうだい、ロージー、シーラ。あの像を壊したの、実は私なのよ」

「……えっ?!」

「……はいっ?!」


 その言葉に、ロージーさんとシーラさんは驚きで固まってしまった。


「驚かせてごめんなさいね。でもこうでもしないと、アリシアちゃんに会えないと思ったのよ。二人とも、連れてきてくれてありがとう。お茶の準備をお願いできるかしら? 場所はそうね、庭園にしましょう」

「はい、かしこまりました!」

「すぐにお持ち致します!」


 思わぬ所で名前を呼ばれた私は、我に返って慌てて挨拶をする。


「お初にお目にかかります、ソフィア皇妃陛下。私はフォルネウス皇太子殿下の元で補佐をさせて頂いているアリシアと申します」


 メルムに習ったマナーを思い出し、カーテシーのポーズをとる。


「あら、そんなに堅苦しくしなくていいのよ。私の事は気楽にソフィーと呼んでちょうだい」

「ソフィー様、で……よろしいのですか?」

「ふふふ、何ならお母様でもいいのよ? だって息子の連れてきた大切な女の子だもの。私にとっては娘同前よ」

「い、いえ! それは……」


 あまりにも恐れ多すぎる。

 目の前で無邪気に笑っているソフィア様は、無垢な少女のような容姿をされていて、皇妃陛下だと言われなければとてもそうは見えなかった。青みを帯びたストレートの長い銀髪はサラサラと肩から零れ落ち、フォルネウス様と同じアメジストを思わせる美しい瞳は、ぱっちりと大きな二重をされている。

 吸血鬼は長寿であるため見た目では年齢が分かりにくく、フォルネウス様と並んでも兄妹に見えてもおかしくない。


「立ち話もなんだし、少しお茶でもどうかしら? アリシアちゃんとお話したかったのよ!」

「は、はい! 私でよければ……」


 こうして何故か、ソフィア様と庭園でティータイムを共にする事になってしまった。

 フォルネウス様のお母様なのよね。

 失礼がないようにしなければ。


 緊張した足取りでソフィア様の後をついて歩く。

 床には赤を基調とした上品な光沢のある絨毯が敷かれ、豪華な調度品や絵画の飾られた回廊を抜けた先には、美しい光景が広がっていた。

 手入れの行き届いた月光花の咲き誇る幻想的な庭園に、思わず感嘆のため息が漏れる。


「とても美しい庭園ですね!」

「ふふふ、気に入ってもらえてよかったわ。アリシアちゃんならいつでも遊びに来てくれていいのよ?」

「はい、ありがとうございます!」

「お礼を言わないといけないのは、私の方だわ。彫刻像を直してくれてありがとう。そして、好奇心旺盛ですぐどこかに行っちゃう息子を助けてくれてありがとう」

「いえ、私は当然の事をしたまでで!」

「フォルネウスがリグレット王国で行方不明になったって聞いた時は、本当に生きた心地がしなかったわ。貴方が居なかったら、息子はどうなってたか分からない。だからずっとお礼が言いたかったのよ。それなのに……」


 そこで一息ついたソフィア様は、ぐっと拳に力をいれると、貯まっていた鬱憤を晴らすかのように、一気に感情をぶちまけた。


「あの子ったら、『母上は余計な事を言ってアリシアを困らせるので、絶対に会いに来ないで下さい』って言うのよ! 酷いと思わない? 困らせるって何なのよ、全く! だからいつも、遠目に見る事しか出来なかったの。しかも『時が来れば、紹介しますから』って、あの子のペースに合わせてたら、何百年後になるかも分からないわ!」

「そ、そんな事があったのですね……」


 裏でそんなやり取りがなされていたとは夢にも思わなかった私は、思わず苦笑いを漏らす。


「今までお世話になっておきながら、挨拶にも伺わず申し訳ありませんでした」

「顔を上げてちょうだい、アリシアちゃんのせいじゃないわ! 全ては完全に接触を断たせていたフォルネウスのせいよ! だからちょっとだけ、強行策に出ちゃった……驚かせてごめんなさいね」

「いえいえ、私もソフィー様とこうしてお話出来る機会を頂けてよかったです」

「そう言ってもらえて、安心したわ。私もね、元は人間だったのよ。だから初めてここに来た時は、色々文化が違いすぎてすごく戸惑ったわ。だから、何か困った事があったら遠慮せずに私を頼ってちょうだいね」

「はい、ありがとうございます!」


 気さくに接してくれるソフィー様のおかげで緊張も和らいだ。元は人間だったという共通点もあって、打ち解けるのにそこまで時間はかからなかった。


 それから私は、こうしてソフィー様と定期的にティータイムを共にするようになった。


 ソフィー様がまだ人間だった頃、考古学者として世界を旅して経験した面白い話や、フォルネウス様の小さい頃の話、吸血鬼として過ごすようになって感じたカルチャーショックなど、その話題は尽きることなく、私はソフィー様とのティータイムをとても楽しんでいた。


 そうして一ヶ月が過ぎた頃――


「母上、報告が…………あ、アリシア?! 何故ここに?!」


 振り返ると、そこには驚いた顔をしたフォルネウス様がいらっしゃった。秘密裏に通っていた事がばれてしまった。ど、どうしよう。

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