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ヴァンパイア皇子の最愛  作者: 花宵
第二章 目指せ、一人前の吸血鬼!
12/67

12、蒼の吸血鬼討伐隊

「こらー待てー! シオン!」

「隊長! 何でいきなり大剣持って追いかけてくるんですか!」


 帝立図書館の外に併設されたテラスで本を読んでいると、中庭の方から賑やかな声が聞こえてきた。


「それはもちろん、逃げる訓練だからだ! いいか、俺を強敵だと思って全力で逃げろ!」

「強敵ならむしろ、僕は戦いたいですね!」

「いいぞ、かかってこい! ただし、周りには一切傷を付けるなよ! ここをリグレット王国だと思え! ギャラリーは助けを待つ人間たちだ!」

「心得てますよ! 僕だって若様に選んでもらった蒼の吸血鬼討伐隊、通称エリート部隊の一員なんですからね!」

「自信を持つのは結構だが、その自惚れが、現場では命取りになるのだぞ!」


 中庭に出来ている人だかりを見て、メルムに尋ねる。


「あそこで何があってるの?」

「騎士達の模擬戦ですね。あの二人、しょっちゅう外でドンパチやってるので気にしなくて大丈夫ですよ。周囲にいる方々を助けを求める人間達に見立てて戦う練習をしてるらしいのです」

「すごい、楽しそう! メルム、見に行ってもいいかな?」

「姫様、戦いに興味がおありですか?」

「亡くなった私のお父さん、騎士だったんだ。小さい頃に見せてもらった剣技がとても格好よくて、剣を振るうその背中が大好きだったの」

「そうだったのですね。それなら是非、参りましょう!」


 メルムと一緒に、中庭へと移動する。


「隊長、いけー!」

「シオン、期待してるぞー!」

「大剣を構えた大柄の体躯の金髪の方が、帝国騎士団副団長兼第一部隊長のガブリエル・キルスコフ様です。そして対峙している茶髪の方が若くして銀騎士の異名を得た、話題の新人騎士シオン・エルツ様です」


 華麗な後方回転でガブリエル様の一撃をかわしたシオン様は、輝きのある茶色の剣をどこからともなく取り出して構える。


「ねぇ、メルム。シオン様の剣、どこから出てきたの?」


 気のせいじゃなければ、何もない所から作り出したように見えたんだけど。


「シオン様は土魔法の使い手ですので、土の魔剣をその場で作り出す事が出来るのですよ」

「魔法の剣?!」

「ふふふ、姫様も魔力に目覚めれば出来るようになるかもしれませんね」

「私が魔法の剣を作れるようになるの?!」

「得手不得手がありますので絶対とは言えませんが、可能性はゼロではないと思います!」


 魔法で剣が作り出せるなんて、格好いい!

 でもそれより今は、二人の試合を見届けよう。


 まだ人間だった頃、フレディお兄ちゃんが所属していた自警団の訓練場を見学させてもらった時もすごい迫力だと思ったけど、二人の模擬戦はそれをはるかに超えていた。


 お互い一歩も引かずに攻める剣の打ち合いは迫力満点で、見ていてハラハラする。身体能力の高い吸血鬼は、一つ一つの動きが大きいのにキレがある。時には宙を舞って剣戟を避ける姿は、美しい舞を見ているようだった。


「すごい……」


 思わずでた言葉はそんなありきたりなものだったけど、それ以上に相応しい言葉が出てこないのだから仕方ない。


「どうした、シオン! 息が乱れてるぞ!」

「隊長の大剣と、まともに打ち合ってたら、こうなっても、仕方ないですよ……っ」


 均衡が少しずつ崩れ始め、ガブリエル様の大剣を受け止めるシオン様の表情に、苦しみが滲む。


「降参するか?」

「いいえ、まだやります!」


 真正面から飛び込んでいったシオン様は、剣を下から大きく振り上げた。すると地面の土が隆起して、ガブリエル様の方に前後左右から襲いかかる。飛んで回避しようとしたガブリエル様の上空には、大きく剣を振り構えたシオン様の姿があった。


「この一刀に、全てをかける!」

「ほぅ、挟み撃ちか。だが……」


 ガブリエル様は何の躊躇もせず上に飛ぶと、真っ向からシオン様の剣を受け止めて、剣ごと彼の身体を弾き飛ばした。


「そんなのありですか?!」


 よろよろと立ち上がったシオン様は両手をあげて白旗をあげた。


「降参です。やっぱり隊長にはまだまだ全然敵いません」

「シオン、考え方は悪くない。だが足止めに魔法を使うなら、不意討ちして油断した所を狙うのが常套句だ。派手なアクションを磨くのも結構だが、隠密技術をもう少し身に付けた方がいい。それと、派手に壊した地面の舗装はきちんとしておけよ」

「了解です。善処します」


 シオン様が地面に手をつくと光りだし、でこぼこと隆起していた地面が元どおり平らになった。

 魔法ってすごい!


「隊長! ご指導、ありがとうございました!」


 健闘をたたえた二人の騎士に、どこからともなく拍手がわき起こる。観衆に交えて私も拍手を送っていると、シオン様が「あー! 貴方は!」と大きな声を出してこちらに近付いてきた。


「聖女様ですよね! こんな所でお会いできるなんて光栄です! 僕、帝国騎士団第一部隊所属、銀騎士のシオンっていいます! 是非握手してもらってもいいですか?」


 意味もわからず握手を求められどうしていいのか戸惑っていると、


「こらーシオン! お前、そんな事してると後で若に絞められるぞ!」

「イタッ! ぐーはないでしょ、ぐーは!」

「驚かせてすまねぇな嬢ちゃん、このバカの言うことは気にしないでやってくれ」

「僕だって、若様の前では流石におそれおおすぎてそんな事しませんよ! 今が、千載一遇のチャンスなんですよ!」


 シオン様の首根っこを掴まえて、ガブリエル様はそのまま彼を連れていってしまった。


「何だったのかしら?」

「きっと姫様のファンなんでしょうね」

「私のファン?!」

「はい! 姫様の存在は、私達の国の希望ですから」


 フォルネウス様が唯一美味しいと飲める血を持っている。だからとはいえ、少しばかり大袈裟すぎやしないだろうか。そう喉まで出かかった言葉を、何とか飲み込んだ。

 キラキラと瞳を輝かせているご機嫌なメルムの姿を見ていたら、余計な一言で水を指すのは野暮だと思ってしまったから。


 その後私は図書館へ行く道中、度々彼等に会うようになった。


「よう、嬢ちゃん。今日も勉強かい?」

「はい、ガブリエル様は……シオン様の訓練ですか?」


 言葉を選んで尋ねた。

 ガブリエル様の足元には、大きな袋から顔だけ出したシオン様の姿がある。


「聖女様! 助けてくださいー!」


 全身をピョンピョンとはねさせて、こちらへ寄ってきたシオン様に、ガブリエル様が声をかける。


「なんだ、シオン。もう限界なのか? そんなことじゃエリート部隊にはおいとけねぇな」

「いやだな、隊長! これくらい、まだまだ余裕ですよ!」

「そうか、それなら後五週追加な」


 あ、悪魔だ……と呟きながらも、シオン様はうさぎのようにピョンピョンと跳ねて元のコースへと戻っていった。


「あの……ガブリエル様、何の訓練をなされているのですか?」

「日中でも動けるよう、光に慣れる訓練だ。あの袋には特殊な加工が施されていてな、シオンは今、全身を日光に照らされているのと一緒の状態なのだ」

「シオンさん、日光に当たって、大丈夫なのですか?」


 吸血鬼は日光にあたると体調が悪くなる。そうメルムに教えられていたから、心配になった。


「まぁ、耐性をつければ問題ない。シオンはああ見えて中々素質があるからな、こちらも鍛えがいがあるってもんだ」


 認めているからこその、きつい訓練なのだろう。

 

「シオン様、頑張って下さい」


 心の中で合掌しつつ、私はその場を後にした。

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