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ヴァンパイア皇子の最愛  作者: 花宵
第三章 借りすぎた恩を返したい!

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24、英雄と呼ばれた蒼の吸血鬼パメラ

 リグレット王国の地図を眺めながら眉間に皺を寄せるフォルネウス様に、私は祭祀や神事を担う鳳凰院から預かった書類を渡した。


「建国祭の最終予定表が完成したそうなので、確認をお願いします」

「ああ、分かった。そこに置いておいてくれ」


 机の上に積み上げられた確認書類の山が崩れないように、慎重に置く。どうしても最終確認としてフォルネウス様が目を通さなければならない書類だけは、私も捌くことは出来ない。指示通りフォルネウス様が見やすい場所に置いておくしかなかった。


 まだ机の上だけで済んでいる書類の山。最初に来た頃の確認書類と提出書類が、ごちゃ混ぜに積まれ、天井まで埋め尽くさんとする書類の山に比べれば可愛いものだけど、危険信号だわ。


「なにかお悩みですか?」


 地図に印をつけながら、時折考え込むように顎に手をやるフォルネウス様に尋ねた。


「最近リグレット王国で獣の凶暴化が問題になっているのだ。おそらく蒼の吸血鬼の眷属と化した獣なのだろうが、範囲があまりにも広くてな」


 地図を見ると、リグレット王国の王都エルシークを囲むようにして東西南北に点々と印がつけてある。


 吸血鬼は眷属化という異種族に自分の血を与えて契約を結び、他者を好きに操る力を持っている。それは倫理に反するという理由で、ハイグランド帝国では絶対に使ってはいけない禁忌とされている。けれど向こうでは、当たり前のように使われているのが現状だった。

 眷属化した者を操るには、魔力の届く比較的近い距離にいなければならない。だからもし眷属化された者が居れば、近くに操っている吸血鬼も潜んでいるという事になる。このように広範囲に眷属と化した獣が居るという事は……


「操っている者が複数いるのでしょうか?」

「普通ならそう考えるのが妥当だろうが、王都を中心に綺麗に弧を描くように獣が出没しているのがひっかかるのだ。最悪、女帝が王都に潜伏して操っている可能性もある」

「女帝が、そのような事をするのでしょうか……」


 思っていた事が、思わず口に出てしまった。

 蒼の吸血鬼の歴史を学んだ時、疑問に思ったことがあった。それは何故、一番凶悪だと言われていた皇帝アザゼルを倒した女帝パメラが、その後行方をくらませたのか。もしかすると彼女は、本来なら争いを好まない者だったのではないかと私は考えていた。


 人間として生きてきた時、吸血鬼とは恐ろしい生き物だという話の悪役は決まってその皇帝アザゼルの存在だった。そんなアザゼルを裏切り倒したパメラという蒼の吸血鬼は、リグレット王国の辺境部では英雄扱いされている本もあるくらい密かに人気のある存在だったのも影響している。


「シオンが交戦した相手は、相当な魔法の使い手だったようなのだ。女帝か、あるいはそれに匹敵する力の持ち主か。詳しい事はまだ分かっていないのだ」

「フォルネウス様。蒼の吸血鬼の現皇帝は、女帝と呼ばれるパメラさんなのですよね?」

「ああ。彼女が姿を消して約百年……各々の意思で好き勝手に暴れる蒼の吸血鬼達からは、それほど強い魔力は感じられないからな。彼女より強い力を持つ者は向こうにはおらぬだろう」

「私の住んでいたリグレット王国の辺境部では、パメラさんは英雄として描かれている絵本もありました。吸血鬼から人々を守っていたとも言われています。彼女は本来、争いを好まない方だったのではないでしょうか?」

「俺は直接対峙した事がないから正直な所は分からない。だが資料を見る限り、前皇帝のアザゼルが倒された後、リグレット王国で被害が極端に減ったのも事実だ。アリシアの言うように、そこまで好戦的ではないのかもしれないな」

「難しいとは思いますが、もしパメラさんと和平を結べたら……」

「真の平和への第一歩、となるだろうな」


 一つの可能性が見出せた事は喜ばしいことだけど、それを実現するためにどうすれば良いのか具体策までは思い付かない。


「もし女帝と対峙した時には、交渉も頭にいれておこう」

「はい。ですが一番優先すべき事は、フォルネウス様の身の安全です。どうかご無理だけは、なさらないで下さい」

「ああ、大丈夫だ。何があっても、必ずアリシアの元に帰ってくると、約束しよう」


 ただ待つことしか出来ない自分が歯がゆかった。共について行けたなら、回復魔法でサポートが出来るのにと考えて、あることを思い付く。


「フォルネウス様、私にも討伐隊の訓練を受けさせてもらえないでしょうか? 治癒隊として、後方で回復支援を出来るようになりたいのです」

「それはだめだ! 確かにアリシアの回復魔法は大変優れているが、戦場では不測の事態も起こり得るしあまりにも危険すぎる! それに日光に耐性がなければ、あちらでは魔法の扱いも難しいだろうし、いくら訓練をしようが一朝一夕で身に付くものでもないのだ」

「そう、ですよね……」

「すまない、こればっかりはアリシアの頼みでも聞けない。どうか分かって欲しい」

「いえ、我が儘を言った私が悪いんです。フォルネウス様が安心してお帰りになれるように、こちらで出来る事を精一杯頑張りますね!」

「ああ、任せたぞ」


 いくら回復魔法が使えるとしても、騎士として戦場へ行く以上、自身を守れる力もないとやっていけない。攻撃魔法に適正のない私では、どう訓練を積んだとしてもそれを満たすのは難しかった。


 適材適所って言葉があるものね……それならば!


 気持ちを切り替えて、自分に出来る事を探すことにした。

 少しずつ仕事には慣れてきたものの、まだまだ知らない事も多い。リフィエル様に相談して、より深くハイグランド帝国について学べる本を紹介してもらい読むようになった。


 そうして仕事の後に、図書館によって帰るのが日課になりかけた頃──


「あの、アリシア様!」


 自室へ戻るのに通る中庭で、声をかけられた。振り返ると、赤を基調とした給仕服を身に纏った女性が立っていた。

 色によって仕える主が分かるってメルムが言っていたのを思い出す。皇太子であるフォルネウス様に仕えるメルムは、紺色を基調とした給仕服を着ている。

 赤色は確か……皇妃様に仕える侍女だったはず。


「不躾に声をかけてしまい申し訳ありません! 私はソフィア様にお仕えしているロージーと申します。どうしてもアリシア様にお願いがあって参りました。どうか少しだけ、お時間を頂けないでしょうか?」

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