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ヴァンパイア皇子の最愛  作者: 花宵
第二章 目指せ、一人前の吸血鬼!

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20/67

20、真夜中の空中散歩

「帰ろうか、アリシア」

「は、はい!」


 思わず差し出された手を取ってしまったけれど、よかったのだろうか。いやいやあそこで断るのも失礼だし、これでよかったんだよね。フォルネウス様に恥をかかせるわけにはいかないわ!


 そんなこんなでフォルネウス様にエスコートされて、賑やかな露店街を抜けて、帰りの馬車までの道のりを歩いていた。

 石畳で綺麗に舗装された道は高低差が少なく歩きやすい。等間隔に設置された街灯や建物から漏れてくる光のおかげで、夜でもそこまで暗さを感じなかった。

 よく整備された綺麗な街は、夜は暗すぎてランプの光だけを頼りに歩くしかない私の故郷とは大違いだった。


 そんな国を統治されている皇太子様とこうして並んで歩くなんて、やはり恐れ多すぎる。今まで城から出たことがなくて気付かなかったけど、城で保護してもらっているのでさえ、破格の待遇なんじゃなかろうかと思わずにはいられない。


「あの、フォルネウス様。先程は助けて頂き、ありがとうございました」

「怖い思いをさせたな。すまない、怪我はないか?」

「はい。メルムが守ってくれたので大丈夫ですよ」

「それならよかった。城下は、どうだった?」

「とても楽しかったです。お洒落な石造りの街並みはすごく綺麗で、綺麗にライトアップされた露店街はお祭りみたいに賑やかで、行き交う人々は皆楽しそうで……ですがあの銅像には、とても驚かされました」

「あれはなんと言うか……本当に、すまない……周りが勝手に騒ぎ立てて、作ってしまったのだ。たとえ銅像でも、アリシアを傷付ける事は俺には出来なくて、不快な思いをさせて本当にすまないと思っている」

「さっきからフォルネウス様、謝ってばかりです」

「そうか? それはすまない……っ」


 フォルネウス様は自身の失言に気付かれたようで、慌てて口元を隠された。


「確かに、そうだな」


 しまったと、窺うように送られてくる視線が何だかおかしくて、思わず小さな笑いがもれた。それにつられてフォルネウス様からも笑みがこぼれる。

 さっきはとても遠くに感じたフォルネウス様だけど、こうして話をしたり、共に笑いあっていると、不思議とあまり距離感を感じない。近くに感じる今だからこそ、私はずっと心のうちに閉まっていたものを伝えたいと思った。


「フォルネウス様」


 人通りの少ない歩道で、足を止めた。それによって、同じ歩調で歩いていたフォルネウス様の足も自然と止まる。


「恩返しはもう、これで終わりにしませんか? 貴方は私に助けられて、私も貴方にたくさん助けて頂きました。だからこれ以上、私に縛られなくていいんですよ」

「アリシア、もしかして……俺の血が不味くなったのか? 毎日君の元へ訪れるのは、実は迷惑だったのか?」


 顔を青ざめさせながら尋ねてくるフォルネウス様に、慌てて答える。


「違います! フォルネウス様の血はいつでも美味しいですよ。そうではなくてですね、色々よくして頂いて、おかげさまでこちらの生活にもかなり慣れました。本当にありがとうございます」


 まずは感謝の気持ちをしっかりと伝え、深く頭を下げた。そうしてワンクッションおいてから、私は自分の気持ちを丁寧に述べた。


「ですが元々、私は平民です。このまま善意に甘えてしまって、身の丈に合わない生活に慣れきって、自堕落になってしまうのが怖いのです。だからこれからは自立して、地に足をしっかりつけて、生活していきたいと思っております」


 恐る恐るフォルネウス様の様子を窺うと、何かを考えているようで難しい顔をされている。


「……アリシアの気持ちは分かった。それならば、俺の仕事を手伝ってくれないか?」

「フォルネウス様のお仕事を、ですか?」

「中々腰を落ち着けて書類仕事に勤しむ暇がなくてだな、かなりたまっているのだ。そろそろ限界にきていたので、補佐してくれる者を新たに探さねばならないと思っていた。勤務場所は主に俺の執務室となる。給料は一ヶ月五十万ペールだそう。部屋は継続して使ってくれ。身の回りの世話をしてくれる侍女もつけよう。そうすれば、仕事に専念出来るであろう? 勿論、食事付きだ! 好きな時に俺の血を飲んで構わない」


 早口で捲し立てるように放たれたフォルネウス様の言葉の意味を、もう一度頭の中でゆっくりと精査して、私は口を開いた。


「フォルネウス様……」

「な、何だ?」

「私に、甘すぎませんか?」


 露店街を回って、少なからずこの国での一般的な物価を理解した。フォルネウス様に提示されたのは、破格の勤務条件だったのは言うまでもない。求人募集にでてた条件の約三倍くらいの給料をもらえるなんて。


「そ、そんな事はないぞ! 仕事はかなり激務だ。その上、鬼のように恐い上司と一緒だ、心労もたまる。それくらいないと、務まらない仕事なのだ」


 話だけ聞けば、確かに破格の勤務条件の裏に隠されたブラックな部分が少しだけ理解できた。けれどそれを我慢しても、かなりの好条件の求人に違いない。募集をかければすぐにでも人は来るだろう。


「どうして、私に声をかけて下さったのですか? そんなに好条件なら、すぐにでも私より優秀な方が集まると思うのですが……」

「機密事項を扱うこの仕事を任せるにあたり、俺が一番求めている条件は、信頼できる者だ。その条件を誰よりも満たす君が今、仕事を探そうとしているのだ。スカウトしない方が無理だとは思わないか? それに、どうも俺の周りには、脳が筋肉で出来ていると思われる者が多くてな……頼んでも細やかな仕事が合わないらしく、長続きしないのだ」


 深くため息をつくフォルネウス様の姿に、どうやら困っているのは本当のように感じられる。それに加え、信頼できる者にしか任せられない仕事を提案された事が、素直に嬉しかった。そこまで聞いて、私に悩む理由などなかった。


「フォルネウス様。私でよければ是非、お手伝いさせて下さい」

「本当に良いのか?」

「誠心誠意、仕えさせて頂きます」

「ありがとう、アリシア」


 優しく微笑んでくださったフォルネウス様の後ろで、流れ星が落ちた。それも一つではない。いくつもの星が、空を駆けるように流れていた。その綺麗な光景に思わず視線を奪われていると


「空に、何かあるのか?」


 フォルネウス様が不思議そうに尋ねてこられた。


「話の途中にすみません。見てください、フォルネウス様! 流れ星ですよ!」

「どこだ?」


 フォルネウス様が振り返った時にはすでに、流れ星は落ちてしまっていた。


「ほら、あちらにも! あ、今度は向こうです!」


 流れ星は次々と現れるものの、フォルネウス様は一つも見ることが出来なかったようでキョロキョロしておられる。


「俺は、流れ星に嫌われているのだろうか……」

「そんな事ありませんよ。次はもっと早く声をかけますから……あっ、向こうです!」

「こっちか!」


 しかしフォルネウス様が振り向いた時にはすでに流れ星の姿はなかった。


「くっ……こうなったら! アリシア、高い所は平気か?」

「はい、大丈夫ですよ」

「なら折角だ。もう少し近くで、その姿を眺めてやろうではないか!」


 フォルネウス様は私を横抱きにすると、宙に浮いた。感じた事のない高さと重力に驚き、咄嗟にフォルネウス様の服を掴んでしまった。


「ここまでくれば、見れるだろう。アリシア、次はどこだ?」

「えっと、その、あの……」

「どうした?」


 高さに対するドキドキなのか、フォルネウス様に横抱きにされて感じるドキドキなのか、至近距離で顔を覗きこまれている恥ずかしさからくるドキドキなのか、私には分からなくなっていた。

 視線を泳がせていると、キラリと光って流れ落ちる星が見える。声をかけなければと思う間に、流れ星は落ちてしまった。

 すると何故か、フォルネウス様が真剣な顔でこちらに顔を近づけてこられた。私の緊張がピークに達した時――


「アリシア、今君の瞳に映ったぞ!」


 流れ星をやっと見れたと、フォルネウス様は嬉しそうに顔を綻ばせておられる。変に自分だけ意識してしまっているのが、無性に恥ずかしかった。


「よし、次はあの星を追いかけるぞ。アリシア、しっかり掴まっておいてくれ」

「え、あ、はい?!」


 私を抱えたまま、フォルネウス様は流れ星を追いかける。落ちないように、慌てて私はフォルネウス様の首もとに手を回した。 


「ははっ! 楽しいな! 一つの星の行く末を見届けるなど、中々できない体験だ! しかしあの星はどこから来ているのだろうな?」


 フォルネウス様って、とても好奇心旺盛な方なのね。


 流れ星の考察をしているその姿は、無邪気な少年のようだった。その楽しそうな横顔を見ていると、こちらまで楽しくなってくるから不思議だ。


 その後、我に返ったフォルネウス様が、恥ずかしさのあまり顔を真っ赤に染められたのは、近い未来の出来事だった。

 そんなフォルネウス様に感化されて、私の顔もきっと林檎のように赤くなっていたに違いない。


「楽しくてつい、調子に乗りすぎてしまった。空を飛ぶのは、怖くなかったか?」

「初めてでとても楽しかったです」

「そうか、それならよかった」

「それよりもフォルネウス様、腕は大丈夫ですか? 私、重かったですよね……」


 ずっと抱えて飛んでいらしたフォルネウス様の腕の方が心配になった。以前より筋肉も増えたし、私の体重は重くなっているはずだ。


「これくらいどうってことない。体は鍛えているからな。それよりアリシアは、少し軽すぎやしないだろうか。もっと遠慮せずに俺の血を飲んでくれ! いいな?」


 こっちが心配してたのに、逆に心配されてしまった。しかも、軽すぎるだと?! 地味にダメージを受けた。


「やっぱりまだ、足りないんですね……」

「ん? 何がだ?」

「筋肉です! 以前より少しは筋肉ついたと思うのですが、フォルネウス様に比べるとまだまだです。もっと精進します」

「いや、そういう意味で言ったわけではないぞ!?」

「だってフォルネウス様にお腹いっぱい食べてもらう計画が、このままでは成功しません! ガブリエル様に相談して、体改造計画パートⅡを実行します! 送って頂きありがとうございました。それでは、ちょっと行ってきます!」


 ガブリエル様は確か、この時間は騎士団の方にいらっしゃるわね。訓練にちょうどいい、走っていこう!


「その必要はない! アリシア、俺は今のままで充分満足している!」


 あれ、何でフォルネウス様追いかけて来られるの? 何か仰られているようだけど、よく聞こえない。きっと訓練に付き合ってくださっているのね。それなら、追い付かれないように本気で走ります!


「だからどうか、待ってくれー!」


 私、頑張りますよ?

 だってフォルネウス様に、お腹いっぱい味わって欲しいから。

これにて第ニ章完結となります。


脳筋じゃない補佐を求めていたはずが、アリシアも実は脳筋要素があった事に焦る若様。


すぐにアリシアを捕まえる事は可能ですが、自分のために頑張ろうとしてくれて嬉しいという感情と、ガブリエルのようにムキムキになって欲しくないという感情がひしめき合い、結局騎士団の訓練場まで二人はこの後、追いかけっこを楽しんだ事でしょう(笑)


第三章では、借りすぎた恩を返すためにアリシアが頑張るお話となります。アリシアの魔法の謎が少し明かされたり、終盤では二人の関係にも変化が生じ、やっと本当の物語が動きだします!


引き続き楽しんで頂けると幸いです。

ブクマや評価が少しずつ増えてきて嬉しい限りです。応援してくださる読者の皆様には本当に感謝です、ありがとうございます!

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